新生活 恵憂

春になって。お兄ちゃんがわたしの家に来ることに。来てくれて、一緒に生活するために大切なことがある。いくら私が9歳でも見られたくないものはある。

 あの日。お兄ちゃんをお兄ちゃん以上に感じてしまったあの日から、今日まで忙しなくバタバタとしていた。なによりお兄ちゃんによく思われたいがために。


 そして今日、お母さんの車で家まで来ることになっている。


 お母さんにお願いして美容院まで行った。

 お母さんにお願いして季節色のワンピースまで買ってもらった。

 お母さんにお願いして薄いメイクまでしてもらった。


 お母さんは含み笑いで、でも嬉しそうだった。「やっぱり女の子ねぇ」なんて嬉しそうに言われても、私は女だし。


 時間は朝の9時。約束の時間だ。

 正直、緊張と恥ずかしさで揺れている。兄妹として育ったときはなかった感情。いや、それ以上の感情か。それは兄に向ける感情ではないことはわかっている。


 叶わない恋だと知っている。でもせめて横にいることだけは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る