12歳のお兄ちゃん
私が9歳になった年、1件の自動車事故が起こったそうだ。乗っていたのはかつてのお義父さんだった。仕事で運転中に、運悪く、だ。
さてここで問題なのはお兄ちゃんだ。妻もいない。頼れる親戚もいない。むしろみんなでお兄ちゃんを押し付け合ってた。
お母さんが元妻だったこともありお葬式に行くことはできた。そしてそこで醜悪に満ちた大人の顔を見た。遺産が欲しい。賠償金が欲しい。子供はいらない。9歳の私でも吐き気を覚えた。
でも私を見つけてくれたお兄ちゃんは
「恵憂(えう)、きれいになったね」
って1番泣かなきゃいけない人が、お兄ちゃんが笑っていた。
そのとき胸がときめいたのがわかった。
そのときなぜ胸が苦しいのかわかった。
そのときこの世界で1番大切な人は誰かわかった。
単純にそのときお兄ちゃんに恋をしてしまったのだ。
ここからはあまり記憶にはない。お母さんから聞いた話だと、お兄ちゃんを連れて行こうとした人に包丁を向け激昂していたそうだ。でもそれを止めたのもお兄ちゃん。包丁を握って震えた両手を優しく握ってくれたことだけは今でもよく覚えている。
それでお母さんはわかったらしい。私にはお兄ちゃんが必要なのだと。
遺産も賠償金もいらない。だからこの子は、と。お兄ちゃんを引き取ってくれた。
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