3、依頼

 中央テレビ「本当にあった恐怖心霊事件ファイル」ディレクターの三津木は視聴者からのその手紙を読んで興味を持ち、調査を開始したが、すぐに「ああーー……、これだなあー……」とその怪奇現象の原因であろうある事実に行き当たり、途端にやる気をなくした。

「現象自体は面白いのに、これじゃあ、番組にはできないだろうなあー……」

 そう思いながらも、こうして頼られているわけだし、番組にできないんじゃあ迷惑でしかないが、一応「先生」に話を伺うことにした。



 霊能師、畔田俊夫(くろだとしお)宅。

 住所は東京都内であるが、東の「区」ではなく西の「市」であるこの場所は周辺に畑の広がる田舎で、新興住宅街が広がってきているが、畔田の家は昔ながらの古い家が軒を連ねる狭い路地に面して、奥まったところにある。周りよりも、狭いながらも庭があって、幾分広い。

 三津木が訪ねると

「やあいらっしゃい」

 と、畔田霊能師は黒っぽいちぢみの着物姿で出迎えてくれた。畔田は四十を越しながら独り者で一人暮らしである。

「こんな奥まったところにわざわざ来ないでも呼んでくれれば出向いたのに」

 メガネの目を柔和に笑わせて言う。三津木は「とんでもない」と恐縮する。

「それに……、これは先生に個人的な依頼と言ってもいいような物件で」

 「フム」と畔田は早くも何か察したように「ではどうぞ上がってください」と三津木を招き入れた。


 通されたのは落語にでも出てきそうな小さな居間で、一応玄関脇に接客用のこれまた狭い部屋があるのだが、知らぬ仲でもないのでこちらでよかろうと通された。もう一部屋ここよりはずいぶん広い板敷きの道場のような部屋がある。そこは神棚が掛けられ祈祷所の機能を持つが、もっぱら利用されるのは近所の子どもたち相手の習字と算数の教室で、これが畔田の主な収入元になっている。近所の奥さんたちの評判はいい。

 冷えた麦茶が出された。

 三津木は例の手紙を畔田に見せた。畔田は一読し、

「問題は家だね。今の家じゃなく、前の家だ」

 と言った。三津木はうなずき、「やはりそうですか」と言った。

「実は、その前の家の家族を調べたらこんなことが分かってしまいましてね……」

 と、三津木は「トホホ」といった形容詞が似合いそうな苦笑と共にパソコンからプリントアウトした書類を渡した。畔田は一読し、

「なるほど。さすが厚顔無恥の君でもこれは番組にはできないか」

 と笑った。

「はい。まったくおっしゃるとおりで。わたしも鬼じゃあありませんのでね」

 と、三津木も笑った。

「で、ですね。こりゃあテレビには流せません。なかなか美味しいネタなんですがね。相手がこうもはっきりしてるんじゃあねえ」

「住所も分かってるの?」

「ええ。ちゃんと健在ですよ。ですからわたしは困ってます」

 ハハハ、と畔田は愉快そうに笑った。

「けっこうじゃないか。それで、僕のところに来たのは?」

「ま、先生が一番穏便に始末してくれるんじゃないかと思いましてね。引き受けてくださいますか?」

「そりゃあね、それが僕の仕事だから。いや、お金のことじゃないよ、天分というものだ」

「お金はうちから出しましょう。ま、取材費ということで。先生には日頃からお世話になってますからね」

「それはどうもありがとう」

 畔田はニッコリ笑い、三津木もしょうがなくつき合って笑った。

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