第四章:遥かなる闇へと音も無く、白銀は月影に煌めいて/04

「兄貴……か」

 遥の説明が全て終わった頃、瑛士は最後の話……遥が実の兄を殺さねばならないという部分に反応し、僅かに表情を曇らせていた。

 ひとえに、それが兄妹の話であるからだ。妹が兄を殺さねばならないという宿命に、同じく妹を持つ兄だった瑛士も色々と思うところがあるのだろう。彼の場合は既に妹を亡くしてしまっているから、余計に…………。

「…………」

 そんな瑛士の微妙な変化に、彼の傍に居た玲奈はいつもの調子で全く気が付く様子がなかったものの。しかしカウンターの向こうで煙草を吹かす響子は、そんな彼の変化に聡く気が付いていた。

 気が付いていたが、しかし敢えて何か声を掛けることはしない。彼の過去を、事情を知っているが故に、敢えて何も言うべきではないと判断したのだ。

「さあてと。ってことで、当面はこのメンバーで進むわけだけれども。ここはお互いの親交を……といっても、瑛士たちと遥ちゃんの親交だがね。まあとにかく、親交を深めつつ英気を養う為にも、雇い主のアタシから皆にひとつ提案よ」

 だからこそ、響子はわざとこんなことを皆に告げた。暗くなっていた話題を、雰囲気をガラリと変えるような……そんな提案を皆に持ちかけた。

「ババアの提案だって?」

「……気になる。響子、聞かせてほしい」

「…………? 私も、ですか?」

 響子が投げ掛けた提案とやらに瑛士と玲奈、そして遥たち三人が各々の反応を見せる。瑛士はげんなりした様子、玲奈はいつも通りの無表情で興味津々といった風に、ぴょんぴょんと軽く飛んだりなんかして。遥はといえば、立ち尽くしたままきょとん、と不思議そうに首を傾げている。

 そんな三人の顔を一度見渡してから、響子はニヤリとして。カウンターを挟んだ向こう側に立つ三人に向かって、こんな言葉を投げ掛ける。

「なあに、チョイと豪勢なディナーをご馳走してあげようと思ってね。

 ――――――さあて皆の衆、行くとしようじゃあないか。アタシの大好物、寿司を食べにね」

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