第四章:遥かなる闇へと音も無く、白銀は月影に煌めいて/03
「遥ちゃんについて簡単に説明すると、まあ要はニンジャさね」
「ニンジャって……ババア、幾ら何でも冗談キツいぜ……?」
「論より証拠、百聞は一見に如かず。まさに遥ちゃんが天井から降ってきたこと、何より玲奈が遥ちゃんの気配を殆ど察知できていなかったこと。それが遥ちゃんが本物のニンジャである、その何よりもの証拠じゃあないかい?」
「……まあ、確かにな」
実際、それに関しては納得せざるを得なかった。
斑鳩玲奈は知っての通り、人並み外れた身体能力と鋭敏な感覚の持ち主だ。両眼ともに四・五の視力だったり、人間フェイズドアレイ・レーダーと呼べるぐらいに敏感な気配察知能力だったり。少なくとも、玲奈のそういった感覚は瑛士が想像も出来ないぐらいに鋭敏なものなのだ。
そんな鋭敏な感覚の持ち主である彼女でさえも、ほぼほぼ気付けなかったぐらいに完璧な気配の消し方。確かに瑛士にとっては、それが何よりも説得力を感じる事実だった。
何せ瑛士、玲奈が誰かの気配を察知したときに「自信がない」と言った場面に一度たりとて出くわしたことがない。
それほどまでに聡く気配を察知できる彼女でさえ、殆ど感じることが出来なかったレベルの気配の消し方だ。冗談みたいな話だが……今回ばかりは、信じざるを得ないだろう。
――――長月遥は、紛れもない本物のニンジャだ。
「んでよ、そもそも宗賀衆ってのは何なんだ?」
「……それに関しては、私の口からご説明した方が早いかと」
首を傾げる瑛士の問いに答えるのは、どうやら響子ではなく遥本人のようだ。
実際、その方が色々と分かりやすい。こういう面倒な話は本人に聞くのが一番だ。
状況から察するに、宗賀衆というのは彼女が属している忍者一門か、或いはそれに近しいもの……いわゆる伊賀とか甲賀とか、その辺の概念に近いものなのだろうが。
まあ何にせよ、本人の口から聞くのが一番早い。瑛士は跪いた格好からスッと立ち上がった遥の言葉に、黙って耳を傾けることにした。
「…………
「あー……その、なんだ。つまり伊賀とか甲賀とか、そんな感じと似たような解釈で構わないのか?」
「多少異なる点はございますが、概ねそのように解釈して頂いてもよいかと。その方が分かりやすいですし」
「オーケィオーケィ、把握した。大丈夫だ、話を続けてくれ」
「…………嘗ての宗賀衆は何処の陣営にも属さぬ一門でしたが、徳川幕府成立の折、秘密裏に召し抱えられて以降、
「へえ、スゲえ話だ……。それで? 肝心の遥はどういうニンジャなんだ?」
「
「マジかよ……。ンでだ、そんな超スゲえニンジャ・マスターの君が、どうしてまたババアに呼ばれたりなんか?」
「響子には危ないところを何度も助けて頂いています。その恩義に報いるべく、こうして私が馳せ参じた次第です」
それに、と遥は言って、やはり淡々とした口調で言葉を続けていく。
「――――数週間前のことです。貴方がたも追っている例の組織……『インディゴ・ワン』に、抜け忍となった裏切り者が……私の兄が関わっているという情報を我々は掴みました。
私に与えられた任務は二つ。その真偽を確かめること。そして、もしそれが真実であったのなら……可能であれば、兄を討伐すること。それが、私がこの場に在る理由です。
…………私自身の響子に対する借りはもとより、宗賀衆としても響子とは利害関係が一致しています。であるが故に、此度の『インディゴ・ワン』追跡に私が協力させて頂くことになりました」
――――本人曰く、そういうことらしい。
今まで出揃った奇妙奇天烈極まりない情報を整理すると、ざっくりこんな感じだ。
…………ひとつ。宗賀衆というのは戦国時代から存在している忍者一門で、今は日本政府に召し抱えられる形で極秘任務をこなしている。二〇世紀、嘗ての東西冷戦時代には東側に対する諜報活動を行っていたというから、その時点で実力としては折り紙付きだ。
…………ふたつ。遥はその宗賀衆の中でも『上忍』の肩書きを……彼女曰く、宗賀衆の中で最高の称号を得たニンジャ・マスターのようだ。玲奈でさえもが殆ど感じ取れなかったぐらいに完璧な気配の消し方からしても、その実力の凄まじさは窺い知れるというものだ。
…………みっつ。ここからが重要だ。遥がこの場に現れたこと、瑛士たちに協力する理由が二つある。
ひとつは、純粋に彼女が響子に対して借りがあるということ。詳しい事情は知らないが……どうやら過去に響子が遥の窮地を何度も救っているらしい。その時の借りを返すべく、恩義に報いるべく、こうして彼女の呼び掛けに応じて馳せ参じたようだ。
もうひとつは、宗賀衆全体としての問題だ。
曰く――――同じニンジャらしい彼女の兄が宗賀衆を裏切り、抜け忍……つまりは脱走してしまった。
その兄が『インディゴ・ワン』に関わっているという情報を、宗賀衆が掴んだ。遥の任務はその真偽を確かめ……そして、可能なら兄を討伐すること。妹である自らの手で兄を殺めることが、彼女に与えられた任務だった。
遥自身が響子に対して借りがあるし、加えて宗賀衆としても響子とは利害関係が一致している。だからこそ、こうして協力して『インディゴ・ワン』についての調査を進めていく。
――――それが、長月遥がこの場に現れた理由の全てだった。
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