第二章:プライベート・アイズ/13

 玲奈と別れ、路地裏を駆ける瑛士。全速力で走る彼を追いかける幾つもの足音と、背後から迫っては彼を掠めていく銃火。羽織る純白のパーカージャケットのすぐ傍を掠めていく拳銃弾にも恐れることなく、瑛士は路地裏を全速力で駆け抜けていた。

 時折、後ろを振り返って1911を数発ブッ放してやったりもするが、流石に全力で走りながら……しかも真後ろに向けてだと、そう簡単に当たってはくれない。精々怯ませる程度が関の山だ。

 しかし、その程度でも十分だ。怯ませて多少の距離を開けつつ、上手い具合に敵が付いて来てくれれば――――自分が目立ちまくることによって玲奈から注意を逸らせるのなら、それだけで瑛士としては万々歳なのだ。

「さあ、来いよ! 追いついてみろ!!」

 わざと挑発するようなことを叫びながら、瑛士は横丁を巧みに駆け抜けて。そうすれば、やがて広い表通りの方へ――――青山通りの方へと出て行く。

 夜になって大分人通りは減って来たといえ、それでも横丁に比べたらかなりの人通りがある。盾にするワケではないが、追ってくる連中が多少なりとも射撃を躊躇してくれればいいと……そう思って瑛士は敢えて表通りに飛び出したのだが。

「げぇっ!?」

 だが……連中は躊躇するどころか、表通りでも構わず拳銃をブッ放してきた。

 いや、拳銃どころじゃない。丁度瑛士が表通りに出た辺りで追っ手に合流してきた奴が、携えていたイングラムM11サブ・マシーンガンを腰溜めに構え、瑛士目掛けてフルオート(連射)でブッ放してくるではないか。

 流石の瑛士もこれには驚き、思わず素っ頓狂な声を上げながら横っ飛びに飛び退いてしまう。

 とすれば、イングラムの射線上の歩道を歩いていた数名の……不運にもほどがある通行人が身体を射貫かれてしまっていた。

 比喩抜きに豪雨のような勢いで飛んで来た九ミリショート弾に何度も身体を殴られ、貫かれ。不運な通行人がバタリとその場に倒れると、ズタズタになった身体とその下に出来つつある血溜まりを目の当たりにした他の通行人が悲鳴を上げ始める。

 そうすれば、夜の青山通りは瞬時に大パニックに陥った。銃撃事件、それも目の前で人間が撃たれて倒れれば、パニックに陥って当然だろう。

「畜生、なんてことしやがる……!?」

 これには、流石の瑛士も困惑を隠せない。まさか表通りで拳銃どころか……サブ・マシーンガンまでブッ放すなんて。

「流石に放っておけねえよな……!」

 そうすれば、瑛士は一旦走るのをやめてその場に立ち止まり。バッと背後を振り向くと、両手で構えた1911を迫り来る追っ手……主にイングラムを持っている奴目掛けて連射。狙い澄ました四五口径での一撃でソイツの右肩を粉砕し、ついでに胸に三発ほどキツい一撃を見舞ってやる。命中した箇所は即死という位置ではないが……しかし、放っておいてもいずれ死に至る致命傷だ。

「そこで寝てろ!」

 身体のあちこちを強烈な四五ACP弾で殴られ、持っていたイングラムを取り落としながら膝を折るパーカーの男。ソイツに鋭い視線とともに告げつつ、瑛士はまた踵を返して走り出した。

 走りながら、瑛士は空弾倉を放り捨てる。右手で新しい八発フルロードの弾倉を銃把の底から叩き込み、ホールド・オープンしていた1911のスライドを軽く引いて閉鎖し再装填。

 …………これで、ラスト一個の弾倉だ。

 だが、別に弱気になったワケじゃあない。少しばかり面倒だな、と思っただけだ。

 例え拳銃の弾がなくなろうが、やりようは幾らでもある。それに……今回の目的は敵の殲滅じゃあない、上手く煙に巻いて逃げることなのだ。であるのならば、例え弾倉がラスト一個でも上手くやる手段は幾らでもあるというもの。

「さあさあ、俺を喰いたきゃしっかり付いて来な……!」

 一瞬だけ後ろを振り向いた瑛士は、背後で拳銃を撃ちまくりながら走り、瑛士を追いかけてくる数名の追っ手の姿を見てニヤリと不敵に笑み。そうすれば彼は通り沿いにあった木の柵を乗り越え――――唐突にカフェのテラス席へと飛び込んでいった。

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