第二章:プライベート・アイズ/12
「――――出口だ!」
非常階段での激しい交戦を経て、玲奈を連れた瑛士はやっとこさオフィスビルの一階フロアに到達。裏口の非常ドアじみた小さな扉を蹴破り、玲奈とともに裏通りへと出て行く。
「チッ、まあだ来やがんのか……!」
そうして外へ出て安堵したのも束の間、オフィスビルの中や路地のあちこちからは誰かが駆けてくる大きな足音と、そして「あっちに行ったぞ!」という怒号が聞こえてくる。
どうやら、敵はまだ逃がしてくれないらしい。瑛士は小さく舌を打ちつつ、この後どうやって逃げ延びるかの算段を考え始める。
「マスター、この後は?」
「逃げるに決まってる。っつっても……このまま固まってちゃあキツいか」
玲奈に答えた後で、瑛士はうーんと唸りながら続けて独り言を呟くと。すると彼はおもむろに懐へと手を伸ばし、そこから取り出した車のキー――――愛車・NSX‐Rのキーを「ほらよ」と、唐突に隣の玲奈へと投げ渡す。
「マスター、これは……?」
飛んで来たキーを受け取った玲奈が、手のひらに収まったそれに視線を落とし、不思議そうに首を傾げる。
「敵にこのまま追ってこられるとマズい。かといって全員を馬鹿正直に相手してやれるほど、俺たちの弾数にも余裕はない」
「……つまり、僕に車を運転しろって、マスターは僕にそう命令したいの?」
「チョイと違うが、まあ似たようなモンだ」
首を傾げる玲奈に瑛士は頷き返し、条件付きながら一応の肯定を示した。
――――瑛士の考えはこうだ。
オフィスビル内での度重なる交戦で、瑛士も玲奈もかなりの弾薬を消費してしまっている。あのビルの中だけでも三十人近く……いや、もっとか。かなりの数の死体を積み上げただけあって、二人とももう残弾数は心許ないのだ。
でも、敵はまだまだやって来る。一体全体、この連中の雇い主は何十人雇ったのかと……思わず正気を疑いたくなるような量だ。これだけの連中を馬鹿正直に相手に出来るだけの残弾数はもう無いし、かといって無策に逃げて、そのまま尾行されてしまっては困る。
だから、瑛士はここで二手に分かれ、まずは玲奈に車を確保して貰おうという算段だった。
「……
その代わり、玲奈が車を取りに行っている間は自分が敵の注意を引き付ける。出来る限り敵の数を減らしつつ逃走し……上手いタイミングで玲奈と合流し、この場からオサラバする。それが瑛士が導き出した、この状況を打破する為の最善の策だった。
「でも、マスター」
「俺なら心配要らねえよ。流石にビルの中でどうこうってのはキツいが、街に出ちまえばこっちのモンだ。裏口、表通りの群衆、混乱……何もかもが利用できる。街中なら戦いようは幾らでもあるってモンよ」
無表情の中で微かに感情を揺らし、何処か心配そうな視線を送ってくる玲奈に瑛士はニヤリとしてそう返すと。その後で、彼女に対してこうも言った。
「大丈夫、上手くやるさ。……じゃあ玲奈、緊急時の合流ポイントは覚えてるな?」
コクリ、と頷き返す玲奈。その仕草を肯定の意と取った瑛士は「オーケィ」と満足げに頷き、
「よし、じゃあ合流ポイントで落ち合おうぜ」
それだけを告げて、1911片手に瑛士は駆け出していってしまう。立ち尽くす玲奈をその場に置いて、敵の注意を引き付けるべく――――わざと、敵の気配がする方向に向かって。
「……気を付けてね、マスター」
そんな彼の背中を見送りながら、玲奈はポツリと呟いていた。
すると瑛士は一度立ち止まり、彼女の方を振り向いて……微妙な苦笑いを浮かべながら、こんな言葉を返していた。
「だから、マスターはよせっての」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます