第二章:プライベート・アイズ/10
――――真夜中の南青山に、二つの銃声が重なって木霊する。
ひとつは瑛士の放った四五口径ACP弾、もうひとつは玲奈の三五七マグナムが奏でた雷鳴が如き強烈な銃声だ。
振り向きざまに二人が放った銃弾。けたたましい銃声が摩天楼の間に反響するのとほぼ同時に、彼らの真後ろ――――大きな換気ダクトの陰に隠れ、瑛士たちを奇襲する機会を窺っていた二人の男。そんな二人の眉間が一瞬で吹き飛んでいた。
「俺が右を!」
「……だったら、僕が左の二人を」
そうして振り向きざまに二人を射殺すると、瑛士と玲奈は立ち上がり。驚いた顔で屋上の物陰から顔を出す、残っていた刺客四人へと瞬時に狙いを定める。
瑛士が1911を連射して二人を始末し、玲奈が狙い澄ました一撃で残る二人の眉間を正確に撃ち抜く。
瑛士の方は一人につき胴体に二発、頭に一発をブチ込んで確実にトドメを刺していくが……玲奈の方はたった一発で正確に撃ち抜いてしまう。手数の上で圧倒的に不利な回転式を使いこなすリヴォルヴァー使いだけあって、彼女の銃捌きには何ひとつ無駄がなかった。
「とりあえず、これで片付いた」
「でも玲奈、まだ来るんだろ?」
そうして二人で、屋上で息を潜めていた六人の敵を一瞬の内に仕留めてしまうと。小さく息をつく隣の玲奈に瑛士が問う。
すると、玲奈は「うん」と頷き、隣の彼を小さく見上げながらでこう答えた。
「ビルの中に、十五人ぐらいは居る感じがする。……今の銃声を聞いて、こっちに向かってきているみたい」
「随分と熱烈な歓迎だことで……泣けてくるな、マジに」
「……どうする?」
「逃げるっきゃねえだろ。どういう理由かは知らねえが、こっちの居場所はバレてるんだ。それに俺たちの側から派手に口火を切っちまった以上、例の霧島っつー野郎の監視はもう続けられない」
言いながら、瑛士は左手の1911を軽く横に振り、遠心力を使って空弾倉を放り捨てる。八発装填の弾倉だが、最後の一発は既に薬室に装填されているから、弾倉の中はもう空っぽなのだ。
そうしてから瑛士は右手を腰の弾倉ポーチに伸ばし、新しい八発フルロード弾倉を掴み取ると、それを銃把の底から叩き込む。その後でほんの僅かにスライドを引いて、薬室への装填状況も確認しておいた。念には念を入れて、という奴だ。折角弾倉交換をしても、イザ敵と相対した時に未装填で撃てませんでした……じゃあ洒落にならない。
「……じゃあマスター、逃げよう」
コクリと頷く玲奈も、開いたマニューリンのシリンダー弾倉から器用に空薬莢だけを摘まんで捨て、新しい三五七マグナムの実包をパチパチと詰めている。
カチン、と小さな金属音を立てながら彼女がシリンダー弾倉をマニューリンのフレームに戻したのを横目に見て、瑛士は玲奈に「ああ」と頷き返す。
「三十六計逃げるに如かず……だ。今日のところは退散するとしようぜ」
「……了解、マスター」
瑛士と玲奈、二人は揃って屋上の出入り口……非常階段へと通ずる鉄扉の方へと歩いて行く。
鉄扉の前で最後に無言で頷き合い、そして扉を開き。瑛士が先陣を切る形で、玲奈と二人で階段を駆け下り始めた。
階段の下からは、何人もの男たちが大きな足音を立てながら駆け昇ってくる気配が伝わってくる。南青山の片隅にあるオフィスビル、そこからの撤退戦は……どうやら、一筋縄ではいきそうになかった。
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