第二章:プライベート・アイズ/07

「美味しいね、マスター」

「ああそうかい、ソイツは何より……」

「やっぱり、自分で作った料理は美味しい。マスターもそう思わない?」

「全くだ……手間ばっか掛かったからか、涙が出るぐらいに美味いぜ……」

「うん、美味しい」

 ダイニング・テーブルを対面になって座る二人。無表情ながら、純真で無邪気な顔で嬉しそうに料理を頬張る玲奈の言葉に、瑛士は皮肉交じりの呟きで返していた。

 そんな瑛士、ドッと疲れたような顔をしている。普段の三倍ぐらいは疲れたような顔だ。完全にやつれているといった言い方が相応しいような、そんなグロッキーな顔で彼は箸を動かしている。

 まあ、疲れ切っている原因は先に述べた通りだ。玲奈の無垢にも程がある魔の手を退けて、夕飯をまともな形に仕上げる為に瑛士が費やした労力は並大抵ではない。こんな風にやつれた顔になるのも、さもありなんという奴だった。

 ちなみに、本日の夕飯は和食メインの献立だ。肉じゃがやら鮭の塩焼きやら、そんな感じのメニューが本日の津雲家の夕飯だった。

「……なあ、玲奈」

 そうして二人でダイニング・テーブルに対面になって座り、割に豪勢な夕飯に箸を伸ばす中。瑛士はふと今更ながらに気になって、何気なく対面の玲奈に話しかけてみる。

「なに、マスター」

「いい加減によ、制服以外にマトモな服を買ったらどうなんだ?」

「……なんで?」

 きょとん、と意味が分からないといった様子で首を傾げる玲奈に、瑛士はやれやれと溜息交じりに肩を竦める。

 ――――そんな玲奈、当然ながら今も学園のブレザー制服を身に纏っている。

 彼女、制服以外を頑なに着ようとしないのだ。何処へ出掛けるにも、スイーパーとしての仕事の時だって学園の制服。夏服や洗い替えこそ何着か持っているものの、玲奈は白鷺学園の制服以外を絶対に着ようとはしなかった。

 別に服装ぐらいは個人の自由なのだが、しかし制服だけというのは色々な意味でどうかと思い、瑛士は前にも何度かこういう話題を振っているのだが……まあ、結果の方は今のこの反応からお察しだ。

「なんで、って……玲奈も、どうせなら可愛い服とか着てみたいだろ? フリフリの奴とかさ、ミニスカートなんか履いちゃって」

「別に、必要ない。僕には制服で十分だから」

「そう来ると思ったよ……」

 真顔で首を横に振る玲奈に、瑛士が全力で呆れ返る。

 一応言ってみたといえ、予想できていた回答だけに……瑛士の反応も、分かっていたが故に呆れ返ったといった風な調子だった。

 とまあ、そんな具合の取り留めのない会話を、いつものように二人で交わしながら――――割に和やかな内に、二人は本日の夕飯を平らげていった。

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