第二章:プライベート・アイズ/05

 その後暫くは二人で拳銃を撃ちまくってトレーニングを行い、地下射撃場から出た後も使った銃のメンテナンスやら諸々をしていて……そうしている内に、いつの間にか陽が落ちていて。何だかんだと、いい具合に腹の虫が鳴る時間になってしまっていた。

「……晩飯にするか」

 二階フロアの自宅、リビングルームのソファで愛用のシグ・ザウエル1911を分解状態から組み上げながら、瑛士が対面に座る玲奈に提案する。

 すると、玲奈も自分のマニューリンを組み立て終わっていたところで。彼女は手元の愛銃から外した視線を瑛士の方に向けると、コクコクと頷いて了承の意を示す。

「今日はお外で食べるの? それとも、お家で?」

 続けて彼女に問われ、瑛士はうーんと唸って思い悩む。

 そうして唸ること数秒、瑛士が導き出した答えは――――。

「……外に出るのも面倒だし、このまま家で食おうぜ」

 ということで、大変に無精な理由から、今日の夕飯は自宅での自炊ということになった。

 少しした後、銃を置いた瑛士はキッチンに立っていた。当然、ガンオイルに塗れていた手はちゃんと洗ってある。

「っつってもなあ、食材の方は……無くはねえか」

 冷蔵庫の中身を検めつつ、瑛士が独り言を呟く。どうやら、家にあるだけの食材でどうにか夕飯は賄えそうだ。

(昔は、未沙によく作ってやったっけか)

 そうしてキッチンに立ち、冷蔵庫から取り出した食材を包丁片手にまな板の上で切り刻みながら……瑛士は独り、胸の内でそんなことを何気なく思っていた。

 昔――――まだスイーパーになる前の話だ。昔はよく、瑛士は妹の未沙に……津雲つぐも未沙みさの為によくこうして料理を振る舞ってやっていた。美味しいと言って、嬉しそうな顔で自分の料理を食べる妹の顔が、瑛士は何よりも好きだったのだ。

 そんな昔のことを、キッチンに立つ瑛士は何気なく思い出してしまっていた。在りし日の、決して戻ることのない、掛け替えのない日々の記憶を………。

「マスター、マスター」

 瑛士がそんなことを何気なく思い出していれば、いつの間にやら彼の傍に立っていた玲奈がそう、瑛士の服の裾をちょいちょい、と引っ張りながら呼び掛けてくる。

「どうした、玲奈」

「僕も、料理作るの手伝う」

「……マジで?」

「うん、まじ」

 ギョッとする瑛士に、玲奈はいつも通りの無表情でうんと頷き返す。

 ――――斑鳩玲奈は、戦いの技術だけで言えば間違いなく超一流だ。

 その腕前、下手をすれば……いいや、下手をしなくても能力的には瑛士の遙か上を行っている。その特異すぎる生い立ちもあって、彼女は生まれながらの戦士。そういう意味で、戦闘技術の面ではもう瑛士とは完全に次元が違うのだ、彼女は。

 そんな玲奈だが、仮に戦いの技術は超一流であっても、料理の方は……その、アレだった。

 故に、瑛士は大変微妙そうな苦い顔を浮かべているのだ。

 出来ることなら、玲奈をキッチンに立たせたくはない。下手をすれば、比喩抜きにキッチンが派手に吹き飛ぶレベルで料理が下手くそなのだ、玲奈は。

 だから瑛士としては、可能であれば彼女には大人しく座って待っていて欲しかったのだが…………。

「…………」

「そんなに、やりたいのか?」

「うん」

 当の玲奈本人といえばこの調子で、自分も料理を手伝うと言って聞かない。

 瑛士の顔を見上げてくる、今の玲奈の顔は……どう見たって譲らないといった感じの顔だ。

 玲奈は時折、こうして頑固な部分を見せることがある。リヴォルヴァー拳銃しか信用出来ないと言って聞かないのと同じなのだが、こうなると玲奈はテコでも動かない。瑛士が何を言ったって聞かないのだ、こういう顔をしている時の玲奈は。

「はぁーっ……しゃーない、分かったよ玲奈。手伝ってくれ」

 だから、瑛士はこれ以上の抵抗は無意味と判断。玲奈の頑固さに折れてしまい、仕方なしに彼女に夕飯の支度を手伝って貰うことになった。

「……ほんと?」

「ホントだ」

「……そっか。うん、ありがとうマスター」

「へいへい……」

 やれやれといった風な態度の瑛士だが、しかし無表情ながらも何処か嬉しそうな、無邪気そのものな玲奈の顔を見ていると……彼自身も気付かぬ内に、自然と表情が緩んでしまっていた。

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