第一章:二人のスイーパー/07

 そうして二階フロアの自宅に戻り、暫く時間を潰した後――――夕暮れ時。

 日中をダラダラと過ごしていた瑛士はまた家を出ると、再びNSX‐Rを駆って街に繰り出して。そうすれば、朝も訪れた白鷺学園の校門前へと純白のマシーンを横付けさせていた。

「…………」

 校門のすぐ目の前、路肩に停めたNSX‐Rの白いボディに両手を突いて軽く寄りかかりながら、瑛士はただ黙って彼女・・の帰りを待っていた。

 そんな彼の周りには、既に大勢の学園の生徒たちの姿がある。皆、家に帰っていく者たちだ。部活がたまたま休みの者、或いは部活をサボった者。そもそも帰宅部だから部活という概念そのものが存在しない者など……事情はそれぞれだが、共通することは皆、我が家に帰ろうという確固たる意志の元、夕暮れ時の帰り道を歩いていることだ。

 勿論、そんな帰宅途中の生徒たちは、校門のすぐ傍に車を横付けし、今日も今日とて玲奈を待っている瑛士の方をチラチラと見てきている。

 今となっては、こんな彼らの視線にも慣れたものだ。校門前にド派手な改造スーパー・スポーツを堂々と横付けして、お人形のように可愛らしい銀髪少女を毎日のように送り迎えしているともあれば……覚えられて当然というか、彼らの印象に残って当然だろう。

 だから、瑛士も最初こそ浴びる視線にむず痒さみたいなものを覚えていたのだが、しかし今となってはまるで意に介する様子が見られない。要は慣れだ。やはり、人間の慣れというものは怖いものだ…………。

「……来たか」

 そうして待つこと暫く。瑛士は漸く、校門の向こう側――――遠くからこっちに向かって歩いて来る彼女の、玲奈の姿を見つけていた。

 すると、向こうも同じタイミングで瑛士のことを見つけたのか、互いに目が合った途端に玲奈はとてとてと小走りで瑛士と、NSX‐Rの方まで近寄ってくる。

「マスター、待った?」

 そうやって互いに接近すれば、小さく上目気味に見上げてくる玲奈の口から飛び出してきた第一声がこれだ。瑛士は辟易したようにやれやれと肩を揺らしつつ、皮肉っぽい調子で眼下の彼女に言葉を返してやる。

「見ての通りだ、気にするなよ。デートで美女を待つのもイイ男の義務って奴さ」

「美女……僕が美女、ふふっ……」

「分からなかったか? 単なるお世辞だ」

「……マスター、そういう意地悪なところは直すべき」

 最初こそ美女扱いされて静かに喜んでいた玲奈だったが、しかし瑛士がド直球にお世辞だと皮肉ってやれば、途端に玲奈はぷくーっと膨れっ面になる。尤も、彼女と関わりの浅い人間にはとても分からないほどの、微細な表情の変化ではあったが。

「善処するさ」

 そんな膨れっ面の玲奈を適当にあしらいつつ、適当極まりない言葉ではぐらかして。その後で瑛士は今までの皮肉屋みたいに軽薄な表情を消すと、少しだけシリアスな表情になって玲奈に囁きかける。

「……さてと、乗ってくれ玲奈。ババアが俺たちを呼んでいるみたいだ」

「響子が……?」

「そうらしい。俺も少し前に蒼真から聞いたんだ。詳しいことは知らねえが……ま、ババアが俺たちをご指名ってのは事実だ。百聞は一見に如かず、とにかく行ってみるとしようぜ」

「ん、分かった」

 ボディに寄りかかった格好から身体を離し、そのままの流れで助手席側のドアを丁重に開けてやり、玲奈を助手席に乗せてやる。

 バタンとドアを閉じれば、瑛士はすぐさま運転席側に周り。自分もまたNSX‐Rにサッと乗り込むと、エンジンを掛けて車を発進させた。

 そうして放課後早々、瑛士が玲奈を連れて向かう先は……とある場所だった。

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