第一章:二人のスイーパー/03
朝食を食べ終えた瑛士は一旦玲奈と別れ、自室に戻り。寝起きの雑な格好からいつもの黒いTシャツと履き古しのジーンズといった格好に手早く着替える。
そうしてから、最後にクローゼット……ではなく、デスクの前の椅子の背もたれへ雑に被せておいた白いパーカージャケットをTシャツの上から羽織った。赤色がワンポイントのアクセントで入った白いジャケットは、気に入って何の気なしに普段から着ていたのだが……最近では半ば瑛士のトレードマークのようになりつつある。
パーカージャケットを羽織り、ジーンズの左腰の内側にインサイド・ホルスターを括り付ける。拳銃の秘匿携帯用に使うホルスターだ。
そうすれば瑛士は、デスクの上に置いておいた小さなグロック30の自動拳銃を手に取り、弾倉と薬室の装填状況を確認。弾倉に十発フルロード、薬室に未装填であることを確認してから、一度スライドを鋭く引いて四五口径ACP弾を装填。最後にもう一度、スライドを小さく引いて装填を改めて確認し、瑛士はそのグロック30を左腰のインサイド・ホルスターに収めた。
気合いを入れて殴り込む時には、シグ・ザウエル1911‐
それ以外に携帯するものといえば、当然のようにスマートフォンと、左手首に巻くロレックス・サブマリーナの腕時計。後は現金に車のキーと、ベンチメイド・アダマスの折り畳みナイフぐらいなものだ。
アダマスは所謂スウィッチ・ブレードという奴で、バネ仕掛けでバチンと自動的に開くタイプの折り畳みナイフだ。本来ならば、規制の厳しい日本国内だと合法的には所有できない品ではあるが……まあ、拳銃を持ち歩いているのだから今更という奴だろう。
「…………」
そんなベンチメイド・アダマスをジーンズの左ポケットに突っ込み、身支度を終えると。瑛士はおもむろに胸元、Tシャツの内側に手を伸ばし……そこに首から吊り下げていた、小さな金のロザリオをそっと手に取って眺める。
このロザリオ、彼が肌身離さず身に着けている物だ。今は亡き最愛の妹がたったひとつ遺してくれた、彼女の形見のようなロザリオ。手のひらに乗せたそれに小さく視線を落とすと、瑛士は少しの間、ぼうっとそれを眺めていた。
「……行くか」
そうして眺めること数分。独り言を呟いた瑛士はロザリオをまたTシャツの内側へ隠すように戻すと、首元を伝う金のチェーンをそっと指で撫でて。うんと伸びをした後で、自室を出てリビングルームに戻っていく。
「玲奈、用意出来たか?」
「ばっちり」
リビングルームに戻っていくと、重たそうなスクールバッグを肩に掛けた玲奈が待ち構えていた。
まあ、彼女に関しては瑛士が起きた時からずっと学園のブレザー制服を着ていたから、身支度自体はすぐに終わったのだろう。待ちくたびれたといった様子で玲奈はとてとてと瑛士の傍まで歩いて来ると、左腰の辺りをサッと捲って、そこに仕込んだ物を瑛士に見せつけてくる。まるで、幼児が親に支度が出来たことを確認しろと言わんばかりの仕草で。
――――キンバー・K6S。
やはり彼女もスイーパーらしく、制服スカートの左腰内側へ器用に取り付けたインサイド・ホルスター。そこに差していた物は、ステンレスの肌が銀光りする小振りなリヴォルヴァー拳銃だった。
サイズはS&Wのリヴォルヴァー拳銃で例えれば、モデル36チーフ・スペシャルのような……所謂Jフレーム規格と大差ない大きさの、要は携帯に適した小さい物だ。撃鉄も外部に露出していない内蔵式で、その為に引っ掛かる突起物が少ない滑らかなデザインなのも、地味にだが携帯性を高めている。
だが、幾ら小型リヴォルヴァーといえども、このキンバー・K6Sに限っては決して侮れない火力を有している。
何せ強力な三五七マグナム弾が六連発だ。普通、このテの小型リヴォルヴァーなら大抵は五連発なのだが、K6Sに関しては小型軽量ながら六連発を実現している。玲奈がこのキンバーをチョイスしたのは、この辺りの優位性があってのことだろう。
――――閑話休題。
とにもかくにも、制服姿の玲奈も瑛士同様、拳銃を隠し持っているというワケだ。他には愛用のイタリア製折り畳みナイフ、エストレイマ・ラティオMF2もどこぞに隠し持っているのであろうが……まあ、そこは敢えて気にすることでもないだろう。
「んじゃあ、行くか」
「うん、マスター」
「……だから、マスターはやめろって」
いつも通りの呼び方に瑛士は肩を竦めつつ、玲奈とともに玄関に移動し。瑛士は愛用のローカット丈のタクティカルシューズを、玲奈は四〇デニールぐらいの黒タイツに包んだ足に学園指定のローファー靴を履き、そのまま二人揃って玄関の外へと出て行く。
平日のこんな早朝に外出する二人の目的地は、当然ながらひとつだけ。玲奈の通う学園――――私立・白鷺学園だ。
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