《どうやら事態が動きだしたらしい》

◆セレナ

いよいよ、キースさんとの試合が始まる。去年はお互い4年生に負けて同率3位だった。お互い2年生の時から代表に選ばれて実力もほぼ同じ事からライバル扱いされてきた。


確かに2年生の時は実力は同じだったかもしれない。けれど、私もこの2年間で強くなった。正直言えばキースさんには悪いけど今では私の方が確実に強いと言える。


お互い今年で4年生。最後こそは戦ってどちらが上か決めたいと思っていた。それはキースさんも同じかもしれない。私には事実上の決勝戦。彼に勝てば後はゾランさんかミーナさんとの決勝だけど負ける気はしない。


向かいの入口からキースさんが入ってくる。彼は私を見て笑っている。多分、私も同じかもしれない。いよいよ、試合が始まる。


「始め!」


審判の合図に反応して素早く空気の球を放つ。しかし、キースさんが同じく空気の球で応戦する。すかさず、氷の礫を放つキースさん。私は目の前に炎の壁を作り防ぎながら自分が見えない様にする。


キースさんに見えない位置から攻撃する。彼の攻撃も飛んでくるが私には当たらない。やっぱり私と彼では既に勝負にならないかもしれない。


炎の壁が消えるとキースさんが見えた。彼は私を見て驚いている。正確には私の前に浮かぶ風の槍。彼なら知ってる筈だ。私の得意な風魔法の中でも一番得意な魔法。さらに、槍には炎が纏われている。


最近になってやっと出来る様になった複合魔法の炎風槍。複合魔法は凄く難しいけど今の私なら何とか使いこなせる。それを私が作れる限界の5発、キースさんに向けて放つ。


彼は自分に向かってくる炎風槍を氷で止めようとするが、それでは止まらない。彼が氷魔法が得意なのは知ってるからこその炎風槍なのだ。氷は炎で溶かされ威力を弱める事は出来ても止める事が出来る筈はない。


キースさんは焦ると得意な魔法で何とかしようとするのは以前から変わらない。慌てて氷の山を作って逃げているが、あれは数秒なら私の意思で操る事が出来る。氷を貫いた槍がキースさんに迫る。


「なに!?」


躱しきれなかったキースさんに魔法がぶつかりそうになる。流石に試合で相手を死なせる訳にはいかないから直前で地面に当てる。あの距離なら直撃しなくても余波だけで十分でしょう。煙で見えませんが私の勝ちです。


「審判。判定をお願いします。」


私は驚いている審判に声をかける。声をかけると審判が私を見て頷いた後、私の勝利を宣言しようとする。その時、


「まさか、ここまで力をつけているなんてね。」


煙で見えないけどキースさんの声が聞こえてくる。おかしい。あの距離で防御する暇もなく攻撃を食らえば無事で済む筈がない。少なくとも気絶はする筈なのに。


「どうやら、君に勝つことは無理そうだよ。始めるのは君との決着をつけてからがいいと言ったのは僕の我が儘だから、まあ仕方ないか。」


煙が晴れてくると彼の姿が見えてくる。嘘!?全くの無傷!?


良く見ると彼が持っていた杖の先端が光っている。あれは魔道具?


「あなた、試合に魔道具を持ち込んだの?魔道具の使用は禁止の筈よ?そうなると、試合は私の勝ちですよね?」


私はそう言って審判を見る。審判も頷いてくれる。


「試合は僕の負けで構わないさ。それに今から試合どころじゃなくなるしね。」


彼はそう言って懐からネックレスを取り出す。


「まずい!それを使わせるな!」


突然、観客席から賢者リディア様の声が聞こえてくる。その時、キースさんの持つネックレスから闇が溢れだした。





キース対セレナの試合が始まった。どちらが勝つのか分からないが実力は同じくらいじゃないかな。そう思って見ていた俺だがセレナの方が強かった。


セレナが使っている複合魔法。あれは、俺も本で読んで覚えたが普通はセレナぐらいの歳で覚えられる技術ではないだろう。俺も使えるかはわかんない。セレナも天才の部類なのかもしれない。


セレナの攻撃がキースに当たり、舞台が煙に包まれる。これは決着かな?セレナの姿が見えるがキースはまだ見えない。セレナが審判と何か話している。


セレナと話していた審判がキースの負けを宣言しようとしたその時、キースが無傷で立っているのが見えた。マジかよ!?あの攻撃で無傷なのか?


俺が驚いているとセレナがキースを批判している。反則?どうやらキースが魔道具とやらを使ったらしい。周りの観客も魔道具は反則だと騒ぎ出している。


確か、魔道具ってのは魔法を発動出来るアイテムの事だよな?自分が使えない魔法でも魔道具に込められた魔法次第で使えるっていう。それでセレナの攻撃を防いだのか?


周りが騒ぐなかキースとセレナが何かを話している。どこかキースの様子がおかしい気がする。すると、キースが懐から何かを取り出す。ネックレス?何故かそれを見た瞬間に全身に寒気がした。あれも魔道具か?


「まずい!それを使わせるな!」


リディアの叫ぶ声が聞こえてくる。どうやらリディアも何かを感じたのかも知れない。だが、リディアの叫びも虚しくキースがネックレスを発動させてしまう。


「「ゴアアアアッ!」」「「ギギッ!」」「「ドラアアアアッ!」」


ネックレスから溢れた闇から魔物が複数現れる。キースはネックレスを地面に投げるとネックレスから離れている。闇はどんどん広がり魔物が続々と現れてくる。会場はパニックだ。


「「ドオオオオオオンッ!!」」


その時、街の方から爆発音が聞こえて来て大地が大きく揺れた。俺は数日前の街で聞いた会話を思い出す。あの時聞いた何かの計画。


あれはこの事だったのか!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る