《どうやら怖がられているらしい》
授業に参加する為に俺が訓練場に姿を見せると一斉に視線を反らされた。
思っていたリアクションとは違ったけど騒ぎにならないのなら気にしない事にして俺も授業に参加させて貰う。
参加って言っても素人の俺が混ざっても邪魔になるだろうから教師に頼んで隅の方で彼に軽く教えて貰う事にしたんだが最初から彼の様子がおかしい。やけに震えていた。
「うわー。負けました!いや、お強いですな。素人とは思えない!もう、私に教えられる事はありません。どうぞ、今日はこれくらいにして理事長室に戻られてはいかがですか?」
軽く剣の振り方を教えて貰ってから剣を合わせてみる事になったんだが彼は直ぐに負けてくれて俺を称賛してくる。
正直、気持ち悪い。筋肉ムキムキのハゲが物凄い笑顔で煽てて来るのだ。しかも、何故かやたらと帰らせようとしてくる。
「いや、まだ続けたい。さっきから手加減してるの分かってるから!もう少し、ちゃんと教えてくれないかな?」
俺が、少し戸惑いながら言うと教師はビクッとして土下座した。
「す、すみません!ちゃ、ちゃんと教えさせて頂きますので殺さないで下さい!」
そんな事を言って地面に頭を擦り付ける教師の姿に周りの視線が俺に集中する。俺が困惑して周囲を見渡すと生徒達はすぐに目を反らしてしまう。
何でこんな怖がられてるんだ?ミーナ達の話じゃ怖がられてる様子は無かったのに。
「あ、あの。とりあえず、頭を上げて下さい。っていうか立ち上がって欲しいんだけど。」
俺がそう言うと即座に立ち上がる教師。しかし、その顔は蒼白で足も震えている。物凄く怖がられてる。
「あ、あの。何でそんなに俺の事を怖がっているんですか?正直、俺の方がこの状況が怖いんだけど。理由を教えてくれない?」
正直、今すぐ理事長室に帰りたい気がしてくるけど理由は知っときたい。俺は震えて視線を合わせようしない教師を問い詰める。
「ひっ!?すみません。すみません!話しますので殺さないで!」
そう言って再び土下座しようとする教師を止めて顔が引きつるのを我慢して理由を聞く。
「その、理事長から絶対に怒らせてはならない人物が授業に参加するって言われて。怒ったら自分でも止められないから怒らせないように気をつける様に言われました。殺されるからって。」
うん?
「あの、理事長がそんな事を言うなんて普通じゃあり得ない。そんな危ない人物の相手をするのは嫌だって言ったのに理事長が無理矢理。ちくしょう、何で俺がこんな目にあわなきゃいけないんだよ。」
後半は俺に聞こえない様に小さな声で言ったんだろうけど聞こえてしまった。
つまり、どういうつもりか知らないけどリディアから俺の事を聞かされて怖がってるって事か。そして、この教師が生徒達にも伝えたと。
俺は周囲を見渡す。教師と俺の様子を見ていた生徒達が一斉に目を反らすが中には泣いている生徒もいる。俺は何にもしてないんだけど?
ふと、ミーナとルナに視線を向けると二人は他の生徒から話を聞いたのか苦笑いしている。はあ。仕方ない。
「あの、何にもしないから立って下さい。このまま俺が居たんじゃ授業にならない様なので俺は戻りますよ。ご迷惑をおかけしました。」
俺は地面に座り混んでいる教師にそう言って理事長室にさっさと帰ってリディアが戻って来るのを待つ事にした。
夜になってリディアが戻って来た。馬に戻っている俺はリディアに昼間の事を怒りながら聞いてみたがリディアは俺が何で怒ってるのかわからないらしい。
「君は昨日ミーナと出掛けた時に周りの視線が集まって迷惑したって言ってただろ?だから授業に参加している間も視線が集中したら嫌だろうと思って担当教師に少し嘘の忠告をしただけだが?まあ、確かに大袈裟な言い方をした気もしない訳ではないが。だが、お陰で視線は集中しなかっただろ?」
何が悪いんだ?と何も分かってなさそうなリディア。
確かに視線は集まらなかったけど。でも、怖がられ過ぎて授業にならなかったけどな。教師に土下座されるなんて初めての体験だぞ?もう、怖がられ過ぎて居心地が悪かったから途中で止めて帰って来たんだからな。
俺は悪くないのに何故か凄く悪い事をした気分になった。俺がそう言うとリディアが何かを思い出した様に手を叩く。
「なるほど、そんな事になってたのか。道理で私が戻って来た時に担当の教師が職員室で死んだ目をしていた訳だ。まさか、そこまで怖がってるとは予想外だった。」
死んだ目?何で?
「君が途中で帰ってしまったから怒らせてしまったとでも勘違いしているんだろう。まあ、明日にでも私から謝っておこう。」
ああ。俺が帰ったから勘違いさせちゃったのか。ちゃんと言ってから帰って来たんだけどな。とりあえず、後の事はリディアに任せよう。
◆2日後
今日から学園対抗試合が始まる。ミーナ達、生徒はリディアに連れられて町の外れにある会場に移動して行った。会場は他の学園の生徒や保護者達などが既に集まっているらしい。
俺はひとまず、会場の外にある小屋でシンディーと一緒に会場の外に写し出されている映像を眺めている。試合の様子を外に設置した魔道具から空中に写し出す事が出来るらしい。
俺はミーナの試合が始まる前に会場に入るつもりだから暫くは外から他の試合を見る。
観客席を写し出していた映像が切り替わり出場選手達が丸い闘技場の中に入場して来る。リディアの話だと出場選手は全部で32名で今日はベスト8まで決めるらしい。
各学園から8名ずつ選手が選ばれている。今回は周辺の3か国からしか参加していないとリディアは言っていた。
選手達の入場が終わり、選手達の前の壇上にリディアが上がって来た。
「さて、今回は参加する学園は少ないが出場選手は各学園の精鋭が集まっていると聞いている。勿論、私が応援するのは自分の学園だが優勝者が誰になるかは誰にも分からない。皆が日頃の訓練の成果を発揮できる事を期待してる。明日にはナダル王もやって来るから頑張ってくれ!」
リディアが挨拶を終えて壇上を降り、選手達は2人だけが残り他の選手は控え室に下がって行った。いよいよ、試合が始まるらしい。
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