《どうやら噂になっているらしい》

ミーナと出掛けてから数時間後。


夜中に俺は1人で町の中を歩いていた。町には明かりが少なく家から漏れる明かりや月の光だけが道を照らしている。


数時間しか人になれない俺は魔法に慣れる為に練習がてら散歩に出てきた。腰には一本の剣をさしている。


何故、剣を持っているのかと言うと冒険者の雰囲気を味わいたいから。折角、魔法や剣のある異世界に来たのに馬に転生した事で冒険なんて出来なかった。


これからも、こんな機会は多分ないだろう。だからリディアに頼んで剣を一本貸してもらい町の中を歩いてみた。外には出れなくても剣を持っているだけで自分が冒険者になった気分になれた。


リディアには冒険者の雰囲気を味わいたいって言ったら珍妙な者を見るような顔をされたがな。


町の中をブラブラする。夜中だから人は少なく昼間の様に視線が集中するような事もない。昼間は理事長室に戻るまで視線が集中して疲れたからな。


行くあてがある訳でもなく町の中を歩いていると夜中なのに騒がしい場所に着く。どうやら酒場の様だ。


中からは酔った客の楽しそうな笑い声が響いてくる。


「楽しそうだな。今なら少しお金を持ってるし入ってみようかな?少しなら酒を呑んでも誰にも怒られないだろ!」


楽しそうな声に誘われ酒場の中に入ってみようとするが、酔ったりしたら魔法が解ける可能性がある。そんな事になったらパニックになりそうだな。


「やっぱり止めとこうかな?そもそも、未成年だし。ん?」


酒場に入るのを躊躇していると声が聞こえてくる。酒場から少し離れた路地からだ。


「いいか・・3日後・・・開始・・・我が国・・・」


途切れて聞こえてくる声が気になり路地を覗いてみると2人の男が話をしていた。


「これを使えば混乱が起こる。作戦の成功は貴様にかかっている!失敗したら命はないと思え!」


「はい!必ずお役に立って見せます!」


何か物騒な話をしているな。2人とも顔は見えないが1人は声からして若い男だろうな。もう1人の男がネックレスを渡している。


「誰だ!?」


俺が隠れて覗いていると視線に気づいたのか、もう1人の男が俺の方を見て叫ぶ。若い男の方はフードを被ると路地の奥へと消えていく。


幸い、暗いから俺の顔は見られていない。もう1人の男が俺の方へと向かってくるから俺は急いで路地から離れ学校へと戻る。


◆怪しい男


「チッ、逃げられたか!」


顔は見られてないから話を聞かれてなければ大丈夫だろう。万が一、話を聞かれていても止める事は出来ないだろうしな。


「作戦が始まれば、この町はパニックになるだろう。その隙に、必ずあの男を。」


今回の作戦は我が国にとって最大のチャンス。必ず成功させてみせる。全ては我らが王の為だ。



男達の話を、翌朝起きてきたリディアに相談してみた。


「うーん、それだけじゃな。話を全て聞いていた訳ではないんだろ?確かに何か起きるかもしれないが、それが犯罪なのか今の話だけじゃ判断出来ん。」


確かに。でも、リディアなら結界内なら悪意を持った奴がいたら分かるんだろ?


「それは、学校の敷地の中だけの話だ。町の中までは効果はない。」


結界を町全体に広げる事は出来ないのか?そうすれば、何か危ない事を考えている奴がいたら見つけて捕まえればいい。


「馬鹿を言うな。町全体に届く結界なんて張れるわけないだろう?しかも、悪意なんて町には溢れている。ちょっとした喧嘩でさえ悪意を感知するんだ。そんな中から男達を特定するなんて出来るわけない。」


そうなのか。せめて連中の作戦ってのを詳しく聞けてればな。


「まあ、衛兵に話をしておいてやる。何か起きたら直ぐに対処してくれるだろう。しかし、3日後か。」


どうした?3日後に何かあるのか?


「何を言ってる?3日後は対抗試合のトーナメント中だぞ?まあ、2日かけてやるから3日後は決勝戦などが行われる日だ。言ってなかったか?」


聞いてない。2日後が対抗試合の開始日なのか。


「ああ。それで3日後の優勝者が決まる時には王からメダルが授与される。その為に、3日後は町にナダル王がやって来る。そんな日に、何かの作戦が行われるのが偶然なのか?」


王様相手に何かしようってのか?


「わからん。ただ、警戒しておいて損はないだろう。私は後で衛兵達の所に行くが君はどうする?剣に興味があるなら剣術の授業に参加してみるか?ミーナ達も参加している筈だ。」


剣術の授業?魔法学校なのに?


「まあ、魔法だけでは戦えないからな。武器の訓練も授業で行っている!どうだ?参加してみるか?」


剣術の授業か。ってか部外者なのに参加していいのか?


「私が許可を出せば問題ない。どうする?」


じゃあ、参加してみようかな!でも、俺は剣なんて使った事ないからな?


「そうだろうな。まあ、教わるのは基礎だけだろう。授業が始まる前にミーナに迎えに来させるから後は好きにしてればいい。」


そう言って出ていくリディアを見送り、ミーナが迎えに来るまでゆっくりする。






それから数時間後。昼が過ぎた頃にミーナが俺を迎えに来た。ルナも一緒だ。


「アンディー、迎えに来たよ!」


そう言って理事長室に入ってくるミーナ達。俺は隣の部屋に行き人間に変化して服を着て剣を持って行く。


「ねえ?本当に授業に参加するの?ミーナは喜んでるけどアンディーが参加するのは騒ぎになる気が。」


訓練場に向かっているとルナがそんな事を言ってくる


「何でだ?リディアは参加していいって言ってたぞ?」


俺がそう言うとルナが苦笑いする。


「まあ、理事長は知らないから。まあ、知ってても許可を出したと思うけど。えっと、今、アンディーの事が噂になってるんだよね。」


噂?


「噂って?俺、噂になるような真似してないぞ?」


人間になってる間に学生達に姿を見られたぐらいで関わってないからな。


「えっと。アンディーが昨日、理事長室を出て行った時に生徒の1人がアンディーの姿を念写で紙に写したんだって。そしたら、その紙の写しが女子生徒達に広まって噂になってるの。突然現れた謎の白銀の貴公子様って。」


は?マジで?ってか、貴公子様って誰の事だよ!貴公子なんて呼ばれる程の人間じゃないよ俺?そんなカッコいい人間じゃないよ?


「じゃあ、授業に参加したら騒ぎになるのか?剣術ってのを習いたかったんだけど。」


まあ、無理なら諦めるんだけど。


「うーん。先生が騒ぎにならない様にしてくれたら大丈夫だろうけど期待は出来ないかな?あの先生って脳筋だから。」


脳筋って。以外と口悪いなルナ。しかし、先生にも期待は出来ないのか。折角、リディアが授業に参加出来る様にしてくれたんだし我慢するしかないか。


「仕方ない。授業には参加してみたいし、多少の騒ぎは我慢するか。授業だから参加者以外の生徒達には会わないだろ?」


さすがに、人が沢山来るなら行かない。それは鬱陶しいからな。


「うん。参加するのは私達のクラスだけだよ?全部で50人位かな?まあ、半分以上が女子生徒だからアンディーを見たら煩くなるだろうけど。」


全部で50人位か。それくらいなら我慢できるな。後は話しかけて来ない様な雰囲気を醸し出せばいけるだろ。


そして、3人で歩くこと数分で訓練場に着く。訓練場に着くと既に他の生徒達が体育座りで待っていた。生徒達の前には筋肉質の男が立っている。


「遅くなりました!先生、参加者を連れて来ました!」


ミーナとルナが先に行って男に挨拶して他の生徒達に加わる。そして後から俺が入ると全員の視線が俺に集中する。


そして、ミーナとルナ以外の全員が一斉に目を反らした。あれ?

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