《どうやら号泣しているらしい》
リディア達と別れた俺とミーナは服を買うために服屋に来ていた。正直、俺は店に着くまでがかなり疲れた。
理事室から出てから服屋に着くまでの間、すれ違う人達が皆して俺の事を見ていた。中には全く気にしてない人も居たけど。そんな周りの視線が酷く不愉快だった。確かにカッコいい姿にしたいと思って見た目を決めたけど注目されたかった訳じゃない。
今までこんな風に大勢から視線を浴びせられた事はない。しかも、視線の種類は様々だ。熱っぽい視線もあれば嫉妬混じりの視線もあった。中にはミーナに悪意ある視線を向けていた奴もいた。ミーナ自身は気づいていなかっただろうが。
だが、不愉快だからといって帰る訳にも行かなかった。隣を歩くミーナが嬉しそうだったからだ。結局、周りの視線に堪えながら俺は服屋にたどり着いた。
「まあー、お客様!凄くお似合いです!さあ、次はこちらを来てみて下さい!」
そして、現在2人の店員とミーナによって着せ替え人形の如く、服の試着をさせられていた。
店に着いて中に入ったら店員の女性2人は当初、驚いて固まっていたが服を買いに来た事を伝えると俺に似合う服を探してくれた。そこにミーナも加わり3人で店にある服を片っ端から持ってきたのだ。
正直、服なんて着られれば何でも構わないんだが今の3人には何を言っても駄目っぽい。
「うーん。どれも似合ってて決められないなあ。アンディーはどれが良いとかある?」
最終的に店の服を全部試着した後、ミーナ達は俺に判断を求めてきた。正直、どれでも良いがそう言ったら怒られそうだな。
「じゃあ、これとこれにするよ。他の服は片付けて良い。」
とりあえず値段の高くなさそうな服を上と下で揃えて買う。流石に人のお金で高い服を買う勇気は小市民の俺にはない。さっさと新しい服を着て店を出よう。
「あ、あのー。この服はどうしますか?」
俺が着替えて試着した服を片付けていると店員の1人が俺が作った服を持って聞いてくる。
「ああ、その服は捨てて貰って良いですよ?別に要らない服なので。」
俺がそう言うと店員が古着として5千ゴールドで買ってくれると言う。
「まだ新しく生地も良いので高値で買わせて貰いますよ?どうですか?」
でも、俺が作った服だしな。しかも生地はリディアから貰った物だし。俺がそんな事を考えているとミーナが話しかけてくる。
「別に売っても良いんじゃない?アンディー、お金持ってないし。」
確かに。あまり必要なさそうだけど持ってた方が助かるか。
「じゃあ、買い取って貰っても良いですか?」
そう言って5千ゴールドで服を買って貰って店を出る。
店を出ると数人の女性達が店の前にいた。俺と目が合うとそそくさと離れて行く。俺が着せ替え人形をしている間、ずっと中を覗いてた人達だ。俺はミーナの手を取り早歩きでその場を離れる。
◆
「うまい。生きてて良かった!」
周りの視線がアンディーに集中している。アンディーはステーキを食べながら泣いている。その様子を周りのお客さんがに見ているがアンディーは気づく様子はなさそう。
服を買った後、アンディーは私を連れて料理店に入った。アンディーは人間になったらお肉を食べると決めていたらしい。理事長の所を出るときにお肉を食べて大丈夫か確認していた。
普通、馬は肉を食べれないけどアンディーは人間だったからお肉が食べたくて仕方ないらしい。
「まあ、今は人間に変化しているから体の構造も似たものに変わってるだろうし大丈夫じゃないか?まあ、一応体調に注意しながら食べればいい。」
そう理事長は言っていた。結果、アンディーはステーキを一口食べた後、しばらく様子を見てから大丈夫だと分かるとステーキを泣きながら食べ始めた。
「ねえ、そんなにお肉が食べたかったの?」
私はステーキを食べて満足そうにしているアンディーに声をかけてみた。
「そりゃ、昔は普通に食べていたからな。別に草や果物が嫌いな訳じゃないけど、肉は別だよ。肉の美味しさを知ってるのに食べれないってのが辛かった。」
そう言って苦笑いするアンディー。そういえば牧場にいた頃、外でお肉を焼いているとよく見てたっけ。やっぱり、本当は色々と我慢させてたのかな?馬の姿のまま、ずっと私のそばに居て欲しいってのは私の我が儘なのかも。
「あ、あの。何か料理に問題がありましたか?」
私が考えていると店の女性がアンディーに声をかけてきた。その表情は強ばっている。アンディーが泣いてたからかな?料理に問題があったと思ってるのかも。
「いえ、大丈夫ですよ!美味しくてつい泣いてしまいました。気にしないで下さい。」
アンディーがそう言うと女性は困惑しながらも下がっていった。その後、少し休んで私達は料理店を後にした。
アンディーの事は帰ってから理事長に相談してみようかな?どうしよう?
その後、しばらく町を見てからアンディーの魔法が解けそうだって事で急いで学校に戻った。
出発前、アンディーの魔法は今はまだ慣れてないから4時間ぐらいが限界でも、慣れてくれば数日は人間の姿になる事も出来る様になるって理事長は言っていた。
やっぱり、理事長が戻って来たらちゃんと相談してみようかな。
◆某料理店の女性店員
うちの店の食事は不味いわけではないけど、そこまで美味しいって訳でもない普通の味だ。それなりにお客も来てくれるけど今日は暇な日の筈だった。
「只今、混んでますので暫くお待ち下さい!」
席へと案内したお客に一言伝えて、先に入ったお客の注文を取りに行く。今日は普段ならお客が少なく店は閑古鳥が鳴いている筈だった。だけど2人のお客が入ってきた事で状況は一変した。
1人は魔法学校の生徒だろうか?町で見かけた事がある女の子だ。そして、その子の連れらしい男性。その人が入ってきた瞬間、店の中の視線が集中した。男性が一瞬、顔をしかめた事で集まった視線は散ったがチラチラと見ている人が多い。私もその1人だ。
白銀の髪色にまるで作り物のような綺麗な顔立ち。一瞬、女性かと思ったが体格からして男性だろう。少し背が高くシュっとしたスタイルのイケメンだ。もしかして貴族だろうか?その男性が店に入って来た後、女性客が多くなった。
そして2人は席に着くと食事を注文した。だけど、注文した食事が届くと男性の様子が変わった。男性が頼んだのは魔物の肉を焼いただけのステーキだった。その魔物の肉は一般的な物で珍しくもない。男性はそのステーキを一口食べると固まってしまった。
もしかして何か問題があったのだろうか?もし、彼が貴族だったら怒らせれば私達は殺されるかもしれない。そんな男性の様子に周囲の客の視線が集中する。だけど、そんな心配を余所に男性は急に号泣しながらステーキを食べ始めた。一緒にいる女の子も困惑した様子だ。
声をかけると、どうやら美味しくて泣いていたらしい。その日はステーキの注文が殺到した。翌日から町には白銀の貴公子と呼ばれる人物の噂が流れていたけど、おそらくあの男性の事だと思う。また、来てくれないかな?
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