《どうやら力を貸す事になったらしい》

「あらあら、困ったわね!」


そんな事を言っているフェティア様。彼女の目の前には土下座状態のエルフ。


「お願いします!妹達を助けて下さい!」


そう言ってフェティア様に土下座をするエルフの女。どうしてこうなった?


遡ること数分前。


「め、女神様?」


エルフの女がそう呟く。え?何でわかったんだ?俺がそう思っているとフェティア様の声が頭に届く。


「それはね、彼女達エルフが女神の血を引いてるからよ。彼女達には女神としての力はなくても私達が近くに来ると気配が分かるらしいわ。」


エルフが女神の血を引いている?どういう事?


「この世界が出来た頃の話なんだけど、最初は何もない世界だったこの世界に2人のエルフの男女が生まれたの。他にも生命は誕生したけど人間はその2人だけ。だけど2人のエルフの寿命は長くなかったわ。他に生まれた生物に襲われ2人は死んだ。だけど女性のエルフのお腹の中には新しい生命がいたの。普通なら死んでいたその子供を女神の1人が助けてしまったの。」


この世界の最初の人類はエルフだったのか。つまり、今いる人間の先祖はそのエルフ達って事かな?


「彼女はエルフのお腹から子供を取り出すと自分の血をその子に飲ませたわ。女神である自分の血をね。血を飲んだ子供は大人に成長し、やがて年を取らなくなった。女神の血を飲んだ生き物は死ぬことはなく年も取らなくなる。彼女はエルフのその子にそう説明したわ。エルフの子は当初こそ喜んでいたけど自分以外に人間がいない世界に絶望して森の中で眠りに着いた。」


女神の血を飲むと死なないか。仲間が存在しないのは辛いだろうな。それで?眠りについたエルフはどうなったんだ?


「それから数万年後、世界にはエルフ以外の人間が存在していた。他の生物が長い時をかけて進化したのね。エルフの子は久しぶりに眠りから目覚めると自分以外にも人間がいる事に喜んでたわ。やがて、エルフの子は他の人間との間に子供を作った。それが彼女達エルフの先祖。彼女達エルフが女神の血を引いてる理由よ!」


なるほどね。別に今いる人間の先祖がエルフって訳ではないらしい。でも、じゃあエルフ達は不老不死なのか?女神の血を引いているんだろう?


「いいえ。不老不死なのは最初の子だけ。その子の子供も不死には近かったけど、やがて年を取って死んだわ。今でも血の影響は残ってるけど長生きなエルフで千年程度で少しずつ年も取る。不老不死には程遠いわよ。」


それでも千年も生きるのか。それで?最初のエルフはどうしてるんだ?そのエルフは不老不死なんだろ?


「彼女は眠りについてるわね。永く生きてるのは疲れてしまうんでしょうね。」


そうなのか。いつか会って見たいな。ところで、女神様が地上の人に姿を見られて良いのか?


「そうね。別に過去にも他の女神が地上に姿を見せてるから問題ないわよ。ただ、地上の出来事に深く関わるのは禁止されてるわ。」


でも、エルフに深く関わってるよな?それに地上で生活してる女神もいるんだろ?


「うーん。関わるのを禁止されたのはその時の事も関係してるんだけど、決まったのはその後の事なのよね。その女神の行動は予想外だったし。それと地上で暮らしてる女神は人間のふりをしてるから問題ないのよ。まあ、女神の力を使ったら強制的に女神界に戻されるけどね」


なるほど。女神様達にも決まり事が多いんだな。


「まあ、女神って言っても何でも好きに出来るわけじゃないのよ。」


そうなんだな。そういえば、そのエルフに血を飲ませた女神は今どうしてるんだ?後からとはいえ深く関わるのを禁止にしたなら何かしらの罰があったんじゃないのか?


「まあ、ここまで話しちゃったし話すけど彼女は幽閉されたわ。」


幽閉?何でそこまで?


「それだけ彼女の行ったことは女神として許されない事だったのよ。世界の歴史を変えてしまったんだから。」


世界の歴史を?


「そう。本当ならエルフはこの世界から消える運命だった。だけど、不老不死になった事で歴史は変わってしまったのよ。」


なるほどね。本来ならエルフは大昔に消えている筈の種族だったって事か。なのに今もエルフは存在してる。


「本当ならライラがあなたを死なせた事も問題になる事なのよ?ただ、今回はあなたが恨んでいないことをデスティアが確認してるから許されたけど。」


なるほど。だからライラ様はあんなに必死になって隠そうとしたのか。俺が許してなかったらどうなったんだろ?


「その場合は力を奪って幽閉されてたわね。多分。」


危なかったなライラ様。まあ、馬になったのは少し恨んだけどね!ところでフェティア様って運命を司る女神って言ったけど何を管理してるんだ?


「そうね。私は世界の運命を管理しているわ。運命ってのは歴史でもあるわ。さっきの話のように運命に逆らって歴史が変わらないよう管理してるのよ。運命って既に生まれた瞬間から大体決まってるの!あなたも死んでなかったら本当は高校時代の好きな子と結婚する運命だったのよ?」


マジか!?あの子も俺の事を好きだったのは知ってたけど。ところで何でフェティア様はここに来たんだ?


「ああ、それは彼女の祈りが聞こえて地上を覗いてみたら彼女があなたと居たから面白そうだなって思って来てみたのよ!」


そう言って笑うフェティア様。ようするに野次馬かよ!


そんな事をフェティア様と話していると固まっていたエルフの女が動き出した。


「どうか女神様!私の妹達を助けて下さい!」


そう言って土下座をするエルフ。そして冒頭に戻る。


「あの、一体何の事を言ってるの?妹達って?」


エルフの突然の土下座に困惑した様子でそう質問するフェティア様。


「あ、すみません!私はエルフのソフィアって言います。実は妹達と一緒に里を出たら帰れなくなってしまって。妹達が人間に捕まってしまったんです。」


そう言って説明するエルフのソフィア。どうやら、そいつらに俺を届けるつもりだったようだ。


「どうか女神様のお力で妹達を助けて下さい!お願いします!」


うーん。妹達が捕まっているのか。俺が協力してやりたいが俺の事を話さないと協力出来ないしな。


「ごめんね?それは出来ないわ!女神の力を地上で使うのは禁止なの。」


ソフィアに頼まれたフェティア様は困った表情で頼みを断ると俺の方を見る。


「そうだわ!彼に協力してもらいなさい!それが貴女の運命よ!」


そう言って俺を指差すフェティア様!おい?!軽すぎだろ運命!


「えっと。この馬にですか?」


ソフィアも俺を指差し困惑している。そりゃそうだろ!


「そうよ!彼なら協力してくれる筈。そうでしょ?」


そう言って俺を見るフェティア様。すると頭に声が聞こえてくる。


「あなただって、さっき協力しても良いって考えてたじゃない?なら、協力してあげてよ?」


うーん。まあ良いか。


「協力してくれるって。なら、お互い自己紹介しないとね!」


フェティア様がそう言ってソフィアに挨拶させる。


「え、えっと。私の名前はソフィアよ?そ、その貴方が協力してくれるの?」


困惑しながらもそう言って挨拶してくるソフィア。仕方ないな。


ああ。俺が協力するよ。名前はアンディーだ、よろしく頼む!


ソフィアにテレパスでそう声をかける。人間の時の名前を名乗るか迷ったが今の名前で良いだろう。すると声を掛けられたソフィアは


「え?」


そう言って目を丸くして俺を見るソフィア。


「う、馬がしゃべったー?」


あ、また固まった!

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