《どうやら事情があるらしい》
◆ゲイツの宿
「くそ!転移石だと?通りで今まで盗まれた馬や馬車が町から運ばれた形跡が無かった筈だ。おい!ボーグどうするんだ?」
転移石で姿を消した犯人と馬に驚いて固まっているとダンさんが声をかけてきた。確かに固まっている場合じゃない。
「あのサイズの転移石なら間違いなく町の外に飛んでいる筈です。私は馬の飼い主に知らせてくるのでダンさんはギルドに報告に行って下さい!」
私がそう言うとダンさんはわかった!と言って仲間とギルドに向かった。
初めて犯人の手懸かりを得ることが出来た。転移石を使っているって事は犯人は1人じゃなく組織の筈だ。あれは簡単には手に入らない。
「失礼します!ミグルさん。起きてください!ミグルさん!」
私は宿の主のゲイツさんからミグルさん一家の部屋を教えてもらい、部屋のドアを叩く!時間は既に遅い。彼等も眠っているはず。
「おいおい。こんな時間に何なんだ一体?」
ミグルさんがドアを開けて出てくる。眠たそうに訪ねてくるミグルさんに事情を説明する!
「なんだと?それで馬は何処に行ったんだ?」
ミグルさんにそう聞かれるが分からないとしか答える事が出来ない。
「そうか。とりあえず、残った馬と馬車を見に行こう!」
そう言って奥様達を起こして出てくるミグルさん。私は残された馬と馬車の元へと案内をした。
「やっぱり、居なくなったのはアンディーの方か。犯人に体当りをしたって聞いてアンディーだと思ったんだよ。多分、母親のシンディーを守ったんだろうな。」
残された馬を見てミグルさんがそう言っている。居なくなったのはアンディーと言うらしい。
確かにアンディーという馬は犯人が転移石を取り出した時、母親の方を見てから体当りをしていた。つまり、母親を助ける為に行動したって事か。信じられない話だ。
「とにかく、私は一度ギルドに戻ります。おそらく犯人は仲間と合流するはず。朝方には捜索隊が組まれて探しに出る筈です。馬は私が必ず見つけ出しますので任せて下さい!」
私はそう言って宿を後にする。ギルドに戻るとギルドマスターの部屋に呼ばれる。中に入るとダンさんもいる。
「戻ったか。お前を囮にして悪かったな。それでダンから聞いたが犯人は転移石を使ったんだって?」
私が部屋に入るとギルドマスターがそう言ってくる。
「はい。10センチ程の転移石でした!あの大きさなら町からそれほど離れていない筈です。おそらく周辺の盗賊組織の1人だと思います。」
私は転移石の大きさを伝えて私の予想をギルドマスターに伝えた。
「確かにな。その大きさの転移石を個人で用意するのは只の盗人には無理だろう。仲間がいるのは間違いない筈だ。周辺の盗賊団の情報を集めておけ。朝にはギルドから捜索隊を出す!ギルドの誇りにかけて犯人を捕まえるぞ!」
ギルドマスターも私の予想に賛成らしい。控えていた別の職員に盗賊団の情報を集める様に指示を出し、それから私達にそう言ってくる。
「目の前でみすみす連れてかれたんだ。絶対捕まえるぞボーグ!」
ダンさんが私にそう言ってくる。私も同じ気持ちだ!
「ええ。絶対捕まえましょう!」
◆
犯人に体当りをした俺は何処かの草原にいた。俺にはここが何処なのか全くわからない。
はぁ。やっぱり転移石ってのは移動するための道具だったみたいだな。咄嗟に犯人に体当りをしてシンディーと馬車から離そうとしたけど俺も一緒に移動する事になるとは思わなかった。
さてと犯人は?周りには誰も見当たらない。すると、俺のお尻の下から声が聞こえてくる。
「お、重い。早く退いて。つ、潰れる。」
俺が後ろを見ると犯人が下敷きになっていた。顔は隠れていて分からないが苦しそうに呟いている。
このまま下敷きにしてれば良いんじゃないか?きっとミグル達が探しているだろうし、犯人を捕まえれば盗難事件も全て解決になるんだろうから。
「し、死ぬ。死んじゃうよ~。早く退いてよ!」
俺がどうするか考えていると犯人から女みたいな情けない声が上がる。犯人と目があったが俺は無視をした。すると犯人がジタバタと暴れだす。
「うわ~ん。全然退いてくれない!内臓が飛び出る~。馬のお尻に潰されて死ぬなんて絶対いや~!お母さん助けて~。」
俺の下で暴れながら泣き出してしまう犯人。何か本当に女みたいな奴だな?男の癖に情けない奴だな。
すると犯人が身に付けていたフードが外れて犯人の顔が見えた。金髪の長い髪。綺麗な顔だち。よく見ると胸の辺りが僅かに膨らんでいる。
は?コイツ女かよ!しかも。
犯人が女なのにも驚いたがそれ以上に俺を驚かせたのは彼女の長い耳だった。コイツ。俺が知ってる通りならエルフか?
「もう駄目。このまま死んじゃうんだわ。皆、お姉ちゃんを許してね。」
犯人のエルフが下でそう言って胸の前で手を組んで祈るみたいなポーズを取る。
はあ、仕方ない。退いてやるか!流石に女の人を潰したままにするのは気が引けるな。
「ああ、もう重さも感じなくなったわ。もうじき死ぬのね私!どうか女神様。捕まってる妹達を助けて下さい。お願いします!」
俺が退いた事に気付かず目を瞑って祈り続けるエルフ。妹達を助けて?どういう事だ?それに女神様ってライラ様達の事だよな。女神の存在って普通に知られてるのか?
「はあ。せっかく里から出れたのに盗賊に捕まるなんてついてないな。」
エルフがそんな事を漏らす。っていうか退いた事に早く気づけよ!
「里の長が言ってた通り外は危険だらけだったし、里に帰りたいな。って一体なによ?」
いつまでも気付かないエルフを俺が鼻先で突くとエルフがやっと退いた事に気付く!
「あれ?退いてくれてたの?あ、ありがとう。」
目の前にいる俺に気まずそうに礼を言うエルフ。するとエルフが俺の手綱を持って何処かに連れていこうとする!
「こんな事してる場合じゃないわ!早く
そんな事を言って引っ張って行こうとするが俺は動くつもりはない。少なくとも事情が分かれば協力してやるんだが。
「もう!動いてったら!」
動かない俺を引っ張るエルフ。さて、どうしたものか。
「あらあら、何か面白い事になってるわね!」
え?
「え?」
突然俺の後ろから聞こえてきた声に俺とエルフの驚いた声が重なる。エルフは後ろを見たまま固まっている。
俺も後ろを見るとそこには1人の美女がいた。すると俺の頭に声が聞こえてくる。
「あなたがデスティアの言ってた辰馬さんね?私は運命を司る女神フェティア。よろしくね。」
そう言ってくる。女神のフェティア様。3人目の女神様かよ!何で今ここに?エルフだっているのに!
俺がそう思ってエルフの方を見ると、エルフが女神フェティア様を指差す。
「め、女神様?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます