《どうやら別れの時間が来たらしい》

「おーい。アンディーを迎えに来たぞ!ライアンも一緒か。しかし、一体何があったんだ?さっき、男が縛られて連れて行かれてたが。あれって、副団長のハインケルとかいう奴だよな?」


太陽が真上に来た頃、ミーナの父親が俺を迎えに来た!どうやら騎士団ともここでお別れのようだ。やって来たミーナの父親が何があったのか聞いてくる。


「ああ、実はな・・・」


団長が何があったのかをミーナの父親に説明する。


今から二時間ほど前。世話係が見つかり話しを聞いた団長から副団長の行った事を聞いた俺達。団長は事が事なだけに城に説明しに行くと言い厩舎を出ていく。


「流石に国を守る騎士団の副団長が殺人未遂で捕まるってのは城に報告する必要があるから、俺は城に行ってくる。悪いがもう少しだけ待っていてくれ。」


そう言って出ていった団長。待つこと一時間程で団長が戻ってきて部下の騎士に副団長を呼びに行かせる。


「おやおや。私を呼んだということは何かわかったんですかな?まあ私には関係ありませんがね。それで?犯人は見つかったのかな?まさか、また私が犯人だと言う訳ではないでしょうね!」


呼び出された副団長が余裕たっぷりにそう言う。世話係が死んだと思ってるから余裕なんだろうな。


「ああ。世話係が見つかった。まあ、誰かに襲われて瀕死の状態でだがな。」


団長がそう返事をすると一瞬だけ目を見開く副団長。だが、副団長は世話係が見つかったと聞いても余裕の態度を崩さない。


「ほう。瀕死の状態でですか。ならば今はもう話しが聞けないですな。死人が語ることはないでしょうから。」


どうやら見つけたが何も聞けないまま死んだと思ってるみたいだ。まあ、キーシャが俺に会いに来なければ俺も世話係も間に合わなかっただろうし副団長がそう考えるのも仕方がないだろう。


「どうやら、何か勘違いしているようだな。世話係は見つかったのが速かったから無事に一命を取り止めたぞ?話しも聞く事ができた。もちろん毒を盛ったのが誰なのか。自分を刺したのが誰なのかも教えてくれたぞ。」


団長はそう言いながら副団長の事を睨み付ける。副団長はというと世話係が助かったと聞いて驚いている。


「世話係はお前からアンディーに用意した餌をやるよう言われたと証言している。それと自分を刺したのがハインケル。貴様であるともな!」


団長が話しながらも怒りが込み上げて来たのか副団長に怒鳴りつける。副団長の表情が曇り始めてきた。


「そ、それは一体何かの間違いでは?確かに餌をやるように言いましたが私が毒を盛ったなどと。ま、まして、世話係を刺すなんて馬鹿な真似するわけがない。」


団長に怒鳴られてもなお認めようとしない副団長。すると、何かを持った騎士がやって来る。


「団長!言われた通りに副団長の部屋を捜索した所、毒の入ったビンと血の付いた短刀が見つかりました!」


やって来た騎士はそう言いながらビンと短刀を団長に渡す。へえ。呼び出してる間に部屋の捜索をさせてたのか。


「そうか。それで検査の結果は?」


団長が騎士にそう訪ねると、ビンの中身は干し草のものと一致。短刀の血も世話係のものだと伝えている。どうやら証拠のようだな。


「まさか、私を呼び出している間に勝手に部屋を調べさせたのか?一体何の権利があって貴族でもある私の部屋を調べたんだ!不敬罪で訴えても良いんだぞ!」


証拠が見つかった副団長がそう叫ぶが団長が逆に新たな事実を告げる。


「先に手は打ってある。貴様に貴族の肩書きはもうない。すでに王に今回の事は報告した。報告の場には貴様の父親もいたぞ?貴様はハインケル家から追放だそうだ。」


そう副団長に告げる団長。なるほど、親に見捨てられたのか。さすがに殺人未遂を庇う真似は出来ないだろう。


「ふ、ふざけるな!何故私が追放される!そこの馬が私を蹴り飛ばしたのが悪いのだぞ?なのに何で私が!」


叫びながら持っていた剣を抜こうとする副団長。あ~あ。さすがに剣をここで抜いたら終わりだろ!


「この恥知らずが!」


剣を抜こうとする副団長を先に団長が殴り飛ばす。殴られた副団長が吹っ飛んで剣を落とした。すかさず他の騎士が副団長を拘束する。


「貴様は騎士でありながら我々にとって相棒でもある馬に毒を盛っただけじゃなく、口封じの為に罪のない人物を殺そうとした。貴様のような男が騎士を名乗るなど俺が許さん!騎士を舐めるな!」


団長が副団長を掴みながら怒鳴りつける。他の騎士やキーシャも副団長を睨み付けている。どうやら皆、副団長がやった事は許せないらしい。


「その男は犯罪奴隷となる事が決定している。牢に連れていけ!」


団長が部下の騎士にそう指示をだす。犯罪奴隷か。この世界には奴隷が存在するんだな。


副団長は抵抗しながら叫んでいるが縛られているため騎士達に連れてかれる。そして入れ違いにミーナの父親がやって来た。


「なるほどな。そんな事があったのか。まさか、副団長ともあろう奴がそんな真似をするなんてな。まあ、アンディーが無事で良かったよ!」


団長から話しを聞いたミーナの父親は厳しい顔をしながら俺を撫でる。


「本当にすまなかった。借りてた馬に何かあれば申し訳がたたない所だった。」


そう言って頭を下げる団長。一緒にいるキーシャも頭を下げている。


「いや、無事だったんだから気にするな。まさか、こんな事態になるなんて誰も思わんさ。キーシャだったか?君も気にするな。君がアンディーを助けてくれたんだろ?感謝している!」


頭を下げる団長とキーシャにそう言うミーナの父親。その通りだよな。誰もこんな事態になるなんて分かる訳ないんだから謝る必要はないだろう。


「いえ。私の為に連れて来てくれたアンディーですから。助けることが出来て良かったです。感謝しているのは私の方です!」


そう言って頭を再び下げるキーシャ。俺も感謝してるよ。また、会いたいもんだな。


「まあ、君が少しでも元気になったなら良かった。この1週間はどうだった?」


ミーナの父親がキーシャにそう質問する。団長も気にしてるのかキーシャを見る。


「はい。この1週間アンディーといるのは楽しかったです。ポーラが戻ってきてくれたみたいでした。」


キーシャがそう言ってくれる。だが、すぐに申し訳なさそうに言葉を続ける。


「でも、やっぱり私の相棒はポーラなんです。あの子の事を忘れて他の馬には乗れません。申し訳ないんですけど今はまだ騎士団に戻る気にはなれません。すみません。」


そう言って頭を下げるキーシャ。するとミーナの父親は優しく声をかける。


「別に謝る必要は無いさ。ポーラは君の家族なんだろ?家族が居なくなって心配するのは当然の事だ。そうだろ?ライアン。」


ミーナの父親はそう言って団長の方を見る。


「まあ、仕方ないだろ。だが、お前は国を守る騎士の一人だ。戦わなきゃいけない時が必ず来るぞ。だから、鍛練だけは怠っては駄目だぞ。わかったな!」


団長も仕方がないと頷くが、騎士団の団長としてキーシャにそう声をかける。


「はい。もし、戦わなきゃいけない時が来たなら私も騎士として戦いに行きます。」


キーシャが真剣な表情でそう答えると二人とも頷いている。


「じゃあ、そろそろアンディーを連れて帰ることにする。二人とも元気でな!」


そして俺は団長とキーシャにそう言うミーナの父親に連れられ騎士団を後にした。

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