《どうやら証拠が必要らしい》

「コラ~!アンタが死んだら私のミスが他のお姉さま達にバレるでしょうが!早く引き返しなさいよ!」


川の向こうでライラ様が何か叫んでる。あんな所で何してんだろうな?え?なんだって?全然聞こえないんだけど?あれ?ライラ様が遠くなっていく。何で喜んでんの?








・・・・・はっ!あれ?ここって厩舎の中か?何かライラ様に会った気がする。よく覚えてないけど。


「団長、絶対あの男が毒を盛ったんですよ!アンディーは私の回復魔法が間に合わなかったら死んでたかも知れないんですよ!あの男の所に行かせて下さい!」


「だが、証拠はないだろ?奴は証拠がなければ認めない。今、他の部下に世話係を探させている。もう少しで戻ってくる筈だ。それまで待て!」


俺が目を覚ますとキーシャと団長が何か話している。毒?


あれ?俺なんで寝てたんだ?確か干し草を食べようとしてたと思うんだけど。それで確か干し草から変な臭いが。


そうだ!干し草の臭いを嗅いだら気分が悪くなって気を失ったんだ!つまり、さっきキーシャが言ってたのは俺の事か!毒を盛られたけどキーシャが助けてくれたって事か。


うーん。誰の仕業だろう?まあ、普通に考えればあの男しかいないよな。他に俺に毒を盛る理由がないだろうし。


「アンディー!目が覚めたのね?良かった~!」


俺が考え事をしてるとキーシャが目を覚ました俺に気付き近寄ってくる。顔には涙の後がついている。どうやら心配をかけたようだ。


「おや?何かあったのですか?私に用だと聞いたんだが?」


そう声をかけてくる男の声に反応して俺が柵から顔を覗かせると男は一瞬驚くがすぐに表情を元に戻す。


「ハインケル、来たか。実はさっき事件があってな。それでお前を呼んだんだ。」


団長が入ってきた副団長にそう声をかける。どうやら団長が呼んだらしいな。


「事件ですか。それはそれは。一体何があったのか聞いても構わないか?」


一瞬だけ俺を見る副団長。だが何も知らないとばかりに何があったのか聞いてくる。


「ああ。実はこのアンディーに誰かが毒を盛ったらしい。ハインケルは何か知らないか?」


副団長にそう尋ねる団長。後ろではキーシャが副団長を睨んでる。


「それは酷いですな!一体誰がそんな事を?何故、私に聞くのかわからないが世話係が何か知ってるんじゃ?」


わざとらしく驚く副団長。うん。犯人コイツだわ!さっきから笑いながら俺を見るけど目が笑ってないもん!


「しらばっくれないで!あなた以外に誰が毒を盛るっていうのよ!アンディーに蹴られた事を恨んでるからやったんでしょ?」


副団長が答えたところでキーシャが団長の後ろから声を張り上げる。だが、言われた副団長の方は余裕の様子だ。


「ほう?私が犯人だと?まあ、恨んでないと言えば嘘になるが何か証拠でもあるのかな?まさか証拠も無しに貴族である私を犯人呼ばわりするつもりかね?ねえ、団長?」


証拠がなければ問題はないとばかりに話す副団長。言われたキーシャは悔しそうに拳を握っている。


「いや。そんなつもりはない。だが、世話係が何か知っている筈だ。今、探させている。世話係が見つかれば誰が犯人かはすぐに判明する。」


団長がそう答えると副団長はよろしい!と手を叩く。


「それでは、私は自室に戻ってましょう!もし、世話係が見つかったら呼んでください。まあ見つかれば、ですがね。」


そう言って厩舎を出ていく副団長。あの言い方。絶対、世話係に何かしてんだろ!


「やはり証拠がなければ認めないか。しかも、あの様子だと世話係が無事かどうかも怪しいもんだ。」


団長も世話係が無事か気になるらしい。どうにか世話係を見つける事が出来ても喋れなければ意味はないからな。


「団長、私も探しに行って来ます。絶対アイツは許せない。」


キーシャがそう言って出て行こうとする。


「いや、待て。その必要はなさそうだ!」


だが、団長がそう言ってキーシャを引き留める。すると、外から騎士が数人入ってくる。


「お前達、世話係は見つかったか?」


どうやら彼等が探しに行っていた部下らしい。だが彼等は世話係を連れていない。


「ええ一応。ですが、何者かに襲われたらしく瀕死の状態です。今、魔法師団から回復魔法の使い手を呼んでますが間に合うか。」


やっぱり。どうやら既に口封じされてたか。だけど、まだ死んでないなら手が1つだけある筈だ。俺を回復させたキーシャなら。


「わかった。すまないがキーシャ!今すぐ世話係の所に行ってくれ!回復術士が来るまで時間を稼ぐんだ。」


団長も同じ考えだ。だけど、キーシャは回復させれないのか?まあ、怪我と毒じゃ違うって事か。この世界の人間は皆魔法を使えるけど得意、不得意があるらしいからな。


「わかりました。行ってきます!」


キーシャはそう言って他の騎士と一緒に走っていく。どうやら副団長を追い詰める事が出来るかはキーシャにかかっているみたいだ。


やがて、キーシャが疲れた様子で戻ってくる。


「団長。どうにか無事に間に合いました。後の事はお願いします。」


キーシャはそう言って俺の所に来ると疲れたのか寝てしまった。


「どうやら限界まで魔力を使ったようだな。アンディー。悪いがキーシャの事を頼んだぞ。俺は世話係から話しを聞いてくる!」


そう言って団長が出ていく。俺はキーシャをみる。どうやら限界まで魔法を使うと寝込むようだな。枯渇状態って奴か?


しかし、回復魔法か。便利だし俺も覚えてみたいな。ミーナも家庭教師からは教わってなかったし知らないんだよな。


「う~ん。ポーラ、どこにいるの?無事に帰って来て。」


寝ているキーシャから寝言が漏れる。帰って来てって事はポーラってのは相棒の馬の名前か。


時間が流れて昼頃になるとキーシャが目を覚ます。そのまま少しすると、団長が戻ってくる。


「キーシャも目を覚ましたか。無事に世話係から話しを聞く事ができたぞ。」


戻ってきた団長がそう報告してくれる。


「本当ですか!それで彼はなんて言ってるんですか?」


報告を聞いたキーシャがそう質問する。俺も知りたい。毒が盛られてたのを知ってたのか、知らなかったのか。それ次第で世話係への心情も変わってくるしな。


「ああ。結論から言ってハインケルが毒を盛ったのは間違いないだろう。世話係は奴からアンディーが今日で最後だから、特別に質の良い干し草を用意したからあげるように言われたらしい。」


どうやら副団長が犯人で間違いないらしい。世話係は騙されただけなのか。なら助かって良かった。


「だが、その後の帰り道でハインケルに路地に連れ込まれ襲われたそうだ。なんとか死んだふりをしてやり過ごしたらしい。キーシャには感謝してたぞ。」


ひどい話だな。俺への恨みはわかるけど、その為に他の人まで手を出すなんて。もう一度蹴り飛ばしてやろうかな。


「じゃあ、副団長を罪に問えるんですね?」


話しを聞いたキーシャは冷静だ。団長に副団長の事を聞いている。


「ああ。流石に人間にも手を出したんだ。殺人未遂で投獄してやる!」


あれ?俺に対しては?そりゃ、人間と馬の俺じゃ罪の度合いは違うんだろうけど。


「アンディーに毒を盛った事はどうするつもりなんですか?」


キーシャも同じことを思ったのか質問する。


「ああ、アンディーの件は騎士団をクビにする事で責任を取らせるつもりだったんだがな。流石にこうなるとアンディーの件は投獄する事で罰とするしかないな。」


どうやら本当に殺人未遂まで起こすとは思ってなかったようだ。それなら仕方ないよな。投獄されるんだし、良しとしよう!


「そうですか。まあ仕方がないですよね。」


どうやらキーシャもそれで納得したらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る