《どうやら何かされたらしい》

副団長を蹴り飛ばした翌日の朝、つまり騎士団に来てから3日目。


「おはようございます。アニキ!」


目が覚めた俺が起き上がると前にいるモヒカンが変な事を言っている。アニキって誰だ?そんな馬ここに居たか?


「アニキ!今朝の気分はどうですか?俺はアニキのお陰で最高です!これもアニキがアイツをぶっ飛ばしてくれたお陰っす!」


はあ。やっぱりアニキって俺の事か。てか、ダイアンの相棒を蹴り飛ばしたのに怒ってないのか?俺がそう聞くと、


「全然。アイツは俺達に酷い事しかしないから皆大嫌いなんすよ。今までアイツのせいで何匹の仲間が死んだか。アニキがアイツをぶっ飛ばしてなかったら俺も酷い目にあってた筈っす!アニキは恩人っす!」


なるほど。だからアイツに連れてかれる時震えてたのか。


「でもアニキは気を付けた方が良いですよ?あの男がこのまま黙ってる訳がないですから気を付けて下さい。」


ダイアンがそう忠告してくれる。確かにアイツがこのまま黙ってる奴だとは思えないな。気を付けておくか。


そんな俺の心配はなんだったのか。副団長が俺の前に姿を見せることは無いまま2日がたった。もしかして死んだのか?


俺が騎士団に来てから6日目。明日で俺の役目も終わりだ。今日もキーシャに連れられて訓練場に来ている。相変わらずキーシャは木の側に座り込み空を眺めている。


「アニキ!明日で帰るって本当ですか?聞いてないですよ!」


俺がキーシャを見ているとダイアンや他の馬達が俺の所にやってくる。この3日、ダイアンだけじゃなく他の馬達も俺の事をアニキって呼んでくる。


元ボスのダイアンが俺をボスと認めたらしく、俺は騎士団の馬達の中でボスとなってしまった。俺が居なくなると聞いた馬達が何故なのか聞いてくる。


いや、何故って最初から決まってた事だし。俺がそう言うと不満を漏らすダイアン達。すると、騎士達の方が騒がしくなる。


「うるさい!貴様らは訓練に戻ってろ。」


俺達が騎士達の方を見ると、騎士達を押し退けて副団長が現れた。


良かった!生きてたよ!異世界とはいえ流石に元人間として人を殺すのは気が引ける。


副団長はまっすぐ俺の方に向かってくる!キーシャは副団長が来たことに気が付くと俺の所にやって来て身構えている。


「おい。ダイアンこっちに来い。訓練を始めるぞ!」


何かされるかもと身構えていたが副団長はダイアンを呼んだだけで特に何もしてこない。呼ばれたダイアンはと言うと、どうする?って感じで俺を見ている。いや、行けよ!


俺がダイアンを後ろから押すと渋々、副団長の所に向かっていく。副団長はそんな俺を睨み付けただけでやっぱり何もしてこない。他の馬達も相棒の騎士の元へ行き訓練が始まった。


意外だ。すごく意外だ。あの副団長なら手は出してこなくても何かしら言ってくると思ったのに!


「どうやら団長に怒られたのが相当効いたみたいね!」


俺が副団長の様子を疑問に思っているとキーシャがそんな事を隣で言っている。俺がキーシャの方を見ていると気がついたキーシャが話しかけてくる。


「アンディーも副団長の事が気になったのね?貴方って本当に頭の良い子ね。まるで、言葉が全部わかってるみたいだわ。」


キーシャがそんな事を言う。別に俺の事はいいから早く説明して欲しいな。俺がそう思いながらキーシャを見るとすぐに教えてくれた。


なんでも副団長は俺に蹴り飛ばされた翌日、団長の部屋に乗り込んだらしい。キーシャも団長室に呼ばれ前日の説明をしたとの事。副団長は俺を貴族に暴行を加えたとして処刑するように団長に要求したそうだ。


だが、団長は馬である俺がしたことで偶然副団長に当たっただけだと要求を退けたらしい。逆にキーシャに対する発言を怒鳴り付け3日間の謹慎を命じたらしい。3日間なのは俺に蹴られた事で既に十分な罰だろうとの事。


「副団長も最初は謹慎なんて冗談じゃないって怒ってたけど団長から城に報告するって言われて最終的に黙ったわ。」


まあ、副団長が黙って言うことを聞くとも思えない。城に報告がいくと何かあるのか?


「分かんないって顔してるわね?この国の王様は誰かを差別するのを法律で禁止してるのよ。アンディーは知らないだろうけど世界には私達、人間以外にも人の姿をした種族がいるの。王様は他の種族とも仲良くしたいって人だから差別は重罪と決まってるの。ましてや人間同士でなんて。」


なるほど。副団長のキーシャに対する発言は女性差別だと訴えられたら捕まるのは向こうだもんな。なら、黙って謹慎を受け入れた方が良いって事か。


「だから、アンディーの事を許して貰う代わりに私への発言はなかった事にするって取引したの。」


違った。どうやらキーシャが取引してくれたそうだ。自分に対する侮辱よりも俺の事を考えてくれたって事か。


優しい人だな。どうにかして彼女の力になってあげたい。でも結局俺はキーシャの相棒になれなかったな。


結局、副団長からの仕返しもなかった俺はキーシャを騎士団に復帰させてあげる事も出来ない自分の無力感に少し落ち込みながら厩舎に戻されて最後の日を迎えた。


いつもの様に馬の世話係が皆に干し草を配っていると世話係が俺の所にだけ別の干し草を配って出ていく。


俺は疑問に思いながら干し草を食べようとして変な臭いがすることに気がついた。


「アンディーおはよう。今日で最後だからミグルさんが迎えに来るまで一緒にいようと思って来たの。」


キーシャが朝早くにそんな事を言いながら俺の所にやって来る。だけど今の俺にはキーシャを迎える余裕がない。なんか目眩がする。


「アンディー?どうしたの?」


キーシャが心配しながら声をかけてくる。あの干し草のせいかな?なんか変な臭いがしてたし。どうやら嗅いだだけでも影響があるようだ。あ、駄目だこれ。意識が。


「アンディー?!」


俺は意識を保てずその場に倒れこんだ。

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