《閑話:団長の憂鬱》

俺は騎士団団長のライアン。少し前から騎士団は困った事になっている。


最近、副団長になったハインケルが部下に対して厳しいからだ。


別に騎士団なんだ、厳しいのは当たり前だがハインケルの場合はやり過ぎだ。少し前も新人の騎士を扱きと称して死ぬ寸前まで剣で切りつけていた。


訓練で使う剣は刃がなく体が切れることはないが衝撃は伝わる。その新人は骨が砕け肺に刺さって危うく死ぬ所だった。


結局、新人は一命を取りとめたが恐怖から騎士団に戻ってくる事はなかった。


一度、ハインケルを呼び出し怒鳴り付けたが本人は俺の言葉を受け止めてないだろう。


奴のハインケル家はこの国ではかなりの力を持っている。父親のハインケル伯爵は俺を毛嫌いしているらしい。


騎士の分際で王様に気に入られている俺が目障りらしい。息子を副団長に押し上げたのも伯爵だ。邪魔な俺を追い出したいんだろう。


少しして、ハインケルが男爵になった。男爵は一番下だが貴族である事に変わりはない。ハインケル本人が貴族になったことで騎士の中に奴に従うものが出てきた。困ったものだ。


今日は王に呼ばれて城を訪れている。って言っても仕事ではなく愚痴を聞く為だ。


「はあ。ワシはもう疲れたよライアン。貴族どもは自分達の事しか考えておらん。民の事を守らずして何が貴族か。最近は、隣の国の動きがおかしいと報告が来ているのに国内がこれじゃあ何かあっても対応できんわい。」


疲れた様子で愚痴をこぼす我らが王。正直、政治の話しは俺には分からん。


「ところで、最近はミグルの奴はどうしておるのだ?1年前に会ってから来ておらんが?確か娘が居なくて寂しいと泣いておったのう。」


ミグルの奴、王様に何を話してんだよ!馬鹿なのか?


ミグルは俺の同期で若くして団長にまでなった男だ。かつて、国の危機を救った男でもある。今は結婚を機に引退して牧場をやっている。


「ミグルの奴なら今度騎士団に来ますよ!」


俺がそう言うと王はミグルに城に来るように伝えてくれと頼んできた。


ミグルには部下の為に馬を一匹貸して欲しいと頼んである。俺は王に、分かりました。と伝えて城を後にした。


それから数日後、騎士団にミグルの奴が馬を連れてやって来た。部下の居なくなった馬に似た白馬だ。


俺はミグルから馬を受け取り部下を探しに裏の訓練場に顔を出す。だが、探している部下は教会にいるらしい。


俺が馬を連れて教会に着くと中では一人の女性が祈っているのが見えた。


俺は中に入り彼女に声をかける。すると彼女は声をかけたのが俺だと分かると姿勢をただして俺に挨拶をした。


俺は彼女に訪ねてきた理由を話して外へと出る。すると外では孤児院の子供達が馬に集まっていた。


子供達が孤児院に帰った後、彼女に騎士団に復帰するように言うが断られてしまう。彼女は有望株だ。彼女がこのまま騎士団に戻らないと大きな損失だ。


仕方がない。俺は彼女に馬の世話をするように命じて教会を後にする。こうなったらミグルの言葉を信じてあの頭の良い馬に任せてみるか!





はあ。面倒くさいなコイツ。


「何故、騎士団を休んでいる女の為なんかに馬を借りたんだ!そんなことに経費を使う暇があるならクビにして新しい団員を連れてくるのが貴様の仕事じゃないのか!」


俺の前でそう喚くハインケル。教会から戻ってきて書類仕事をしているとコイツが入ってきた。仮にも団長に対して貴様って言うのはどうなんだ?


コイツは男爵になってから更に調子に乗っている。取り巻きなんて出来たから助長してんだろうな。


「俺が決めたことに何か文句でもあるのか?キーシャは有能な騎士だ。彼女の代わりなんて簡単には見つからん!わかったら出ていけ!」


俺はハインケルを怒鳴り付け部屋から追い出す。部屋の外ではハインケルの奴が文句を言っているが無視して仕事に戻る。


翌日、書類仕事も全部終わり部下達の様子を見るため訓練場へと行くと、ドン!と大きな音が聞こえ同時にハインケルを呼ぶ声が聞こえて俺の隣を取り巻きに抱えられたハインケルが通り過ぎる。


「おいおい。一体なんの騒ぎだ?」


俺は訓練場にいた騎士達から話しを聞くうち怒りでハインケルをぶっ飛ばしたくなった。それだけキーシャへの発言は看過できるものじゃない。


だが、ミグルの馬。名前はアンディーだったか?コイツが先にぶっ飛ばしてくれたらしい。コイツも許せなかったんだろうな。良くやったぜ!


「こりゃあ、後が大変だな!」


だけど目を覚ましたハインケルの奴がなんて言ってくる事やら。この後の事を考えると面倒だ。


はあ。憂鬱だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る