《どうやらムカつく男らしい》
「おい。起きろ!おい。起きろって言ってんだろテメェ!」
夜、寝ていた俺は突然の怒鳴り声に目を覚ました。目を開ける訓練からと戻ってきていた他の馬が目に入る。
厩舎の中は柵で一匹ごとに別けられており俺の前には複数の馬がいる。さっきの声は戻ってきた馬達の一匹って所かな?
「おい。新入り!目が覚めたか?」
立ち上がった俺に前から声がかかる。俺が声の方を見ると、そこには髪をモヒカンにした変な馬がいた。モヒカンとか可笑しくて笑いそうだ!でも笑ったら面倒な事になる気がする。
「俺様はここのボスのダイアン様だ!いいか、新入り!お前は一番下だ。俺様の命令には絶対服従だ!」
目の前のモヒカンが変な事を言ってる!なんなのコイツ?別に俺は仲間じゃないんだけどな。
「おい。聞いてんのか?まさか逆らうつもりじゃねえだろうな?」
俺が考えてるとダイアンは不機嫌そうに唸ってくる。わかった、わかった。そう言って俺は再び横になる。はあ、1週間だけとはいえ面倒な事になりそうかな?
翌日、他の馬が相棒の騎士を乗せ訓練している中、キーシャに運動の為に訓練場に連れて来られた俺は一人で散歩をしていた。
訓練場はかなり広い。キーシャは離れた所で木の側に腰を落とし空をぼんやりと眺めている。多分、相棒の事を考えているんだろう。
暫くして、休憩時間なのか騎士達が馬から降りて何人かで集まって談笑している。
馬達も暇になったのか寝ている奴や草を食べている奴などがいる。そんな中、数匹の馬が近づいてくる。先頭はダイアンだ!
「おい、新入り!お前は何故訓練に参加させられてないんだ?お前だけ楽しやがって!」
そう言ってダイアンが体当たりしてくる!いきなりだな!
ダイアンの体当たりに少しだけ吹き飛ばされるが特に痛みはない。だけど急に喧嘩を売られてイラっとしたぞ!
俺はダイアンから距離をとって向かい合う。するとダイアンと取り巻きは距離をとった俺を見て馬鹿にしてくる。
「コイツ、ビビってやがるぜ!おい、向かってきてみろよ!」
ダイアンがそう言って取り巻きと一緒に笑っている。
うーん。俺は人間だった頃は喧嘩なんてしたことはない。それに馬と喧嘩するってのも人間としてどうなんだ?まあ、元だけどさ。
「お前の相棒の人間も腰抜けだもんな。相棒の馬が居なくなったからって言ってるが本当は戦うのが怖いんだぜ。俺様の相棒がそう言ってたしな!お前とお似合いだぜ!」
は?キーシャが腰抜け?お前の相棒がそう言ってるのか。そうか。ムカつくなお前と相棒。悲しんでいる人の気持ちが分からないならお前と相棒は馬鹿なんだな!
俺がそう言うとダイアンが再び向かってくる。俺が避けると向きを変えてくる。
「誰が馬鹿だ!お前には上下関係を叩き込んでやるぜ!」
そう言って向かってくるダイアン。上下関係ね。なら教えて貰おうか!
向かってくるダイアンだが攻撃が俺に当たらず取り巻き達にも加わるように命令している。
そろそろ面倒だな。いい加減ケリをつけるか。俺はダイアン達の攻撃を避けながら訓練場の一ヵ所を目指して走る。
「テメェ!逃げてんじゃねえぞ。待てよオラ!」
ダイアンが俺に追い付きながら噛み付こうとしてくる。へぇ。結構速いなコイツ。俺は更にスピードを上げて目的の場所に辿り着く。
「追い付いたぞテメェ!お前ら行け!」
俺が止まると追い付いたダイアン達が襲いかかってくる。俺は取り巻きの攻撃を避けてダイアンに向かっていく。
ドボン!!
俺の後ろから攻撃を避けられた取り巻き達が水に落ちる音が聞こえてくる。俺は向かってくるダイアンを避けて後ろに回り思いっきり体当たりをしてダイアンを池に落とした。
池に落とされたダイアン達は溺れそうになりながら地面に上がろうとする。
さて、どっちが上か分かったな。お前が下で俺が上だ。だから今度俺の前でキーシャを馬鹿にしたら次は水に落とすだけじゃ済まさないぞ?分かったな!
俺が池にいるダイアン達にそう言うとダイアンは、分かったから助けてくれ!と必死に頼んでくる。よし!
俺はダイアン達を一匹ずつ噛みついて池から上がるのを手助けしてやる。ダイアン達は地面に上がると濡れた寒さでブルブル震えている。
少しすると、キーシャや他の騎士達が俺達の元へとやってくる。
「アンディー!あなた喧嘩してたのね!喧嘩なんて駄目じゃない、見てこの子達震えてるわ!」
キーシャは訓練場にあったタオルでダイアンを拭いてやりながら俺を叱ってくる。他の騎士達も濡れた取り巻き達を拭いてやっている。
「おい!邪魔だ、どけ!」
すると後から偉そうな騎士が取り巻きを引き連れてやってくる。
「貴様だな?私の馬を池に落としたのは!その首、切り落としてくれるわ!」
後から来た騎士は俺を見つけると剣を抜いて向けてくる。何だコイツ?昨日見た騎士の中には居なかったぞ。
「副団長!何をするつもりですか?」
キーシャが俺の前に立って男に怒鳴る。コイツが騎士団の副団長なのか?
「キーシャ、貴様。誰に向かって口を聞いている?お前など腰抜けの分際で騎士を名乗る恥知らずだろうが!避けないと貴様から始末するぞ!」
そう言ってキーシャに剣を突きつける副団長。周りの騎士達は副団長を睨んでいるが止めようとはしない。何で誰もコイツを止めないんだ?
「例え貴方が貴族だとしてもいきなり部下を切ったら団長が黙ってませんよ?ここは、貴族の階級なんて関係ない場所なんだから!」
剣を突きつけられても一歩も引かないキーシャ。コイツ貴族なのか。だから誰もコイツを止めようとしないのか。
「団長が何だと言うのだ?私が副団長になった今、アイツの時代は終わりだ!すぐにでも引き摺り落としてくれるわ!そうなったらキーシャ。貴様も騎士団には居られなくしてやるからな!」
キーシャに向かって、そう言い放つ副団長。そしてキーシャの事を下から上まで舐め回すように見た副団長がキーシャに向かって言葉を続ける。
「だが、貴様は見た目だけなら美人だし、騎士団から抜けた後は私の妾として可愛がってやろう!どうだ?貴族である私の妾となれるのだ。田舎娘の貴様には有り得ない名誉だろう!」
キーシャに向かってそういい放つ副団長。周りの数人いる女性騎士はもの凄い目付きで副団長を睨んでいる。直接そんな言葉を言われたキーシャは顔を真っ赤にして下を向き震えている。
ああ!駄目だ。もう限界!ムカついた!俺は自分の体を後ろに向ける。
「ふん。もういい。今日の所は許してやろう!さあ、立てダイアン!私の馬のくせに他の馬に負けるなど恥をかかせおって!」バシン!
ダイアンを連れてその場から離れようとする副団長。ムチで叩かれたダイアンは怖いのか震えている。
「早く帰るぞ、この駄馬が!」
ダイアンと取り巻きを引き連れ離れようとする副団長に俺は思いっきり蹴りを放った。
ドン!
鎧越しに後ろから蹴りを食らった副団長は前に吹き飛んでいく。鍛えているだろうし鎧越しだから死んではないだろう。ざまぁ見ろ!
「「うわー、副団長!しっかりして下さい!」」
吹っ飛んだ副団長を取り巻き達が抱えて走っていく。
「おいおい。一体なんの騒ぎだ?」
訓練を見に来た団長が運ばれる副団長を見てそう呟く。
「アンディー。良くやったわ。」
そんな中、キーシャが小さな声でそう言ってくる。その後、話しを聞いた団長は一言だけ言葉を漏らす。
「こりゃあ、後が大変だな!」
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