《どうやら相棒がいなくなったらしい》

さて、団長に連れられて来た教会だが少し困った状況だ!誰か助けて!


「わー!おうまさんだー!」「かっけー」「かわいいー」「うわーん。こわいよー」等々。俺の周りでワーワー騒ぐのは教会に隣接された孤児院の子供たち。


教会に着いたらシスターが連れた子供達に囲まれてしまった。団長は俺を置いて中に入ってしまったし、シスターは俺に驚いて泣いてしまった子供達の対応で精一杯の様だ。あ、コラ。飛び乗ろうとすんなー!


「お~い。チビッ子共!そのお馬さんは用があるから遊ぶのは終わりだ。」


しばらくして団長が女性を連れて教会から出てくる。どうやら彼女に会いに来たらしい。


「だんちょうのおじさんだー!こんにちわー!」


団長が声をかけると元気に挨拶をする子供達。まだ小さいのに挨拶がちゃんと出来て偉いな。


「おう。こんにちわ!そのお馬さんは今は用があるから駄目だけど後で孤児院に寄ってやるから今はシスターの言うこと聞けよ~!」


なんか勝手に後で行くことに決められた?疲れるのは俺なんだぞ!


団長に言われて素直にシスターに連れていかれる子供達。すると団長の隣にいる女性が口を開く。


「この子が団長が連れてきたって子ですか?確かミグルさんの牧場からって聞きましたが。」


喋りながら俺の事を撫でる女性。だけど表情が少し暗いな。何かあったのか?


「ああ。お前もそろそろ騎士団に戻ってこい。お前があの馬との付き合いが長いのは知ってるが居なくなってから半年だ。新しい馬に乗っても良いんじゃねえか?」


どうやら彼女も騎士団の一員らしいな。彼女の馬が居なくなったのか。それで半年間、騎士団を休んでいると。


「私が目を離したせいであの子は居なくなったんです。きっと生きてるはずなんです。なのに私だけが騎士団に戻るなんて出来ません。申し訳ないですが今はまだ騎士団に戻るつもりはありません。すみません。」


自分を責めるように語る女性。そんなに大事にしてたんだな、その馬のこと。まるで俺に接するミーナみたいだ。ミーナも俺が居なくなったら心配するだろうな。


「しょうがない。無理に戻しても訓練に身が入らないだろう。だが、代わりにアンディーの世話をお前に任せる。もともと、お前の新しい相棒になれば良いと思って呼んだ馬だからな。」


そう言って俺を指差す団長。俺も彼女の事が少し気になるし世話になるのは構わない。


「わかりました。じゃあ、預かりますね。私も後で宿舎に戻ります。その前に少しだけこの子と歩いてから帰ります。」


そう言って俺を撫でる彼女。俺を撫でる彼女の表情はどこか懐かしそうだ。


「わかった。なら、俺は先に団に戻っているぞ。それと、約束しちまったから孤児院に寄ってやってくれ。寄らなかったらチビ達に恨まれそうだ。」


俺の手綱を渡しながら笑ってそう言う団長。


「ふふ。わかりました。じゃあ孤児院に顔だして来ます。」


俺の手綱を受け取りそう言って笑う彼女。笑ってるの初めてだな。美人だし笑顔の方が俺は好きだな。


そのまま団長は騎士団に戻っていく。残ったのは俺と彼女だけ。


「さて、アンディーだったわね?私はキーシャよ。よろしくね?それじゃあ孤児院に行きましょうか!」


彼女がそう言ってくるから俺が頷くと、彼女は俺の事を見て少し驚き懐かしそうに言う。


「頭良いのね。私の相棒の子も頭が良かったのよ?」


そう言って俺を軽く撫でた後、俺達は孤児院へと向かった。


「わー!さっきのおうまさんだ!」


孤児院に着くと、すぐに1人の子供が気付き声をあげる。すると声に反応した子供達が一気に近づいてくる。


痛っ!?誰か俺の髪引っ張っただろ?誰だ!


「こら!君、今この子の毛を引っ張ったでしょ?何でそんな事をするの!」


俺が声を頼りに辺りを見渡すとキーシャが1人の少年を捕まえて怒っている。まあ、怒っているって言っても優しく諭してるようだが。


「うっ。ばれた!その、えっと、ごめんなさい。カッコいいから毛が欲しかったんだ。」


見つかった事で怒られると思った少年は俯きながらそう言って謝る。まあ、子供だし分からなくもない。


「そう。でも、いきなり引っ張ったりしたら痛いでしょ。欲しいなら言えば良かったのよ。とにかく、あの子に謝りなさい?あの子は頭が良いから謝れば許してくれるわ。」


そう言って少年を諭すキーシャだけど、ごめん俺の方を見て!子供達が群がってるから動けないんだけど!怪我させそうで怖い。


多分、そんな俺の姿は他から見たら情けなかったんだろう。俺の様子に気づいたキーシャや外の様子に気づいて孤児院の中から出てきたシスター達が可笑しそうに笑っている。


その後、キーシャやシスターのお陰で子供達の囲いから解放される。解放された後は、俺に乗ってみたいって子供達を1人ずつ乗せてから俺達は孤児院を後にする。


「「「またきてねー!」」」


子供達が大きく手を振って見送ってくれる。可愛いな。だけど、うん。凄い疲れた。


「アンディーは本当に頭が良いんだね?子供達が怪我しないように常に気を使ってあげてたでしょ。私の相棒の子も頭が良かったけどアンディー程じゃなかったわよ?」


空も暗くなり騎士団に向かう途中キーシャがそう声をかけてくる。そりゃ中身は人間ですから!しかし、キーシャは孤児院に居たときは楽しそうだったけど相棒の話しを始めたら途端に暗くなったな。


「あの子は何処にいるのかしら。あの子は私が子供の頃から一緒だったの。騎士団に入れる事がわかったから一緒に実家から連れてきたけど、こんな事になるなら家に残してくるんだったわ。」


歩きながら話しを続けるキーシャ。やがて立ち止まり空を見上げるキーシャの目尻に涙が浮かぶ。


こんな時、俺が人間だったら何かマシな言葉でもかけることが出来たのかもしれないけど俺は馬だからな。テレパスを使えば言葉を届けられるけど、まだ付き合いの浅い彼女に俺の事を話す訳にはいかない。


立ち止まるキーシャを心配しているとキーシャが俺の方をみた。


「心配してくれてるのね。なんとなくだけどアンディーの考えてる事がわかる気がするわね。その綺麗な瞳のせいかしら。まるで安心しろって言われてる気がするわ。」


俺を見ながら目尻を拭いてそんな事を言うキーシャ。少し元気が出たようだな。


再び歩き出した俺達はやがて騎士団に着く。そのまま俺は騎士団の他の馬がいる厩舎に連れていかれる。訓練中なのか俺の他に馬はいない。


「じゃあ、私は部屋に戻るわね。あなたも今日は疲れたでしょ?ゆっくり休んでね。」


そう言って厩舎から出ていくキーシャ。どうやら騎士団は団員の寮にもなってるらしいな。俺は言われた今日はもう寝る事にした。


その日の夜、寝ている俺に声がかかる。


「おい。起きろ!おい。起きろって言ってんだろテメェ!」

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