《どうやらバレてしまったらしい》

この世界にウマとして転生して1年。俺は体も大きくなり毛並みの綺麗な美しい白馬として有名になっていた。


この近辺の街では俺はかなり有名らしく一目見ようと人が牧場に押し寄せて来ている。


「キャー。凄い綺麗な馬だわ。何かご利益がありそうな雰囲気があるわね!」


今日も少し離れた街から来たらしい女性達が俺をみて歓声をあげている。正直、最初のほうは気恥ずかしくて慣れなかったけど今じゃ見られるのが気持ちいい。


母馬であるシンディーが一緒にいると更に騒がしくなる時もあり、牧場では俺達を特別扱いしてくれている。


この1年で俺は馬としての生活にもかなり慣れて人間だった事は忘れてないが今は馬である事を完全に受け入れた。


別に馬としての生活も悪くはない。面倒くさい学校もないし寝て過ごしていても誰にも怒られない!確かに死んだのは残念だけど転生したのは良かったかも知れない。


この1年で牧場の様子もかなり変わった。今まではミーナの家族だけで行っていた仕事が人を雇ったことで楽になってきたらしい。


俺にも弟ができた。って言っても本当の弟じゃない。ミーナの弟だ。名前はカールって言って可愛い子だ。


泣いたりしていても俺の背中に乗ると喜んで泣き止んだりする。そのまま、俺が歩きだすと凄く喜んでくれる可愛い弟みたいな存在だ。


牧場では馬の数も増えてきて、騎士団だけじゃなく商人や貴族などの馬が必要な相手とも取引するようになっていた。


一度、俺の噂を聞いた貴族が俺を買い取ろうとした事があったがミーナが泣き叫んだ為に両親も無理やり売ったりはせず取引は無しになった。


また、俺にも一つの出逢いがあった。って言っても馬に会ったわけじゃない。


出逢いってのは半年前の事だ。なんと俺の元に女神様がやって来たんだよ。ボロボロの状態で担がれながら!


出逢いってのは女神様を担いでいた人の方で、その人は女神様のお姉さんの一人らしい。彼女は女神様のミスに気が付いたらしく女神様を問い詰めて俺に会いに来たらしい。


「やあ。初めまして辰馬くん。私はこの馬鹿の姉で君にも分かりやすく言うと死神をやっているデスティアだ。」


そう言って笑顔で挨拶をしてくるデスティア様。死神?マジかよ!


「ああ。悪い悪い!君には言葉は分かっても喋る事は出来ないんだよな、今意識を繋ぐから待ってろ。」


そう言って俺の頭に手を置くデスティア様。すると頭の中にデスティア様の声が聞こえてきた。


「これでテレパシーで私達と話せるようになった。さて、何から聞きたい?」


テレパシー?じゃあ、俺の考えが勝手に伝わるってことか?


「その通りだ。今の考えも全部伝わっているぞ!」


そう言ってデスティア様は担いでいた女神様を地面に落とす。なるほど。じゃあ、何で俺に会いに来たのか教えて欲しいな。


「そうだな。まずは謝らせてくれ!すまない。」


そう言って頭を下げるデスティア様。何で謝られてるんだ?


「我が妹のミスにより君を死なせてすまない。あげくに転生したのが馬だなんて君は納得していない筈だ。」


いや、別にデスティア様が謝る必要はないんだけどなぁ。それに馬になったものは仕方ないんじゃないか?今さらどうしようもないだろ。


「確かにそうだが、君は少し落ち着きすぎじゃないか?本当に怒ってないのか?この馬鹿、君に転生について説明しなかっただろ。」


そう言われて俺は地面に倒れている女神様を見る。そう言えば馬になるなんて聞いてなかったな。あ、今ピクリと動いたぞ女神様。ほらまた動いた。気絶したふりだなコレ。


「やはりな。この馬鹿。いつまでも倒れてないで立て!」


そう言って女神様を立たせるデスティア様。女神様の方はと言うと俺と目が合うと気まずそうに挨拶してきた。


「ど、どうも。久しぶりだね。元気?」


そう言って軽く手を振る女神様。そう言えば女神様の名前はなんて言うんだろ。


「こいつは生命を司る女神でライラ。私達、女神の一番下の妹だ。」


そう言ってライラ様の頭を叩くデスティア様。


「痛いわね!いちいち叩かないでよ馬鹿!」


そう言って不貞腐れるライラ様だが、結局お二人が何しに来たのか判ってないな。


「そうだな。謝りに来たのが一番の目的だな。君は誓約書を書いただろ?あれについて覚えているか?」


あれか!なんとなく覚えてる。確か約束した事が書いてあったよな。記憶の事とかミスを秘密にする事とか。


「そうだ。だが、誓約書に小さく書かれていた一文には気付かなかったんじゃないか?」


小さく書かれた一文?見た覚えはないぞ。何て書いてあったんだ?


「生まれ変わるのがどんな生き物でも一切の責任を求めない。確かに一応、書いてあったが普通は気付かない。君に転生して貰わないとミスがバレるから隠してたんだよ。この馬鹿は!」


そんな一文が書いてあったのか?全く気付かなかった。


「別に隠してないわ。ちゃんと読まない方が悪いのよ!」


なんか詐欺師みたいな事を言うライラ様。この人、基本的に駄目な人なんじゃないか?性格が悪いだろ。


「誰の性格が悪いのよ!そんな事言うとバチが当たるわよ!」


心外だと怒るライラ様。まあ、この人の性格が悪いのは転生する前に気づいてたから今更だな。でも、そこまでしてミスを隠蔽したのに結局バレたんだな?


「普通なら気付かなかった。偶々ライラに会いに行ったら誓約書を見つけて問い質したわけだ。仮にも、ライラも女神だからな。本気で隠そうとしたなら私達には気づかれないよ!」


ふーん。じゃあ、騙したバチが当たったんだな(笑)とはいえ、別に俺は怒ってないしデスティア様もあまり怒らないで良いんじゃないか?


「君がそう言うなら良いんだが。しかし、君は何か不思議な奴だな。過去に同じ目にあった人間は皆、私達に憎しみを持っていたが君は違うみたいだ。私は君が気に入ったぞ!」


そう言って笑っているデスティア様。しかし死の女神と生命の女神か。女神様達は一体どんな存在なんだろ?


「私達の事が知りたいのか?まあ、君なら誰にも言わないだろうし教えてあげよう。私達、女神は女神界と呼ばれる場所に住んでいる。私達は女神界から君達が暮らす世界を管理する存在だよ!」


女神界?じゃあ最初にライラ様にあった神殿は女神界って事か?


「ええ、そうよ。本当ならあんたは天界に送られる所だったんだけど私が女神界に呼んだのよ。」


ライラ様が説明してくれる。天界って天国とか地獄みたいなものか?


「そうよ。まあ、天界に逝かれたら私のミスがすぐにお姉さま達にバレるから女神界に呼んだのよ。まあ、結局デスティアにはバレたんだけどね。」


なるほど。天界ってのは女神様達が管理してるって事かな。


「私は君にも分かるように簡単に説明すると、死ぬべき寿命で死が訪れるように管理する存在だ。それは、人間以外にも動物や植物。世界にも適応される。女神としては新米だがな。」


そう言って説明するデスティア様。まあ、確かに死神だ。


「私は、生命を管理する存在よ。ただ、世界を見てるだけの特にやる事のない仕事だわ。たまに災害を発生させて生命を増やし過ぎないようにするだけでね」


今度はライラ様が不満そうに説明する。災害とかってライラ様のせいなのか。


「ライラ!お前がそんな考えだから姉さん達はお前に重要な役割を与えないんだ。お前が真面目になれば役割だって変わるんだぞ!」


不満そうに言うライラ様にデスティア様が怒鳴り付ける。


「なによ。双子なのに姉気取りで偉そうに言わないでくれる。私はもう女神界に帰るわよ。結局、辰馬は怒ってないんだから。じゃあね。」


そう言って消えてしまったライラ様。てか、この二人って双子なんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る