《どうやら新しい生活は甘くないらしい》
ウマに転生してから約1週間がたった。もはやウマになってしまったのは諦めるしかなかった。
当初、俺を見た母馬は物凄く過保護な母だった。
「坊や!大丈夫なの?そのクソ人間共に嫌なことされてない?さあ、早く私の後ろに隠れなさい!」
そんな事を言って俺を後ろに追いやり女の子達を威嚇していた。うん。当然だけど俺もウマだからウマの言葉が分かる。そして母馬は口が凄く悪い。
「この人間共が!私の子供に何かしてないでしょうね?もし何かしてたらピーしてピーした後にピーするわよ!このクソ人間共が!」
どうやら人間に対して良い感情を持ってないようだ。元人間の俺からすれば俺に言われてる気がして仕方がない。
母馬の威嚇に俺を連れてきた女性達は大人しく離れて言った。俺からすれば、この馬の近くにいるのが怖い。
母馬は俺が無事たったのが分かると横になって俺を見ている。俺はやることがなく立ち尽くすしかない。すると、お腹がなってしまった。
「あら?坊やお腹が空いたの?なら私の所に来て飲みなさい!」
そんな事を言って立ち上がる母馬。え?飲みなさいって乳を飲めって事だよな?え?馬のを飲むの?
いやいやいや。流石に無理だよ!俺にとって人間だったのはさっきまでの事だ。流石に馬の乳を飲むなんて無理。普通に水が飲みたいし食べ物が欲しい。
だが小屋の中には、おそらく食事であろう干し草しか置いてない。詰んだ。
とにかく気を紛らわす為に小屋の中をぐるぐると歩き回る。
失敗した。中身は俺でも体は赤ちゃんの馬だ。歩き回るとすぐに限界がきた。お腹が空きすぎて立ってるのもツラい!
横になっている母馬の方を見る。母馬の乳が目につく。その瞬間、俺の喉がゴクリとなった気がする。
いや、流石に馬の乳を飲んだら人間だった自分を捨てるようなものだよ。見た目はともかく心は人間です。俺!
さらに一時間程たった。
ヒヒーン。ウマー。マジでウマイ!最高!ママのおっぱい美味しいー!
「あらあら。坊や、凄くお腹が空いてたのね?焦らないでゆっくり飲みなさい。」
もはや小屋の中には馬しか居ない。人間はいなかった。
お腹が膨れた俺は正気を取り戻すと、先程の自分の事を思い出して悶絶するしかなかった。完全にウマになってた気がする。
だけど、一度経験したら後は楽だった。最早、自分は人間じゃなくてウマだから馬の乳を飲んでもおかしくはない。開き直った俺はお腹が空いたら母馬の乳を飲んで過ごしていた。
そんな1週間を過ごしていて色々とわかった。人間の言葉が分かるのはありがたい。
ここは大きな牧場で色んな動物がいるらしい。近くに大きな街があるらしく、街の食料となる家畜を育てているらしい。
小屋の中にいる馬は食料ではなく、街にいる騎士団に卸す為の馬達らしい。もちろん俺もその中の一匹である事は間違いない。
それから女神様の言ってた通り、この世界は魔法があるらしい。魔法は練習すれば誰でも使えるらしく俺を紐で引っ張ってた女の子が魔法の練習を毎日していた。牧場の娘で名前はミーナというらしい。
ミーナは家庭教師の魔法使いに教えて貰いながら練習を繰り返していた。魔法使いが言うには魔法は便利だが危険な魔法も多く、魔法を使うには注意が必要とのこと。
ミーナの母親や父親、叔母さんも魔法は当然使えていた。小屋の中から父親を覗いてたら丁度、羊の解体をしている所だった。魔法で次々と羊を解体していく姿は凄く恐ろしかった。
今でも解体に失敗して目の前に飛んできた羊の生首の顔が忘れられない。
それから、俺は馬や人間以外の言葉も分かるらしい。俺の言葉は伝わらないが何を言っているかは分かる。
最近になって小屋から出してもらえる様になった俺はいつもの様に牧場を歩き回る。すると、鳥が俺の背中に止まる。
「今日もこの馬鹿ぐるぐる歩き回ってるぜ!」
「本当に馬鹿の一つ覚えだよな。ああ、馬だから仕方ないか!」
イラッ!俺は勢いよくジャンプする。鳥達は俺が急に動いたから振り落とされる。この鳥達は最近、こうして俺の事を馬鹿にしに来ている鳥達だ。
このように他の生き物の言葉も普通に分かるようだ。牧場でも隣の羊達が間抜けな会話をしているのがよく聞こえる。
「今日も道を間違えちゃったわ。皆同じにしか見えないから一匹が間違うと釣られちゃうのよねー」
「そうよねー」なんて事を言っているお前達も見た目は一緒だからな!
「アンディー。遊ぼう!」
牧場の娘のミーナが俺に近づいてくる。ミーナは俺にアンディーって名前をつけて可愛がってくれる。俺からすると妹みたいで可愛いけどミーナは俺を弟の様に感じているようだ。
ミーナを背中にのせて走りだす。1週間も立つと走り回る事も出来るようになった。最初の1週間は小屋から出して貰えなかったけど今は出してくれる。
「アンディー速~い!」
俺の背中で楽しそうに言うミーナ。ミーナは牧場の手伝い等が忙しく友達が居ないらしい。俺が小屋から出てくるときは、いつも俺の所に来ている。
ミーナといえば魔法の天才だと家庭教師の魔法使いが騒いでいたな。ミーナの両親に直ぐにでも魔法の学校に通わせるべきだと言っていた。
ミーナは俺と遊べなくなるから嫌だと言ってたけどミーナの将来がかかっているなら行くべきだろう。
俺が外に出ていられる時間が終わり、ミーナは残念そうに手伝いに戻っていく。俺が小屋に戻ると母馬が一瞬だけこちらを見て直ぐにそっぽを向く。絶賛、喧嘩中です!
理由は俺がミーナと遊んでいるから。俺の母馬である彼女の名前はシンディー。年は5歳で若い馬らしい。
彼女は人間が嫌いで昔に酷い扱いを別の牧場で受けていたらしく俺がミーナと仲良くするのを良く思ってないらしい。
あまりにしつこいから一度うるさいと怒ったら不貞腐れてこの調子だ!この2日程たいして話してない。だが一応、乳だけは飲ましてくれる
そんな風に過ごしている俺だが、問題が発生した。俺にも干し草が出され始めた。
「アンディーご飯だよ!」
そう言ってミーナが俺の前に干し草を置く。シンディーも隣で出された干し草を食べている。俺はミーナを見る。ミーナ満面の笑み。
流石に干し草を食べたくない。でも食べないとミーナがショックを受けるかもしれない。ミーナをとるか自分をとるか。難しい選択だよ!
「あ!そうだアンディー。今日はアンディー初めてだから干し草の後にコレもあげるね!」
そう言ってミーナが取り出したのはリンゴに似た食べ物。隣からゴクリと音が聞こえる。見るとシンディーが涎を垂らしてリンゴに似たのを見ている。
シンディーの視線に気づいたミーナはリンゴ?をシンディーに投げる。それをキャッチしたシンディーからシャリシャリと音が聞こえる。間違いなくリンゴだと思う。
「ほら。アンディーにも干し草食べたらデザートにあげるよ!」
そう言って俺にリンゴを見せるミーナ。食べたい。しかし食べるためには干し草を食べないといけない。うーん。仕方ない!
俺は干し草を少し食べてみる。この世界に来て初めて見た地球の面影。それにリンゴは俺の好物でもある。リンゴの為、俺は我慢して干し草を食べていく。
あれ?干し草も以外と悪くないかも?俺は干し草を食べきりミーナからリンゴを貰う。うん。リンゴだ!甘くて美味しい!
そうして過ごす中で俺が異世界に転生して1年が過ぎた。
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