小さな詩人
恵瑠
第1話
小さな子供の口からこぼれることばは、大人には考えも及ばない、意外な発音と
構成で出来上がる。不思議な感覚だけれど、意味も分からないことが多いけど、
そのことばは、心を優しく、優しくしてくれる。
家のまわりの、ただのその辺の散歩だって、彼らには宝物の宝庫。
私には、いつのまにか見えなくなっていたモノが、彼らによって見えたりもする。
あぜ道にしゃがんでいた彼らが、私の方へ振り向き、何かを訴える。麦わら帽子で太陽を遮っていても、額からは汗が流れ、髪の毛が頬にくっついている。
「きゃははは。うじょく~」
「うじょく~」
意味不明なことばで、彼らはボケ担当、突込み担当のように、ことばを放ち、笑い転げる。意味も分からず、なんなんだ? と呆れてしまうというのに、私も笑えてくるから、不思議だ。
「はい」
手渡されたのは、なんという名前かは知らないけど、散歩道に生えている小さな青い花。不器用な小さな手で、見事に根っこから引き抜かれたそれを、私に差出し、にっこりとほほ笑む。
「ありがとう」
私が言うと、彼らは、「ありがとう」が嬉しくて、次々にその花を引き抜き、私に持ってくる。
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
いつのまにか、両手いっぱいに、泥つき根っこつきの花束が出来上がる。
「かーいー」
「かーいー」
双子だからか? 同じことばを繰り返す彼ら。
あ! 今のは「かわいい」だな! そう思いつき、「分かったぞ!」と言いたくて顔を上げると、彼らはもうすでに次のターゲットを見つけだし、駆けだしていった後。
その後ろを慌てて付いていくと、かたっぽが「あっ!」と、空を指さし、高い高い空を見上げる。もうかたっぽも、別の方を指さし、「あっ!」と空を見上げる。どっちを見るべきかと悩む私に、彼らは「あーあーあー」の連続。「あーあーあー?」なんだそれは? 解読するために、脳にしまってある、彼らのこれまでの
発言の数々を急いで紐解く。
「もくもく~」
「もくもく~」
続けて出てきたことばに、何気に空を見上げると、夏空特有の入道雲。空いっぱいに広がって、どこまでも大きく、果てしなく広がっている雲。
「うん。雲だね。もくもくしてるね。かわいいね。」
私が言うと、彼らは満足そうに繰り返す。
「かーいー。もくもく」
「かーいー。もくもく」
大人になると忘れてしまう、かわいいことばたち。この時期だけの、大切な、かわいいことば。
小さな詩人は、今日もまた意味不明なことばを生み出し、私を悩ませるけど、出来るだけ忘れないように、出来るだけ残してあげられるように。
彼らが作り出す『詩』を、私は、ノートに書き留めておこうと思う。
小さな詩人 恵瑠 @eruneko0629
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