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午前7時45分 それは彼達の青春が始まる時間



 ショートホームルームそれは1日の学生生活を始めるためは欠かせない神聖なる儀式。自分のクラスの教室の前に今一度、赤石一は気合を入れなおす。彼らの尊敬を一身に受ける”立派な大人”を演じるために。ビシッと折り目の付いたおろしたてスーツとYシャツ、長すぎず身近過ぎず清潔感のある髪型、出で立ちはもちろんのこと、しゃべる言葉、無意識の所作一つ一つすべてを彼らの想像に少しでも近づけるために。


「おはよう!」


 騒がしい教室に覇気のある赤石の心地よい朝の挨拶が響く。彼の入場に先ほどまでと打って変わって、教室が水を打ったように静かになる。

 教卓から生徒一人ひとりの顔を一巡した赤石は満足そうにクラスに告げる


「よし!みんな今日も全員居るようで何より、号令」


「黙想ッッ!」


号令係の激が再び教室を引き締める。


「起立!」


「気をつけ、礼ッ」


「「「「「「「「「よろしくお願いします」」」」」」」」


「着席ッ」


 【起立、気をつけ、礼】この動作を赤石は、生徒指導の中で一番重要視している。号令はその授業を受ける教員への礼儀、そして日常から勉強という集中のスイッチの一つであると考えているからだ。教員は初めて指導するクラスや学年であっても、号令一つで、そのクラスの質、担当教員の力量を理解する。号令がおざなりなクラスは総じて教員の指導力がない。だからこそ赤石は、彼達に入学から1ヶ月みっちりと号令と礼節の指導をしてきた。無論、社会に出てから必ず必要になると理由を明確にしてからだ。そんな赤石の熱い思いに彼らは答えた。今ではクラス全員一切乱れなく所作を会得する事ができている。


「はい。こちらこそ今日もよろしお願いします。5月14日水曜日、 を始めます。まずは出席から、1番……」

 出席確認も担任業務で大切な作業だ。先ほどとの挨拶は1対30であるが、この時だけはクラス全員、一人ひとりと1対1のコミュニケーションであるからだ。生徒一人ひとりと目を合わせ、名前を呼ぶ。時間にして4秒、その刹那でその生徒の体調を理解するのには生徒一人ひとりの深い個人理解が必要になる。


「14番……」


 声の高さ、髪型、服装、しぐさ、様子。何か一つでも疑える点があればそれを逃してはいけない。何か一つでもその生徒のSOSサインであるかもしれないからだ。多感な時期だ、


「26番……」


 生徒が悩んでいることはなんだってあり得る。部活、生徒間のトラブル、家族問題、教員の想像も及ばない問題を抱えてしまう生徒もいる。肉親では近すぎる、友人には恥ずかしい、そうして一人で抱えてしまう生徒なんてごまんといる。問題が彼らを蝕むまえに、気づけるのは担任しかいない。だからこそ絶対に欠かしてはいけないし、気を抜けない作業だ。


「31番……」


最後の生徒を呼び終わり、全生徒の体調を確認し終える。


「では、今日の予定を。日直」


 元気よく返事をし、赤石に呼ばれた日直はその場に起立し、今日の時間割を発表する。


「ありがとう、今日は先週も説明した通り、5限の数学が教室移動だ、忘れず時間に間に合うように移動すること」


 いくら指導を厳しくしても、生徒もまだまだ未熟な部分も多い。授業での連絡事項、持ち物、放課後の予定など、生徒のスケジュール管理も担任としてしっかりと指導する。


 「それと、保護者の出欠席表も今日が提出日だ、日直悪いが集めてあとで職員室まで」


再び日直が元気よく返事をする。赤石は一度黙りこみ生徒の顔を眺める。そうすることで、生徒に再び自分の集中を促す。


「最後に、先週の君たちの授業態度がよく、体育の先生に褒められました。非常に私は嬉しいです。このクラスの生徒は非常に元気がよく、授業もしっかりと受けてくれていると。俺はいつもみんなに様々なことに指導をしていますね。ほかのクラスでは行っていない、お辞儀ひとつでも正しいやり方を指導しました。君たちは窮屈に思うかもしれない、なんで自分だけと思うかもしれない。だがしかし、今回体育の先生がほめてくださったように、君たちの努力をほかの先生は評価しています。その一つ一つの態度をしっかりとみています。本校の素晴らしい生徒だと。今後もみなさんがんばりましょう」


 ショートホームルームの最後の話は生徒に必ず印象に残る。放課後の行事や忘れてほしくない指導は必ず最後に行う。これは生徒の士気向上にもつかえる。失敗を厳しく非難すればその日一日のクラスのモチベーションは下がるし、褒められばさら上を目指そうとモチベーションも保てる。



「以上だ。では号令」


再びクラスが一丸となって所作を行う。


「よし、今日も1日頑張って来い!」


そう言って赤石は教室を出て行った。


生徒と教員お互いが、尊重しあい、高めあう。最良最高のショートホームルームこれが彼と彼達の普通日常


午前7時45分 それは彼達の青春が始まる時間

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