第4話

 その日は、朝から慌ただしかった。

 平和ぼけした日本から来た、俺にでも分かる、嫌な気配がした。

 城の周り、少し遠いけど、人の気配が…っていうか、あちらこちらからしてくる。

「ああ。これは囲まれてしまっているなぁ」

 魔王は、笑いながら言ってる。

 夜中のうちに、国の軍隊が移動してきたようだった。

 俺がのんきに寝ているうちに。

「わるい。俺が……」

「ユーマのせいでは無いのだ。我も気付かなかったのだから、お互い様なのだ」

 魔王は、ふよふよ俺の肩の高さで浮いて、俺の周りをくるんとまわる。

「気にすることはないのだ。…な」

 俺をなぐさめるように言う。

 いや、俺、自宅警備で雇われてるのに、仕事できてなくないか?

「おお。魔術師って…まだ、いたのか。まぁ、我がいるくらいだから、いないわけ無いか」

 魔王は、わざとテンション高く言ってるように見える。

「大丈夫…なのか?」

 俺は、魔王が無理に元気よくしてる気がして訊いた。

「兵士はね。飾りだなのだ、我にとっては…。ごちそうさまって感じ?

 何度か、精気抜いて遺体にして送り返したから、業を煮やしたのだ、むこうも」

 人間は、エサ…か。

「そっか、大丈夫ならいいんだ。

 で、俺はどこにいれば良い?」

「我の側が、一番安全なのだ」

 胸を張って魔王が言う。前もそんなことがあったな。出会った日か。

「心配するなユーマ。そなたを守るくらい、我には動作無いぞ」

 ……情けないんですけど。幼女にしか見えない、魔王に守られるなんて。


 ドゴーン。

 地響きとともに大きな音がした。大砲を撃ち込まれている。

 でも、まだ一応結界が、阻んでいるようだ。

 波動でなんか城の壁からパラパラと破片が落ちているけど。

 結界より先に波動で城が壊れそうな勢いだ。

 天井にいたコウモリもパニックになって飛び回っているし…。

 魔王は、ずっと俺の腕をもって、意識を遠くに飛ばしているようだった。

 まっすぐ見ているのに、どこか焦点が合わないような。

「まずい…のだ」

「え?」

「結界が破られそうなのだ。

 最近、こっちの世界の人間の精気しか吸えなかったから……魔力が」

 魔王が、俺の方をジッと見る。

 ああ……そうか。俺も…エサ…だよな、魔王の。

 俺は、ちゃんと笑えてるだろうか。軽いノリで…言えるだろうか。

「いいぜ。俺の精気吸えば?」

 一瞬、魔王はビックリした顔をした。

 そして、切なそうに優しく笑う。

 次の瞬間、この前のようにザーッと風が吹いたかと思うと…。

 自宅の…俺の世界の部屋にいた。

 え?

「な…んだよ。これ……」

 俺は、両腕両膝付いた状態で…立てないでいた。

 うそだろ?なんで…。

 エサだったんだろ?俺は…。

 異世界人の精気の方が多分、魔力が多くとれて。

 だから召喚されたんじゃなかったのか。

 あんな中に魔王、一人で置いてきて。俺は…。


 エサでいい。

 エサでいいから、あの世界に戻してくれ。

 魔王の元に……。


 いつかの、あの紫のオーラが身体を包み込む…暖かい。

 意識が…一瞬、途切れた。

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