第3話

 魔王城…って言っても、廃城だ。

 居住区は限られている。上の方はだいぶ崩れさっているから、だいたいが1階と2階…せいぜい3階の途中まで見て回れば良いという。

 本当に、簡単なお仕事だ。

 しかし…魔王はここに一人で、住んでいるのだろうか…。

 とりあえず、仕事だから、言われたとおりに巡回する。

 2階から1階に降りるときに、外でガザッと音がした。壁に沿ってそっと降りて見ると、なにか…兵士?のような甲冑を着た男性が、何人かで探りに来てる。

 これは、魔王に知らせないといけないかな…と思って、そっとその場を離れようとすると

「本当だ。最近なんか、気配がすると思ったのだ」

 ふよっと、俺の肩口に魔王が現れる。

「う」わ~と、叫びそうになって、魔王から口をふさがれた。

 小さな手なのに、俺の声は外に漏れなかった。魔力…使ったのか?

「ユーマ。大声出してはダメなのだ」

 眉をひそめて、魔王が言う。

 いや…そういう事が出来るのなら、前もって言っておいてくれ。

 そう思っている間にも、魔王はふよふよと俺の前に出て行く。

「おい」

 見つかると思い、俺は慌てて止めようとした。

 その気配を感じてか、魔王は、こっちを振り返り、微笑みながらいう。

「ご苦労であった。部屋で休むが良い」

 ザァ~と、風が吹いたかと思うと、次の瞬間、俺はお城の自分の部屋にいた。

 ちょっ待てよ。

 俺は、部屋から飛び出し、廊下を走った。

 すると、ちょうど2階にふよふよと上がってこようとしていた、魔王に会う。

 あれ?

「どうしたのだ?せわしないなぁ。ユーマは」

 慌ててる俺を見て、魔王は笑う。

「怪我は?」

 魔王は、キョトンとする。

「怪我?」

「いや…さっき、兵士が来てたろ?」

「ああ…。早々にお帰り頂いた。我の敷地内だしな」

 なんだか、嬉しそうにいう。

「ユーマが、ちゃんと仕事してくれるから助かるのだ」

 ああ。俺、見つけるだけが仕事か……。

 何だか本当に、簡単だな。




 朝、昼、晩とご飯は、魔王と一緒に食べる。

 たわいないおしゃべりと、笑顔。向こうにいた時は、誰かとご飯を食べることも、食べたとしても、こんな風に笑い合うことも無かった気がする。

 午前中と午後は、お城の巡回。何か来たら呼ぶまでも無く、魔王が現れる。

 夕飯の後は、魔王が気まぐれでやってくる時もあるし、一人でのんびり過ごしている時もある。

 部屋はいつの間にか、掃除がされており、服もいつも綺麗だ。

 ゲームもテレビもない世界だから、退屈になるかもと思っていたけど、結構、馴染んでしまっていた。

 こんな世界も悪くない…と。

 少し、魔王に情がわいたのかも知れない。



 いつものように夕食を食べた後、気まぐれに魔王が俺の部屋にやってきていた。

 暖炉の前で、二人して絨毯に寝そべっている。

 普段は、俺の、向こうでの生活の話をしているのだが……。

「魔王は、いつからここにいるんだ?」

 そういえば、俺は魔王のこと何も知らないなと思い訊いてみる。

 名前は、多分覚えていても言わないだろうから。

「う~ん。いつからかな。気が付いたらここにいたのだ」

 はぐらかしてる感じもしない。

「ずっと、一人で?

 俺の他にも、誰か連れて来たんじゃないのか?」

 そうだ、初めて会話しようとしてくれたって言ってたじゃないか。

「……なんで、そんなこと訊くのだ?」

 魔王が、ちょっと怪訝そうな顔をした。

「そういえば、なんでだろう?」

 もともと俺は、人のバックグラウンドに、あまり興味を持たなかったのに。

 それでも

「もしかしたら、ずっとここで暮らすことになるかも、知れないんだろう?

 雇い主とはいえ、同居人の事には、興味はもつさ」

「いたよ。ただ、みんなすぐに居なくなった」

 魔王は、俺の方を見ず。まっすぐ向いてそう言ったまま、黙ってしまった。

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