日本の生活万歳!
「ハルちゃん、いってらっしゃい」
「行ってきます」
俺は母さんに見送られ、玄関を出た。
相変わらず制服のスカートには慣れない。
下からスースー空気が入ってくるの、どうにかなんないのか。
これで自転車とか乗んの、すごいな。
徒歩で通えるところにあってよかったと、通学路をのんびりと歩く。
日本に戻ってから、恐る恐る家に向かった。
頭がおかしいと思われても構わないと、俺は両親と姉に、別世界で女に生まれ変わって、戻ってきたと伝えたところ。
すんなりと受け入れらた。
こっちが驚くくらい。
だけど、俺の仏壇はまだ居間にあって微妙な気持ちだ。
母曰く、男の春義は死んでしまったから、と言っていたが、それはどうなのかと思う。
俺は俺なのに。
だけど、こんな体になっても受け入れたくれた両親と姉には感謝していて、仏壇の男の俺の写真は、見ないようにしている。
「ハルちゃん、おはよう!」
教室に入ると最初に声をかけてきたのは、奈々子だ。
男の時は、眺めるだけで手が届かなかったのに、こうして友達になってるのが本当に不思議。
「おはようございます」
「もう、ハルちゃんったら。また敬語使って。やめてって言っているのに」
「ごめん」
俺の謝罪に奈々子はふわりと笑顔を見せ、どきまぎする。
こんな風に笑ってもらえるなんて、男の時は考えもしなかった。
ちまみに、男の俺ーー春義は交通事故で死亡、今の女の俺は養子って扱いになっている。
ライトノベルのTS転生そのものだが、さすがに現実にそれが起きるなんて考えないから、誰も俺のことを本人だとはわかっていない。
「ハル~。おはおう」
その声にぞくっと寒気が来て、あえて振り向かないようにした。
声の主はクラス一のモテ男――今の俺からしたら勘違い男としか思えないんだが、持木(もてぎ)はキラキラと笑顔を俺に振りまいている。
「お、おはようございます」
無視すると、なんか物凄い視線を感じるので、とりあえず挨拶だけは返した。
こいつは、クラスの女の子みんなにチヤホヤされたいらしく、邪険な俺にまとわりついてくる。
うざいとしか思えないけど。
男だった時と、今とクラスの印象はかなり違う。
俺は目立たない暗い奴で、いつも本を読んでるか、スマホでゲームしているかで、友達も同じタイプだ。
なので、クラス一可愛い奈々子とか、モテ男持木などと、話す機会などなかった。
だが、こうして女になって転入してくれると、なぜか話しかけられ、以前は話をしていたり、友達だった奴らから、遠い目で見られるようになった。
まあ、女に生まれ変わったなどど、ばれて問題になるよりはいいけど、さびしい気持ちは感じている。
化粧にもおしゃれにも興味がない俺だが、毎朝姉ちゃんに色々されているため、普通の女子高生だと思う。かなりイケテル方の。
だからだと思うけど、さびしい。
こうして、今の女の俺に話しかけてくるのは、どうも馬が合わない感じの子が多いのに。
化粧の話も、服の話も、ゴシップごときの話とかもどうもでいい。
ゲーム、アニメ、本の話をしたいのに。
憧れだった奈々子ちゃんと話したり、その笑顔を見るのは夢のようだけど、やっぱり話す内容にはついていけない。
拷問のような時間が終わり、授業が始まるとほっとする。
日本とシュスールの時間の流れは違うみたいで、俺がシュスールで過ごした3週間は日本ではわずか1週間だった。
なので、勉強にもおくれることなく、ついていけてる。
俺が「故人である春義」の教科書を使っているのはちょっと引かれているが、家族の了承を得ているということで、何か言ってくる奴はいなかった。
部活も入っていない俺は、授業が終わると、熱い誘いをかけてくる奈々子ちゃんと持木を振り切り、帰路に着く。
日本に戻ってきて1ヶ月、俺はこんな毎日を繰り返している。
ちなみに、俺は今高一で、16歳だ。女になってからは、わからない。
女暦は日本、この世界基準だと、1ヶ月と1週間か。
シュスールだと、こっちで1ヶ月だから、シュスールの時間の流れだと多分3ヶ月かな。
――そうか、そう考えるとシュスールだと3ヶ月もたっているのか。
改めて驚くが、向こうからは何も連絡がない。
思えば思念を通じて通信が開くらしいけど、帰りたい、いやいや、戻りたいなんて思わないから、極力考えないようにしている。
女になってちょっと不思議だけど、やっぱり日本がいいなあと思う。
大体あっちにいったら、ダイケンの婚約者だし。いやいや、やっぱり日本で過ごしたほうがいい。
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