異類婚姻譚
婚約破棄!
だれも生き返らせてなんて頼んでいない。
まあ、死んだことすらわからなかったけど。
だけど、こうして別の体だけど生き返った。
でもなんで、女?
俺が駄犬と罵ったから?そのリベンジか?
屈辱を与えたかったんだな?
それは理屈として理解できる。
だけど、だけど、なんでいきなり婚約者なんだ?
おい、おい。
駄犬って罵っていた奴と結婚できるのか?
お前Mかよ、俺はSじゃないぞ!
こんな俺の心の葛藤は、誰に届くこともなく今日の勉強に追われる。
***
「ハルヨシ様、ハルヨシ様!」
「うるさい。もううんざりだ!」
あまりにもうるさいマナー教師の白い人狼にブチ切れて、俺は部屋を出た。
「ぎゃ!ネギーラ!」
しかし、葱男が待ち構えていたように仁王立ちしてて、足を止めるしかなかった。
白い顔には薄笑い。目は射抜くように俺を睨んでいる。
「ハルヨシ。何をしているのでしょうか?」
「べ、別に。関係ないだろ」
「関係なくありません。しかも話し方が全然変わっておりません」
「ふん。あんな気色悪い話しかたができるかよ」
「できるかよ、ではなく、できるわけありませんわと言うべきですよ。ハルヨシ」
「けっつ、気色悪い」
「リンダ。さあ、ハルヨシを連れて話し方の訓練をしましょう。私がみっちり側についているから、安心しなさい」
「本当ですか?ネギーラ様。助かります。本当に」
マナー教師の白い人狼は毛だらかの顔にもかかわらず少しだけ頬の部分が赤くなったのがわかった。目を見るとうっとりとネギーラに熱い視線を向けていた。
ーーネギーラのことが好きなんだ?こんなに冷ややかなやつなのに?ってうか、葱だよ??
***
ダイケンの婚約者になってから、俺の地獄の日々が始まった。
婚約者としてふさわしい者になるため、教師がついたのだ。
教師は野菜系ではなく、人狼だった。
そう、ネギーラ大好きの白い人狼リンダ。
女性らしい話し方をまずマスターしろと指導が入り、俺は気色悪くなって逃げ出してしまった。
だけど、俺の行動を読んでいたネギーラによって、待ち伏せされ、こうして、俺はまだ部屋に戻されていた。
「ハルヨシ様。そんな風に大股で歩いてはなりません。だいたいどうしてドレスを身につけないのですか?」
「あんなにおっぱいを強調したドレスなんかきれるかよ。ドレス自体身につけたくないのに」
「お、おっぱいなど、なんと破廉恥な!」
「……リンダ。今日はこの辺でもういいですよ。あとはしっかり私がハルヨシに教えますので」
え?俺。地雷踏んだ?
リンダが部屋からいなくなり、俺はネギーラと二人っきり。
そして説教が始まる。
だから、婚約者になんてなりたくないんだ。
なんでこんな目に。
召使のことはまだましだった。
そうか、婚約者をやめてもらえればいいのか。
「ハルヨシ。わかりましたか?いや、わかってないですね。その顔」
「わかるわけないだろう。だって俺が婚約者とはおかしいし。だから、俺は婚約破棄してもらうことにしたぞ」
「は?」
「だから婚約破棄。ダイケンから破棄してもらえればこの話なくなるだろう。婚約者じゃなくなったら、召使でもいいからさ」
「ハルヨシ」
ネギーラが珍しく微妙な表情をしていたが、俺は早速行動に出ることにした。
まず向かったのがダイケンの執務室だ。
10歳にしかならないのに、執務室とか大変だなと思う。だけど、同情で結婚はできないから。一生もんだ。
「ハルヨシ」
とりあえずノックをして入ると、何やら話し中だった。だけど俺が部屋に入るなり、嬉しそうなのはなんだろう。しかも人払いしたぞ。
いいのか?
「ハルヨシ。何か用か?」
「ああ」
そう用事ないとわざわざ来るわけない。
「俺との婚約破棄してくれ」
単刀直入にそう言うと、ダイケンは目を見開くと動きを止めてしまった。
ごめん。
なにかぬいぐるみみたいだと思ってしまった。
「嫌だ。なんで破棄してほしいんだ。お、俺が嫌いか?」
「き、嫌いとかそういうんじゃなくて、おかしいだろう」
そんな返しがくるとはおもわず動揺してしまった。
だって、眉がないけど、眉間の部分にシワがよって、澄んで目で見られるんだぞ。
ものすごい罪悪感。しかも、俺が嫌いかて。
いやいや、そうじゃなくて。
え?そうだよ、そう!
勝手にこの世界に連れてきて、女として生まれ変わらせるなんて、ひどい話じゃないか。嫌いになって当然だ。
なんで気がつかなかった。
「……うん。そうだ。俺はお前が嫌いだ」
そう言った俺を奴は見なかった。
ただ、うつむいて、そうか、と言っただけだった。
「ダイケン様」
空気が湿り、重くて息が苦しい。
それを破ってくれたのはネギーラで、うつむいたダイケン、動揺している俺を見て、首を横に振った。
「何が起きたのか、予想がつきます。まあ、頭を冷やして」
「ネギーラ。頭を冷やすことはないぞ。俺が強引だった。悪かった。だから、俺は決めた。ハルヨシを日本に返す。向こうでは死んでいることになっているが、黒田家の人なら受け入れてくれるだろう」
「ダイケン様」
ネギーラの驚いた顔、それよりも俺は信じられないダイケンの言葉に喜んだ。
日本に帰れる。
その選択肢があるとは思わなかった。
自分が死んだことはすでに理解できていた。だから、戻れるなんておもわなかったのだ。
俺は素直に喜んだ。
他になにも考えれなかった。
そう、周りが見えてなかった。俺はその時、ダイケンがどんな顔をしてそんなことを言ったのか、気づくこともなかった。
日本に戻るはトントン拍子で進んで、境界の側にいる。
思念をつないで、日本に送るってもらう。
日本への穴もわかるし、体は最後の樹族ネギーラの体で作れているので、俺もある意味樹族のようなものだ。
だから思念も使える。
初めは外からではなく、中から声が聞こえることに抵抗はあったが、人間慣れるものだ。
俺を送るのはネギーラ1人でできるということで、ダイケンは見送りにもこなかった。
屋敷でそっけなく別れを告げられ、ちょっとムカついたくらいだ。
なんだ、婚約者とか言っておきながら、なんだそれは。
そう思うと、まるで自分が婚約者であったことを認めるみたいで、嫌だったので、すぐに考えないようにして、俺もそっけなく返してやった。
ダイケンが一瞬視線を彷徨わせたのは、なんだったんだろう。
10歳の子供。だけど子供らしくない。
最初はこどもっぽいと思ったが、叔父から当主の座を取り戻してから、奴はすっかり子供でいることをやめたみたいだった。
俺に背を向け、小さくなっていく背中。
玄関の扉は閉められ、俺はネギーラに催促されて、境界へ
「ハルヨシ。何かあれば私か……、ダイケン様のことを強く思ってください。そうすれば通信は開きます」
それはこの世界に戻れるということなんだろう。
だけど、俺には必要ない。
日本に帰るんだ。
家族のいる日本へ。
こんな姿だけど、わかってくれる。
俺は曖昧な笑顔をネギーラに向けた。彼は諦めたような顔をしていたと思う。
穴の近くにいくと思いっきり付き飛ばされた。
文句を言おうとしても、なにも見えない。
真っ暗な穴は俺を包み込み、俺を気を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます