ダイケン当主になる!

 どんだけ急なんだというわけで、婚約発表パーティは三日後。

 俺のドレス、着たくもないものを準備くださって、当日を迎えた。

 化粧もさせられ、痛い靴も履かされ、泣きが入った。

 止めは迎えにきたダイケンが、子供の癖に真っ赤になっていたことだ。

 マセガキめ。


 これも嫌々ながらも、エスコート的に手を引かれ、俺たちは会場である広間に向かった。

主賓である俺たちは最後だ。


 賑わっていた会場に俺たちが入ると芯と静まり返った。

 そして見られる、滅茶苦茶見られる。


 会場にいたのは、狼族ばっかり。

 女性の狼族もいて、毛を長く伸ばして、髪留的なものをつけていて、ちょっと笑いそうになった。

 すみません。


 中には人間がいて、お、人間と思ったけど、変化した狼族で、周りの人たちから引かれていたな。

まあ、本来の姿を変えるのはやっぱりヒンシュクかうよな。


 狼ばっかりだったせいかなのか、信じたくないが、ダイケンがぎゅっと俺の手を握っていたせいか、緊張することもなく、いよいよ発表の時がやってきた。


「この度は集まってくれて礼を言う。我が甥のダイケンが婚約者を定めた。人間の姿をしているが、その体は樹族によって作られている。魂は異世界の者だ。名をハルヨシという」


 当主代理の癖に偉そうに、ジンペイは俺を紹介した。

 

「このハルヨシは、異世界で俺を救ってくれた恩人だ。だから魂をつれて帰り、樹族の術で蘇らせた」


 その言葉に続けるようにダイケンが言い、会場は少しざわめく。

 視線が少しだけ好意的になった気がする。

 まあ、命の恩人って言えば、そうか。

 そういえば、助けた形になるんだっけ。

 自分でもまさかああいう行動を取るなんて思わなかったけど。


 あの時を思い出しても、自分自身がわからない。

 まさに反射的だったから。


「ハルヨシ」

 

 名を呼ばれ、自分も何か言わないいけないことに気がつく。

 狼の顔が、目が自分に集中していて、妙な汗が出てきた。

 さっきまで緊張してなかったのに、緊張でのどがカラカラになる。


 ――っていうか、何を言うんだ?

 婚約者ですってことか、言いたくなんてないんだけど。

 そうも言えない状況にあり、めちゃくちゃネギーラが睨んでいたので、仕方なく俺は前に出た。


「ダイケン様の婚約者のハルヨシです。よろしくお願いします」


 ――こういう場の挨拶なんて知らないから、とりあえずそう言って頭を下げる。


 これでよかったようで、次に乾杯となった。

 狼の口でどうやって飲むのか、それは口を大きく開けてがばって入れる感じだ。けれども乾杯はするみたいで、人間と同じ風習でおかしくなった。

 婚約を結んだ、信頼関係をつなぐということで、俺のグラスにはダイケンが、ダイケンのグラスには俺が注ぐことになる。

 

「それでは、ダイケンの婚約を祝い、乾杯」


 ジンペイの奴。

 ダイケンは正統な後継者なのに呼び捨てかいっと突っ込みをいれたくなったが、とりあえず黙ってグラスを掲げた。グラス同士をくっつける必要はなく、高く掲げた後飲むだけだ。

 酒ではない、ジュースなので、安心して飲める。


 そうして俺がグラスを煽った瞬間、派手に砕ける音がして悲鳴が上がった。


 ダイケンが青白い顔をして、口を押さえている。

 そこから血があふれていて……。


 ――死ぬのか?

 

「死ぬな!」


 俺が駆け寄ろうとすると、誰かに腕を引っ張り上げられる。


「この者が毒をもったようだ!誰の指示だ?お前の生み親のネギーラか?樹族の恨みを晴らすつもりか?」


 ジンペイは俺の腕を掴んで、パニックに陥りいった会場でそう詰問する。

 

「何を言ってるんだ!それよりもダイケンを!」

 

 誰が犯人なんて後からだ。 

 早く毒を吐かせるか、解毒剤を飲まさないと、医者はいるのか。この世界は!


「ネギーラ。解毒剤はお前が持っているんだろう!兵よ。ネギーラを取り押さえよ!」


 会場の警備をしていた制服を着た人狼が機敏に動き、ネギーラを捕獲した。


 ――どういうことだ?

 ネギーラはダイケンの味方で、ジンペイが悪者だろ?


 騒然とする場で、ネギーラは高らかに笑いだした。

 ちょっと狂った感じで怖いくらいに笑っている。


「ダイケン様。これでやっとお分かりでしょう」

「そうだな」


 ――ダイケン?!


 さっきまで血を吐いて苦しそうだったダイケンがすくっと立ち上がる。

 身に着けている白いタキシードは血に汚れている。

 

 ――血?あれ?何か違う。


「兵士よ。シュスールの正統な後継者ダイケン・シュスールとして命じる。ネギーラではなく、ジンペイを捕らえよ」


 兵士たちの動きに迷いはなかった。すぐにネギーラを開放し、ジンペイの元へ走る。


「何を血迷っている。私は何もしていない!」


 兵士に両腕を掴まれ、ジンペイはわめき散らすした。


「叔父上。俺は信じたくなかった。だけど、証拠はすべて揃っている。父上と母上まで、なんてことを」


 ダイケンの言葉の最後は涙混じりに聞こえた。

 心配になって見たが、唇を噛んで涙など浮かべていることはなかったけど。


 ――っというか、俺だけ真相知らされなかったのか。まあ、俺だけじゃないけど。面白くない。心配して損した。


 ジンペイはその後も何かを叫んでいたけど、兵士たちががっちり抑え、彼を会場から連れ出した。

 ダイケンは狼顔に眉はないんだけど、眉間のような場所を寄せて、ちょっと困ってる感じで俺を伺窺っていた。


 ――ふん。


「これで一件落着か。じゃあ、もういいよな」


 何が婚約発表だ。

 こんな服を用意して化粧までしやがって。


「あれは演出だ。本番はここからだ」

「は?」

「皆のもの。驚かせてしまいすまなかった。今日、正式に俺は当主につく。父と母を失い、俺は覚悟ができてなかったようだ。でも、今日、俺は腹を決めた。当主になり、ハルヨシを嫁に迎える」

「はああ??」

「ハルヨシは元人間だが、体は樹族だ。きっとすばらしい後継者が生まれるだろう」


 ――まじかあ。うげええ。


 鳥肌を立てる俺に、ネギーラが恐ろしい笑顔を向けていた。

 仕方なく、俺はどうにか笑顔を作る。


 そうして、俺は正式にダイケンの婚約者になってしまった。

 

 体は女、でも心は男。

 しかも元人間。

 婚約者は元飼い犬。

 

 こんな話があってたまるか。

 俺は断固異種婚姻を拒否し続ける!


(終わり)

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