いきなりクラス(階級)チェンジ。

 レパードは午前中いっぱい部屋にいて、あれから俺におかしなことをすることはなかった。

 まあ、帰り際にウィンクされたのは、ぞっとした。

 ダイケンは、朝の勢いはどこにいったのか、なんだから静かになってしまい、つまらなかった。

 命令がなければ暇な仕事だ。

 とりあえずお茶と飯の給仕、時折お茶が必要かと聞くだけの仕事。楽といえば楽なんだが、暇すぎて寝そうになって、膝がかくんと折れた。

 恥ずかしくて反射的に周りをみると、ダイケンと目が合う。

 いや、見ていたのかと思ったが、何か顔を赤らめて目をそらされてしまった。


 ――嫌な予感がした。


 その夜、嫌な予感は的中した。 

 夕食が終わり、まあ、奴の風呂の手伝いもあったのだが、なぜか拒否され、本日の業務終了となった。

 部屋に戻ろうと思っていると、ネギーラが嬉しそうに近寄ってきた。

 反射的に回れ右をしたが、恐ろしい速度で駆けてきて腕をつかまれた。


「お話があるんですよ」


 ――いや、俺にはない。


 そんな理屈は通らず、奴の執事室へ連れ込まれた。


「ダイケン様が、あなたと婚約したいそうです」

「は?」


 聞き間違った?

 

「もう一度言いますね。ダイケン様があなたと婚約をしたいそうです」

「……」


 婚約と聞こえたな。

 うん。

 えっと、まって。

 俺は昨日死んだはず。それから駄犬によってこの世界で女として転生させられた。そして召使になった。

 ここまでは理解している。

 で、今日の今日で、召使から婚約者へ昇格か??


「……意味がわからない」

「ふふふ。ダイケン様の初恋なのです」

「は、初恋?!」


 ぶるっと震えがきた。

 いやまだ俺は男だ。いや、今は体は女。だが、心は立派な男だ。それはそうだろう。俺は昨日まで男だったんだ。

 そういえば、昨日かどうかもわからなんけど。

 で、突然人狼(男)の婚約者になれっていうのは、無理、無理すぎる。


「それは、む」

「ハルヨシ。あなたの命は誰によって握られているでしょう」

「……あんたか」

「そう。私です。なので拒否権はないのですよ。大丈夫です。狼族は完全な人間にも変化できますから。坊ちゃんもそれを気にしているようで、結婚は彼が成長し人間に変化できるようになってからだ、そうです」


 はあ、そうですか。

 俺の意志はどこに?

 どうやら、俺は流されるまま、駄犬と結婚するらしい。

 っていうか、マジで嫌だ。

 結婚って、白いままじゃないだよな。

 ありえない。まじで、だめ。

 だけど、拒否したら殺される。

 いや、殺されてもいいのか?一度死んでるし。多分、大丈夫。


「ハルヨシ。おかしなこと考えてもだめですよ。私の娘であるあなたがダイケン様の妻になれば、私の孫が後継者になるのですよね。ふふふ。そんな機会逃しませんから」


 ネギーラは高笑いし、俺は半笑いするしかなかった。

 

***

 

 翌日から調子のおかしい駄犬がいた。

 俺に対して、あんなに高圧的だったのに、今では話しかけてこようともしない。でも気になっているらしく、チラチラと俺を見る。

 

 ――ああ、いらいらする。


「ダイケン様。何か言いたいことがあるんだろう?」


 ――そう、俺との婚約な。初恋、初恋とか寒すぎる。

 確かに、女になった俺は可愛かった。

 昨日風呂場で自分の体を見て驚いて卒倒するかと思った。

 視線を置き場に困った

 で、ちろちろと別の場所を見ると、トマトやジャガイモっぽい女性?がいて、これまた視線をさまよわせることになった。

 なんだ。出てるところは出てるし、なんだけど、やっぱり野菜だから、あんまそういうエッチな気分にはなれない。

 それより、自分の体がヤバイ。

 ああ、自分の体じゃなければと恨んだくらいだ。

 さすがに自分の体を触って喜ぶようなことはしたくなかった。


 まあ、だからさあ。

 俺に惚れる気分もわかる。だけど、遠慮はしたい。だって、心はまだ男なんだから。

 無理無理。

 しかも相手は駄犬だ。

 飼い犬だったやつだぞ?


「俺は、お前になんか興味はないからな」


 ――なんだそれ。子供か。ああ、子供だった。

 

 ダイケンは顔を真っ赤にして俺を見ていた。


 ――可愛い。

 

 あれ、俺今何思った。

 犬として、いやいや狼として、可愛いと思ったんだよな。

 まあ、駄犬だったが、顔は確かに可愛いかったもんな。

 俺にはまったく懐かなかったが、姉ちゃんとかに媚売りまくっていた。


 ――まて、姉ちゃん。

 あれ、俺の今の姿ちょっと姉ちゃんに似てないか?おっぱいは断然俺の方が大きいけど。

 そうか、そういうことか。

 ダイケンは姉ちゃんの姿が好みだったから、俺の姿に、ほ、惚れたってことか。

 納得。いや、納得したが、受け入れたくない事実だ。


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