6 脱出

「お姉さんのことでお話があるのですが。どこかでお話しできませんか。」

いつ拾ったのか、男の手には50センチほどの鉄の棒があった。

「入り口は開きませんよ。チェーン溶接しましたから。」

「手荒なことはしたくありません。」黒い男は言いながら常に香の前1メートル先で鉄の棒を振りながら立ち塞がり続ける。

丁寧な言葉と裏腹に身体中から殺気めいたものが迸る。香の進路を防ぐ見えない壁のように。

捕まったら二人とも殺される。香は何とかしてこの男から逃れる決心をした。


香は素早く横をすり抜けようと横に移動する。男も素早く回り込む。香の目の前ちょうど1メートルの距離で棒を振り続けながら。香は驚愕した。距離を読まれてる!これでは1回目か2回目のジャンプで鉄棒にあたる。そうでなければ男の身体にあたってしまう。あたしの身体はどうなってもいいが、みどりにあたると切断、最悪殺してしまうかも知れない。


香はじりじりと後ろに下がった。男はきっかり1メートルの距離を詰めてくる。早く、ゆっくりと上げたり、下げたり棒を振り続けながら。


香は一瞬で周りを見回す。倉庫の中は鉄の棒が生えているせいで、連続して跳ぶには無理がある。少なくともルートを見つけなければ。

行き着いてもコンクリートの壁はダメだ。厚い上に外に何があるかわからない。

入り口と後ろの扉に行くしかない。

香はじりじりと後ろに下がりながら、扉までの道が開くのを待った。鉄棒も密集しているわけじゃない。必ず路が開くはず。

香は後ずさりし続けた。その時、開いた!ジャンプ10回分の距離。直線。距離を誤ると壁にはまる。もう一度距離を確認する。


香はみどりを抱く手に力を込める。限界まで!

黒い男の目がいぶかしげに光った。

「目をつぶっちゃいけない」

香は素早く向きを変えると、リズムを刻んで思い切り跳んだ。


「いち!にい!さん!よん!ご!ろく!なな!はち!きゅーわっ!」

9回目のジャンプで,目の前50センチに壁が現れた

香は慌てて止まって振り返る。跳べた。

目測を誤ったか距離が伸びたか。いずれにしても10メートルは稼いだ。

男が驚いた顔であたりを見回し,香を見つけた。

香はみどりを包み込むように抱きかかえて,扉にぶつかった。

がしゃっ!

香は抱きかかえたみどりごとはじき返された。

開かない!

香はみどりをおろすとぶつかるように扉の小窓から外をのぞいた。目の前,10センチ四方の小窓。

山と畑らしき緑が見える。扉の向こうは外だ。

黒いスーツ姿。こちらに向かう朋子の姿が小さく見えた。よく似た格好でも黒い男とは大違いだ。後ろに警官2名。こっちに来る。

この扉を抜ければきっと助かる!

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