5 黒い男
香は足を早めて登りきった。
ニヤニヤ男しかいない。「みどりはどこ!」
男はニヤニヤしたまま「慌てない慌てない。女の子殺すほど外道じゃないよぉ。俺」
「あたしのみどりはどこ!」香が叫ぶ。
「白けるなあ。もうちょっとバリエーションってもの考えてしゃべれんかねぇ。しょうがねぇなあ。あそこあそこ。」
男は小馬鹿にするように、香の斜め後ろを指差した。
香が振り返ろうとしたとたん、入り口が開く音。それと共に青白い閃光が周囲を照らした。閃光が消えると男の姿が現れた。黒い男!
目があった。香は金縛りに会ったように男の目を見つめる。男は香から目を離さずにスタスタ歩いてくる。
みどりを助けなきゃ!香は無理やり男から目をそらし、斜め後ろへ振り向く。みどりはどこ。目を忙しく動かして、みどりの姿を探す。
いた!倉庫の奥、隅の方にぐったりと横たわるみどりの姿を見つけた。幼稚園の制服がコンクリートの保護色となって気がつかなかったんだ。
後ろでニヤニヤ男の声がする。
「眠ってもらってるだけだから安心してねー。」
聴き終わるまでもなく、香は走り出した。階段を降りるなり、黒い男とすれ違う。今度は手を出してこない。香はそのままみどりに向かって走り出す。
ギッギッ。後ろの鉄階段が二人分の足音を響かせた。黒い男が階段を登ってる?
それでも香はみどりに向かって走り続けた。
香はみどりのそばに滑り込むと、身体ごと抱き上げた。顔を覗き込む。みどりが口をまぐまぐ動かした。この子の眠ってるクセだ。生きてる!香はすぐにみどりの全身を触る。縛られているわけでもない。強い薬でも使われたのか。
目覚めないがとにかく無事だ。
香は全身から力が抜けるのを感じた。それとともに、男たちの声が耳に入ってきた。
「私はこういうのが嫌いだと伝えませんでしたか?」黒い男の声だ。
「いや、センセイ、手っ取り早いのが俺の良いとこなんで。」ニヤニヤ男の声。先程までと違って怯えたように話している。
「小さな女の子に暴力を振るうなんて、言語道断。私は殺しは嫌いだと何度も言ったじゃないですか。」落ち着いた黒い男の声に怒りの感情が蓄積していく。
「いや、センセイ、殺してませんし暴力もちょろっとですぜ。すぐにアレを取り上げて、女の方さえ殺っちまえば。」
「女の子を誘拐した時、お前はカメラに撮られている。これ以上動き回られると迷惑だ。お前を使ったことがそもそもの間違いだった。」
「いや、センセイ、ちょっと、殺しは嫌いなんじゃ、助けてください、いや、たすけて」
香はコンクリート立法体へ振り返った。斜め下から見上げる香からは男達の姿はよく見えない。
バリバリッ。突然大きな音とともに立法体の上が青白い光に包まれた。
香はみどりを抱いたまま飛び上がった。
逃げなきゃ!香は入口に向かって走り出す。
その目の前に黒い男が降ってきた。3メートルを飛び降りたんだ!
そして何もなかったように話しかける。
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