3 能力

香が自分の能力ちからに気が付いたのは中学3年の時だった。

台所でゴキブリに遭遇したとき、思わず後ろに跳んだ。

瞬間移動、テレポーテーション。


集中することで瞬間移動できる。最初は驚いたが、面白がってどれほどのことができるか試すうちにすこしがっかりした。

半径70センチ。たった一、二歩ぶんだ。前後左右は問わない。わずか70センチの円陣。ただ、遮蔽物も問わないので壁ぬけができる。

これがやっかいで、壁ぬけを試し始めた頃危ない目にあった。跳んだ際にお尻から下のスカートがスッパリ切断されたのだ。壁向こうに渡れないと元の場所に残った部分との間が切断されてしまう。

手足を切断しないうち、早めに気づいて良かった。それ以来、香は普段体にフィットする服を着るようになった。背中にも薄いバッグしか背負わない。

もう一つ連続して跳ぶことが可能だ。とは言え、これは最終地点まで見通せる場所でないと怖くてできない。回数も10回が限度だ。


「さっき見たんですね。」

「ええ。突然姿が消えて後ろに現れるのをね。ただ私、能力者が分かるの。オーラっていうのかな。色で。」

「あなた、淡いパステルイエローが出てるわ。強い能力ちからじゃないけど、能力者なのはすぐにわかった。何の能力ちからかはわからないんだけど、それが私の能力ちから。」

朋子は気にせずに続ける。

「ちなみにさっきの男も能力者だった。黒かった。かなり能力ちからが強い。」

「あなたのそばに張り付いたからすぐに来れたけど。沙織のメッセージがなかったら正直危ないとこだったんだから。」

「お姉ちゃんのメッセージって?そういえばみどりちゃんもそんな事を。」

「そのうちあなたも沙織に会えるわ。きっと。」


家の前に着いた。もっと話したかった。香の知らない沙織の話し、能力ちからについてももっと聞きたかった。

「焼香していきたいとこだけど、今日はこのまま行くわ。」

朋子は携帯を取り出すと操作をする。突然香のポケットから着信音。

「何かあったらここに電話して。またみどりちゃんも入れて女同士、ゆっくりとお話ししましょ。」

なんであたしの番号知ってたんだろ。


香はすらりとした黒い影が闇に溶け込むまで、その後ろ姿を見送った。

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