30.機装VS.機人
さて、本格的な戦闘の前に、相手のことをよく見ておかないと。
相手の……機人、だったかな、それの装備を見える部分だけでいいので確認する。
わかりやすい特徴は、その外観に出ていた。
右腕は普通の腕なのに対し、左腕は巨大な棘突き鉄球となっていたんだ。
おそらく最初に攻撃されたときも、あの鉄球による攻撃を受けたのだろう。
「母様、どう攻めますか?」
「まずは私が牽制で魔法を放ってみます。カイトは、そのあとに続きなさい」
「わかりました。お願いします」
最初は、様子見ということなんだろう。
母様がフレイムランスの魔法を放った。
一度に十本のフレイムランスが、敵機人を襲うが、相手はそれを躱して反撃してきた。
左腕に付いていた鉄球、それがこちらに向けて撃ち出されたのだ。
「くっ! このっ!」
僕は両手剣を使ってガードし、鉄球の直撃をさける。
それでも、かなり強い衝撃が、ライフミラージュを襲った。
「これは、何発も受けてはいけませんね。カイト、あの鉄球は避けることを優先しなさい」
母様がそう分析して告げてくる。
相手の様子を窺っている間にも、鉄球は綱のようなもので引っぱられて敵の左腕に戻っていった。
どうやら、あの鉄球は何回でも使えるように設計されているらしい。
このまま、距離を取って戦うのは不利だよね。
僕は魔導ブースターを使用して、相手へと一気に肉薄する。
敵も再び鉄球を撃ちだして迎撃しようとするが、それはブースターで右に大きく移動して回避した。
そして、再度正面方向にブースターで飛び出し、こちらの剣が届く範囲まで接近できた。
「食らえ!!」
勢い任せに、両手剣を突き出し相手を攻撃する。
だが、攻撃が直撃する寸前、光の壁が顕れてこちらの攻撃を防いできた。
『あっぶねぇなぁ。デミノザ様の加護がなければ、今頃胴体を真っ二つにされていたぜ!』
攻撃を防いだあと、大きく飛び退いた敵機人から、そんな声が響く。
おそらく、あちらの機人に乗っている搭乗者の声なんだろう。
それにしても、さっきの壁は一体……?
『その様子だと、神の障壁までは持っていないようだな! まあ、さっきも、鉄球をモロに食らいやがってたし、所詮、神の加護がなくちゃ、三流止まりってとこかよ!』
こちらを煽るような声が聞こえるが、あせって攻め込むわけにはいかない。
まずは、状況分析をしないと……。
「カイト、次は私も同時に攻撃します。あなたのタイミングで、攻め込みなさい」
今度は、母様も魔法で攻撃してくれるらしい。
僕は再び、ブースターを使って、相手に攻撃をしかける。
あちらは、最初の攻撃を防げたことで安心しているのか、避けるような動作はない。
そして、そのまま今度は切り下ろしを行うが、やはり光の壁によって防がれてしまう。
「フレイムボム!」
僕が攻撃すると同時、母様も魔法で攻撃してくれたが、やはり光の壁に阻まれて、ダメージを与えることができない。
こちらの攻撃が通用しないことを確認した敵機人は、左腕の鉄球と右手のショートソードで攻撃してくる。
それらは、ブースターで移動することで難なく躱せたが……こちらとしては、有効なダメージを与える手段がないことになった。
そのあとも、何回か攻撃を繰り出してみたが、すべて光の壁に阻まれ、あちらには一切のダメージを与えることができない。
逆に、あちらの攻撃はというと、それもまたこちらの機動力についてくることができず、最初の攻撃以外は当たらないでいた。
「……これはまずいですね。なんとか、早めにダメージを与える方法を見つけないと……」
母様も、この状況に焦りを感じ始めているようだ。
……幸い、というべきか、僕らの戦闘によって、デミノザ神教国軍の野営陣地はメチャクチャになっている。
当初の目的である、敵陣地の制圧、という意味では目標を達成しているのだろうけど、目の前の相手を倒さなければ勝ったとはいえない。
あれが、イシュバーン領都を襲えば、領都を守りきることができないのだから。
あちらも様子見なのか、動きを止めている中、僕の頭の中に声が響いてきた。
その声は、すごく久しぶりに聞く声だった。
『苦戦しているようだな、カイト=イシュバーン』
『セイクリッドティアか? 本当に久しぶりだね』
『ああ。ライフミラージュで戦う機会がなければ、私の出番も無かったわけだからな』
確かに、そうかもしれない。
最初に紹介されたときに見た、セイクリッドティアのサイズは人間ではどう頑張っても扱えない物だったのだからね。
『さて、本題だ。神の防壁に邪魔されているようだな』
『神の防壁?』
『あの機人とやらを守っている光の壁のことだ。……まさか、あの程度の尖兵にまで防壁を授けているとは、念の入ったことよ』
よくわからないけど、あれは神様の力によって作られた壁らしい。
セイクリッドティアの言葉を信じるなら、普通はないらしいが。
『神の防壁だが、このまま攻撃を続けていれば、そのうち破壊できるだろう。
『そうなのか? それじゃあ、このまま攻撃し続ければ……』
『だが、それもまた難しい。戦いを続けても、相手の防壁を破壊しきる前に、マナが尽きるだろう』
『マナ?』
『機装を動かす際に必要な力のことだ。環境魔力を変換してマナにしているが、魔導ブースターの使用はマナの消費が激しい。ブースターだよりに戦い続ければ、やがてマナが尽きてブースターは使えなくなってしまうだろう』
セイクリッドティアの説明によれば、機装……特にライフミラージュの様な大型機装を動かす場合、マナというものが必要になるらしい。
マナの残量は、左手側のゲージを見ればいいということだったが……確かにのこり四分の一程しかない。
こうしている間も、じわじわ回復していってるが、まともに戦い始めれば、回復量より消費のほうが多くなると思う。
『マナについては理解できたな。それでは、神の防壁を破るにはどうすればいいと考える?』
『そう言われてもな……なんとかして残っているマナが尽きる前に、破壊する?』
『不正解だ。熟練の騎士ならできるやも知れぬが、まだまだ未熟なお前では叶わぬ話よ』
……まあ、自分で言っておいてなんだけど、確かに無理だと思うった。
いまは、あちらも動きを止めているので問題ないが、戦いが再開すれば、こちらが押される形になるだろう。
『さて、時間もあまりない。正解を教えよう。……私を呼び出して使え。それだけで、解決する話だ』
『えっ? そうなのか?』
『ああ。私の力を見せてやろう。さあ、早く呼び出すのだ、カイト=イシュバーン!』
セイクリッドティアとの会話が終わり、正面の様子を確認すると、相手は再び鉄球を発射しようとしていた。
なので、相手が鉄球を発射したタイミングにあわせて横に跳んだが、あちらも体を振り回すように回転して、鉄球の起動を曲げてくる。
ブースターを使って加速することで、なんとか回避できたが、マナの残量がまた減ってしまった。
「カイト、どうするのです? このままでは、押し切られてしまいますが……」
「任せてください、母様。コール、セイクリッドティア!」
セイクリッドティアの言葉通り、あの大剣を召喚する。
すると、ほかの機装が出現するときは目の前にいきなり現れるのに対し、セイクリッドティアは目の前に出現した魔法陣からその姿を現した。
純白の刀身を持つ両手剣、セイクリッドティアが目の前に突き立つ。
『さあ、私を手に取り、奴を斬れ。それだけで、すべてが終わる』
『わかったよ。それじゃあ、いくぞ!』
いままで使っていた両手剣は地面に突き立て、僕はセイクリッドティアを手に取る。
その瞬間、セイクリッドティアの刀身から、蒼色の光が漏れ出し始めた。
「カイト、その剣は一体……?」
「セイクリッドティアという機装です。これが自分を使えと語りかけてきたのです」
「……よくわかりませんが、神からの授かり物です。そういうこともあるのでしょう。それで、その剣ならばあれをなんとかできるのですか?」
「本人はそう言っています」
「わかりました。援護は任せなさい」
母様が、さまざまな魔法を撃ちだして機人を牽制する。
あちらも、すべて光の壁で防げることはわかっていても、視界を遮られることはいやらしく、回避行動を取り始めた。
「いまだ!! いくぞ、セイクリッドティア!!」
『応!』
ブースターを全開にして、いままで以上のスピードで相手に突き進んでいく。
あちらも、それに気付いたようで、迎撃態勢を取った。
『何回やっても、神の加護は破れねえって、いい加減に気付きやがれよ! このまがい物がよッ!!』
あちらも、右手の剣を振りかざして、攻撃してくる。
それにあわせるように、僕もセイクリッドティアを振るい、また出現した光の壁と激突する。
だが、しかし。
『なっ! なんでだ!?』
セイクリッドティアは光の壁を難なく切り裂き、そのまま敵機人の右腕を切り落とした。
切り落とされた右腕からは、血にも似た赤い液体がこぼれ落ちる。
『ちっ! だが、まだ負けたわけじゃねぇ!!』
今度は左腕をふるって、鉄球で攻撃してきたが、それもセイクリッドティアによって容易く切り裂かれた。
『ちっ! なんなんだ、その剣は!?』
あちらも剣が特別製なことに気がついたのだろう、問いかけてくるが、答える義理もない。
止めを刺すべく、セイクリッドティアで切りつけたが、今回は躱されてしまった。
『あんなのが存在してるなんて……こいつは戻らねぇとヤバイか……』
機人から声が漏れ聞こえてくる。
どうやら、逃げるつもりになったらしい。
『悔しいが、勝負はお預けだ。あばよ!』
機人が捨て台詞を吐くと同時、周囲が煙幕で覆われた。
目の前すらよく見えない濃い煙幕の中、機人がこちらに体当たりしてきたらしく、姿勢を崩し倒れてしまう。
すぐさま立ち上がり、相手の姿を探すが、濃い煙の中ではなにも見えはしない。
「いまこの煙を払います。エアバースト!」
母様の魔法が炸裂して、周囲の煙が晴れたが、機人の姿は近くにはなかった。
だが、周囲を見渡すと、かなり遠い位置にその姿を捉えることができた。
「……さすがに、この距離を詰めるのは難しいですね」
「母様の魔法でも無理ですか?」
「ここまで距離があると、届きません。カイト、魔導ブースターで追いかけることは?」
「……そちらも難しいです。残りのマナが足りません」
「マナというのは魔力のようなもののことでしょうか。……悔しいですが、見逃すしかないようですね」
母様と状況確認をしたが、この距離では追いかけるのが難しい。
奇襲作戦としては成功しているのだから、と諦めかけたその時、セイクリッドティアから声が響いてきた。
『ふむ、あれを破壊したいのか?』
「この声は……? カイト、セイクリッドティアとはこの声の主ですか?」
「はい、そうです。それで、セイクリッドティア。倒す方法はあるの?」
『いまから情報を渡す。この程度の距離なら問題ないだろう』
セイクリッドティアの言葉が終わると同時、頭の中にひとつの情報が流れ込んできた。
……この情報が正しければ、まだあいつを倒すことはできるだろう。
「セイクリッドティア、
僕の言葉に反応し、セイクリッドティアがその姿を変えていく。
まず刀身がふたつに分かれ、それぞれ外側にずれていく。
柄の部分も形が変わり、左右に開いて両手で片方ずつ持つ形となった。
「カイト、これは?」
「まあ、見ていてください、母様。……マナの残量から考えて、一発しか撃てませんから」
形を変えたセイクリッドティアを、機人に向けて構える。
そして、セイクリッドティアにマナを流し込んでいく。
すると、開いた刀身の間に蒼い光が貯まり始めた。
『チャージ状況、80、90、100%。砲撃可能』
「了解、セイクリッドブレス、発射!」
僕のかけ声とともに、セイクリッドティアから蒼い光の奔流がほとばしる。
それは、遠くを走っていた機人に迫り……その体を撃ち抜いた。
胴体部分を撃ち抜かれた機人は、走っていた勢いそのままに前方へと投げ出されて動きを止めた。
『砲撃完了。通常モードに移行』
再び両手剣に戻ったセイクリッドティアを持ち、機人の様子を確認にいったが、剣でつついてもピクリともしなかった。
おそらく、乗っていた騎士ごと重要な部分を撃ち抜かれたのだろう。
「……聞きたいことがいくつかありますが、まずは勝ったのですね?」
「そのようです。……なんとかなりましたね」
本当に、かなりぎりぎりだった。
セイクリッドティアの砲撃モードを使ったため、マナの残量も残りわずかだ。
破壊した機人をそのままにしておくこともできず、それを回収してデミノザ神教国軍の野戦陣地跡に戻ってくる。
そこでは、アーマードギアを纏った騎士たちによって、生き残った敵兵が集められていた。
野戦陣地は僕たちの戦いでメチャクチャ、残存兵も捕縛済み。
こうして、僕の初陣は勝利という形で幕を閉じたのだった。
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