26.襲撃者
「くそッ! まさか、我々の中に裏切り者がいたとは!」
「先程も言ったでしょう? 僕はデミノザ教の人間です。デミノザ教徒以外が神器を持つなど認められない、当然の要求をしているに過ぎません」
マストはどうやらかなり熱心なデミノザ教の信者らしい。
理解できない理由を並べて、自分たちの要求を通そうとしているのだから、狂信者と言っても過言ではないか。
そんなことよりも、まずはミーナを助けることが先決だ。
ミーナは不安そうにこちらを見ているが、僕がひとつ頷き返すと、集中して呪文を唱え始めた。
「【雷よ、轟け、我が意を受けて、《ショックボルト》】!」
「なにッ! ウギャッ!」
至近距離からショックボルトの直撃を受けたマストが、ミーナから手を離した。
その隙を突き、ケイン先生がミーナを助け、ジルさんがマストを倒そうとしている。
だけど、ミーナを助けることは成功したが、マストにトドメを刺すことはできなかった。
「おのれ……! なぜまだ五歳になってない子供が、魔法を扱える!」
「念のため、というヤツだ。去年の時点で、大分きな臭くなっていたからな」
マストの質問に、ケイン先生が吐き捨てるように答える。
実際、ミーナの祝福は秘密裏に行われた。
当時は、まだ三歳だったため、若干どころではない不安があったが、デミノザ神教国がどのような動きを見せるかわからない以上、自衛手段として魔法を教えることになったのだ。
幸い、ミーナの属性は、火、風、雷の三種類のみ、魔力量も2500と、僕と比べて非常に穏やかなものであった。
母様からの指示ですぐに円環の理を渡し、いくつかの魔法を覚えさせた。
そのうちのひとつが、先程使った《ショックボルト》だ。
与えられるダメージはそれほどでもないが、相手の動きを止められる便利な魔法のため優先した。
結果がこうなったので、やはり魔法を覚えさせて正解だったというわけだ。
「さて、人質はいなくなったな。これで遠慮なく、お前を斬り倒せるわけだ」
「くそっ! だが、こちらはまだまだ手勢を残している。この程度で、勝ったと思うな!」
マストとその仲間と思われる騎士たちが、こちらとの距離をじりじり詰めてくる。
こちらの戦力は、負傷した騎士を除けば、僕とケイン先生、ジル、母様、エアリスだ。
だけど、エアリスは有効な戦力を有していないので、今回は計算外となる。
そうなると、圧倒的に多勢に無勢なわけだけど……。
「カイト様、例のヤツを使う許可を。さすがに、この人数差をひっくり返すのは難しいでさぁ」
「わかりました。僕も前に出て敵を倒します」
「森の中に隠れている敵は、私に任せなさい。ジルはエアリスとミーナの警護をお願い」
「承知しました、奥様。ですが、三人だけで大丈夫なのですか?」
「ええ、問題ありませんよ。
母様は、僕とケイン先生がなにをしようとしているのかわかっているようだ。
じりじり包囲が狭まる中、僕とケイン先生は切り札を使うことにする。
「コール、アーマードギア、ナンバーワン、イクイップメント!」
「コール、アーマードギア、ナンバーファイブ、イクイップメント!」
僕とケイン先生は、アーマードギアを呼び出し、装着する。
異変に気がついた敵の弓兵が矢を射かけてくるが、アーマードギアの装甲の前では意味を成さない。
「さて、いくぞ、マスト。カイト様はほかの騎士どもをお願いいたします」
「わかりました。ケイン先生もお気をつけて」
ケイン先生がマイトに向かって駆け出すと同時、僕は敵騎士に向かって
ケイン先生は魔力が少ないため、温存する必要があるが、僕にはその必要がない。
そのため、アーマードギアの機動力を最大限引き出して、敵騎士たちを襲撃する。
完全に不意打ちとなった、最初の一撃はソウルイーターの切れ味もあり、敵騎士を鎧ごと袈裟切りに両断した。
「気をつけろ! そのガキの装備も普通じゃない!」
「おのれ! なぜ、イシュバーンの者が聖鎧を持っている!」
『聖鎧』?
気になる言葉が出てきたけど、いまは騎士たちをなんとかするのが先だ。
さすがに、これ以上の不意打ちをする事はできなかったが、僕はソウルイーターに魔力を流して切れ味をさらに上げ、敵騎士たちと打ち合う。
するうと、敵騎士の剣はソウルイーターに
そんなやりとりを、五人、六人と続けていると、さすがに向こうも、まともに打ち合うのは諦め、魔法主体の攻撃に転じてきた。
だけど、並たいていの魔法じゃ、アーマードギアの防御を貫通できはしない。
僕が魔力を流して、さらに魔法防御を上げることで、魔法によるダメージをほぼ無効化できている。
魔導ブースターによって加速された突進は、魔法による妨害を無視して敵騎士へと肉薄し、ソウルイーターがその体を一撃の下に斬り捨てる。
剣術の技量以前の問題によって、敵はなにもできずにその数を減らしていった。
一方でケイン先生の方はというと、あちらはあちらで一方的な戦いとなっていた。
ケイン先生は魔導ブースターを長時間使えないため、アーマードギアは筋力強化と防御力強化にしか使っていない。
それでも十分過ぎるほどの力を発揮して、マイトを追い詰めていた。
「くそっ! くそっ! くそっ! なんでお前たちが聖鎧を持ってやがるんだよ!」
「『聖鎧』か。その話、詳しく聞きたいところだが、何分時間が惜しいからな。済まないが、そろそろ終わりにさせてもらう」
「黙れ! イシュバーンの犬が! 例え聖鎧がなくとも、勝ってみせる!」
「そうかよ。……まあ、次に生まれてくる機会があったら、信仰する神様は選んだほうがいいぜ?」
その台詞とともに、ケイン先生は大上段から両手剣を振り下ろした。
マイトもその一撃を剣でガードしたが……その威力に耐えきれず、マイトの剣は折れてしまった。
ケイン先生の剣は勢いを止めずに振り下ろされて、そのままマイトの体を叩きつぶした。
「なぜだ……なぜ、正しき神スピノザ様の信徒である、僕が……負ける」
「そんなの知るかよ。それじゃあな」
倒れたマイトに、ケイン先生が止めを刺した。
これで、あちらの戦いは完結だ。
その後は、ケイン先生も騎士の討伐に加わり、敵騎士の混乱はさらに増していく。
そして、母様はというと、森から放たれる矢を魔法で防ぎながら、反撃をしていた。
氷でできた槍が森に向かって消えていくと、森の奥で悲鳴が上がる、
どういう仕組みかはわからないけど、母様は森の中に隠れている敵の位置がわかっているみたいだ。
森の中から悲鳴が聞こえるたび、飛んでくる矢の数は減っていく。
僕とケイン先生が敵騎士を追い詰めてたころには、森から飛んでくる矢はなくなっていた。
「あらあら、いち早く逃げ出すとは、状況判断能力は優れているのね。……でも、逃がすつもりはないわ。《サンダーボルト》」
母様の魔法によって引き起こされた稲妻が、森の奥にて炸裂する。
僕には状況を理解できないけど、どうやら、逃げ出した敵を倒したようだ。
「さて、これで残るはあなたたちだけになるわね」
残った敵は全部で五人、十五人の騎士と森の中から弓で援護していた敵すべてを失った敵勢力にはもう戦う気力は残っていないようだった。
「各員、全力で撤退せよ! この情報を本体に届けるのだ!」
先程から、なにかをしようとしていた、敵騎士の中で一番後ろにいた男が撤退を指示する。
騎士たちは各自、バラバラになって森の中へと逃げ出す。
だが、それを許す、ケイン先生や母様ではなかった。
右手側にいた騎士ふたりはケイン先生が、切り札の魔導ブースターを使い切り倒し、左手側にいた騎士ふたりは母様の魔法で体を貫かれて絶命していた。
「……くっ、我々が全滅するだと……? おのれ、マインめ! 偽りの情報で
「別に謀ったわけじゃねえさ。単純に、俺たちがこれの存在を隠し通していただけだからな」
「さて、あなたはこのまま抵抗しないのであれば、捕虜として扱ってあげましょう。無駄な抵抗はおよしなさいな?」
ケイン先生が油断なく剣を構え、母様も魔法で生み出した氷の槍を周囲に浮かべながら、相手に降伏を促す。
だけど、あちらが選んだ選択肢は別のものだった。
「そういうわけにはいかぬのでな。……さらばだ! デミノザ様に栄光あれ!!」
騎士が最後にそう叫ぶと、急に倒れて動かなくなった。
ケイン先生が油断なく近づき、相手の兜を外して様子を窺う。
「……即効性の毒による自殺か。……念のため聞きますが、カイト様、治療することはできますかい?」
「すでに死んでいるのでは無理ですね。……それよりも、味方の騎士たちを治療しましょう」
「そうですね。そうしましょうか」
負傷した騎士たちに突き刺さっていた矢を抜き取り、すぐに回復魔法をかける。
遅効性の毒も塗られていたようで、そちらも一緒に解毒していた。
「……どうして即効性の毒ではなく、遅効性の毒を使ったのでしょうね?」
「おそらくは、カイト様や奥様を人質に使おうとしたのだと思います。そうでなきゃ、遅効性の毒をわざわざ使う理由がありませんからね」
なるほど、そういう理由か。
確かに、僕たちには当たらなかったけど、最初の攻撃は無差別に飛んできていたからな。
「あら、最初の矢による攻撃も、きちんと私たちを狙っていましたよ? 私がそれを防ぎましたけどね」
……どうやら母様の魔法によって助けられていたらしい。
ともかく、襲撃者は撃退できた。
負傷者の治療も済んだわけだし、無事に済んでよかったな。
「……さて、それでは、今後の計画を見直しましょうか」
母様が重苦しい雰囲気で、会議の始まりを告げる。
内通者がいた以上、こちらの情報がどこまで知られているかわからない。
それを踏まえて、計画を練り直すらしい。
さて、どうなるんだろう?
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