19.樹海の神殿
この世界の年月の測り方ですが、
一週間は6日。
一カ月は5週間。
一年は30日×12ヶ月+新年祭3日の363日
になります。
////
大樹海に着いてから二週間が過ぎた。
大樹海の滞在予定は一カ月だから、滞在期間としては半分近くを消費した形だ。
この二週間、ひたすら魔物や魔獣と戦ってきた。
よく遭遇するのは、やはりディープフォレストウルフだったが、ほかにも、魔法を使ってくるフクロウや素早い動きを得意とするジャガー、亜人系ではミノタウロスと戦ったこともある。
ミノタウロス自体は、人間からすると迷宮に住み着いていることが多い魔物だと認識されていた。
ただ、この大樹海にはなぜかミノタウロスも生息しているらしい。
もっとも、なぜか大樹海の範囲から抜け出してこないので、定期的に巡回している騎士団以外には、あまり脅威とみなされていないらしいけど。
「さて、大樹海に着いてから大分経ったが……カイト様、コストとやらのたまり具合はどうです?」
「ええと、ちょっと待ってください。……かなりたまっていますね。これなら、旅立ちの轍とライフミラージュをひとつずつ作ることができそうです」
「それはようございました。やはり、大樹海まで足を伸ばしたのは正解でしたな」
「アーマードギア様々ですがね。これがなければ、とてもじゃないですが、二週間も滞在できません」
ミリアムさんが、アーマードギアをそう評価した。
アーマードギアは身体能力の強化とともに、防御力の向上もしてくれる。
僕も、アーマードギアなしでは危ない場面が何度もあった。
……首元に噛みつかれたときは、本当に恐かったよ。
「アーマードギアに頼ってばかりというのは困りものですが、仕方がありませんな。現実問題として、アーマードギアなしで、今回の予定は達成できませぬゆえ」
「そういうこった、アドルの爺さん。なにより、カイト様にトドメを刺してもらわなくちゃいけないってのがきつい」
「そうですな。我々だけで倒してしまっても、コストとやらに還元されないのは厳しいことです」
「お手数をおかけします」
ケイン先生とアドルが話しているが、実際、コストを貯めようとすると、僕がトドメを刺す必要があった。
そのため、ほかの三人は、なるべく殺してしまわないように立ち回る必要があり、かなり苦労している。
「そこを言い始めても仕方がない。問題は、今回貯めたコストをどう使うかだ」
ミリアムさんは、今後のことを見据えた話を始める。
この二週間でかなり大量のコストを貯めることができたとは言え、それでも大型の機装をふたつ手に入れてしまえばなくなってしまう程度しかない。
このまま、あと三週間を過ごしても、同じくらいのコストしか手に入らないだろう。
そうなってくると、今度は大型の機装を増やすのか、それともアーマードギアなどの小型の機装を増やすのかという問題が出てくる。
僕はそのあたりのことを判断できないので、ミリアムさんがメインとなって、三人に判断してもらっている。
「そうですね……とりあえず、旅立ちの轍を増やすのはよろしいのではないでしょうか?」
「そうだな。あれがあれば、移動が大分速くなる。あとは、ライフミラージュをどうするか、だよな」
「ロキ神の言葉に従えば、そちらも増やした方がいいだろう。問題は、どうやって配分するかだが……」
「二台目のライフミラージュは旦那様に使っていただきましょう。カイト様、あれはひとりでも動かせるのですか?」
「はい、可能です。ふたり乗りにした場合、ひとりは魔法などで支援をすることがメインになります」
「……ふむ、そういうことでしたら、旦那様と奥様のふたり乗りにしましょうか。奥様の魔法があれば、そうそう引けは取らないでしょう」
その後も、今後のことについていろいろと話をしたが、三台目のライフミラージュを用意するかは結論が出なかった。
用意した場合、ミリアムさんかケイン先生が動かすことになるのだろうけど、用意する必要があるのかを検討しなくちゃいけないらしい。
それから、アーマードギアをある程度増やすことが決まった。
具体的には、機装のことを知っている者たちには全員に渡すこととしたようだ。
それから、騎士団用に円環の理を用意することも決まった。
扱いとしては、普通の魔道具扱いで上位騎士と魔術士をメインに配布するらしい。
今後、三週間の間は可能な限り、コストを貯めていくことも確認された。
明日からも変わらず、かなり厳しい戦いが待っているのだろう。
「さて、それではそろそろ休みましょうか。……いやはや、旅立ちの轍は楽でいいですなぁ」
「本当だぜ。大樹海まで来て、見張り番をしなくてすむってのは助かる」
「見張り番をするとなると、我々だけでは厳しいからな。旅立ちの轍の頑丈さに頼っているともいうが」
「まあ、いいじゃないですか、ミリアムさん。ゆっくり休めるのだし」
僕たちは夜寝るとき、旅立ちの轍の中で休んでいる。
旅立ちの轍に入っている限り、魔物に襲われても安全だからだ。
実際、何回か襲われたことはあるのだが、魔物の攻撃ではびくともしなかった。
最初の頃こそ気にしていたけど、今では皆、安心して休んでいる。
いちおう、ボクを除いた三人は交代で見張りをしているらしいけど。
「ともかく、もう休みましょう。カイト様、明日もよろしく頼みますぞ」
「はい。それでは、おやすみなさい」
今日もきつい一日を終えることとなった。
もうヘトヘトだし、今日もゆっくり休ませてもらおう。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
気がつくと、僕は大樹海の中に立っていた。
あたりには薄ぼんやりと靄がかかり、普段とまったく様子が違っている。
それに、この感覚は……。
「……ひょっとして、神域? でも、どうしてこんな場所で?」
どうやら、誰かの神域に招かれたみたいだ。
ただ、ロキだったらすぐに姿を現すのに、今はどこにもいない。
ほかに、気配らしきものもないし、どうしたものか。
「……黙っていても仕方がないし、奥に進んでみようかな」
靄に包まれた大樹海の中を歩み進んでいく。
ほかに生物がいるような感覚はなく、ひたすら木々が生えているだけだ、
大樹海の中でさえ感じられる、鳥や虫の気配もない。
「これは困ったな……ひとりだと神域から出る方法もわからないし」
大樹海の中を当てもなく進んでいくのは、思ったよりも負担が大きい。
せめて、目的地がわかればいいんだけど……。
「……うん? 森が途絶えた?」
どれくらい歩いただろうか。
気がつくと、森の中にできた広場のような場所に出た。
「……あそこにあるのは、神殿かな? でも、ほとんど森に飲み込まれてるけど」
おそらく、僕を呼び寄せた神はここにいるのだろう。
そんな予感を感じながら、朽ちた神殿に入っていく。
神殿は、そんな広い作りではなく、入口を入ってすぐに祭壇があった。
そして、祭壇の上には一匹の猫が座り、こちらを見ていた。
「……まさか、私の呼びかけに応えるとは思わなかった。ようこそ、忘れられた祭壇へ」
「……ええと、神様、ですか?」
「いちおうそうなるね。私の名前は……バステトとでも呼んでほしい」
バステト……知らない名前だ。
それに、忘れられた祭壇とは、一体なんなのだろうか?
「ここは動物神を祀った祭壇です。まあ、私以外にも祀られている神はいるわけだけど」
「……そうなのですか? それで、どうして僕を呼んだのでしょう?」
「私は、旧神と新神の争いにはあまり関わる気がなかったのですが……そうも言ってられなくなりました。それで、私の機装を使う権利を渡そうと思ったのです」
「機装を使う権利、ですか」
「はい。私では機装を作れませんので、機装を用意できるように力だけ与えます。あとは、あなたがどうにかしてください」
なんというか、今まで会った神様に比べると、投げ遣りな感じだ。
まあ、新しい機装が手に入ると思えば、悪くはないのかもしれないけど。
「私から渡す機装は『クローテイル』です。ライフミラージュと同じように、対巨神用の機装ですね」
「それはどのような機装でしょう?」
「それは……自分で作ってみてください。ただ、クローテイルを作るには条件があります。クローテイルを用意したければ、巨獣と呼ばれる大きさの魔獣から魔石を吸収しなさい」
「巨獣、ですか」
「はい、巨獣です。それくらいの試練は与えてもいいでしょう。……まったく、新神たちが好き勝手しなければ、私も眠っていられたのに」
巨獣がどのようなものかは教えてくれないらしい。
本当に、今までの神様たちとは勝手が違う。
「それでは、用件は以上です。頑張ってくださいね」
別れの言葉を告げられると同時、意識が遠のいていく。
そして、気がつくと、旅立ちの轍の中にいた。
「……なんだったんだろう、一体」
僕のそんなぼやきも、夜の闇の中に消えていった。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「ふむ、巨獣ですかい?」
「はい、夢の中で会った神様はそう言ってました」
「……それは難儀な試練ですね」
「ええ。今の我々ではどうにもならないでしょうな」
夢の中で会った神様の話をすると、三人とも難しい顔になった。
理由を尋ねてみると、巨獣を倒す、というのが非常に難しいらしい。
「巨獣っていうのは、人間なんてひと飲みにするくらい巨大な魔獣のことです。今の我々では攻撃力が足りないでしょう」
「それに巨獣の生息地は、大樹海の奥深くです。とてもではありませんが、私どもではたどりつけませんね」
「まあ、そういうわけだ。そのバステト、って神様がどういう思惑か知らないが、今はどうにもならんってことだな」
僕よりも詳しい三人が無理だって言ってる以上、本当にどうしようもないのだろう。
……バステト神はなにをしたかったのかな?
「今はできないことを考えるより、できることからやっていきましょう。具体的には魔物狩りですね」
「今日も魔物どもがウジャウジャしてるだろうからな。気張っていこうぜ」
「そうですな。カイト様、準備はよろしいですか?」
「……はい。大丈夫です、行きましょう」
こうして、バステト神からの試練は置いておいて魔物狩りへと向かうことになった。
今日も忙しい一日が始まるのだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます