17.神討ちについて
本来ならもう寝る時間ではあるが、ロキから聞いた話はすぐにでも父様に伝えなければならない。
急いで父様の執務室に向かい、面会することができた。
「このような時間だというのに、急な訪問とはなにがあったのだ、カイト?」
「はい。ロキがコンタクトを取ってきました。その内容をお伝えしなければと思い、こちらに来ました」
ロキから接触されたことを告げると、父様の顔が険しくなった。
「……ロキ神か。アドルがいまだに、その正体をつかむことのできない神。お前に、機装を与えた存在。今度はどのような用件だったのだ?」
「ええと、説明が難しいのですが……」
僕は、ロキから伝え聞いた『神を討つ者』の説明をした。
伝え聞いた内容をできる限り、そのまま伝えたけど、どこまで伝わったか。
話を聞き終えた父様は、さらに険しい顔つきになった。
「……現世に直接介入している神『新神』に、それを討伐する者『神討つ者』か。おおよそ、信じがたい内容だが……授かった機装のことを考えれば、冗談ではないのだろうな」
「おそらくはそうだと思います。冗談で、機装のような装備をくれるとは思えません」
「そうだな。……問題は、その神とやらがどこにいて、いつ接触してくるか、なのだが」
「……さすがに、そこまでは教えてもらえませんでした。ただ、神の尖兵から襲われる、とだけは教えてもらいましたが」
「神の尖兵……名前通りだとすれば、神の力を持った戦力なのだろうが。判断するには、情報が少なすぎる」
父様は、今後の方針についてかなり悩んでいる様子だ。
実際、神の尖兵というのが、いつ来てどれくらいの強さを持っているのかがわからないと、騎士団の防衛体制を整えるにも問題があるそうだ。
父様は、この領地の長であり、この領地を守る義務を負っている。
だからこそ、そう簡単に兵を動かすことはできないのだろう。
「困ったものだ。神とやらが襲ってくるなど想定外にも程がある。我々は、あくまでも人間対人間、国対国の規模で戦力を整えているというのに……」
「やはり、今から備えるというのは難しいでしょうか?」
「難しいな。そもそも、どれくらいの兵力を揃えればいいかわからぬ。私のような辺境伯は、独立した騎士団を持ち、防衛に備える権利と義務を持つ。だが、それとて、あくまでも人間あるいは魔物相手の備えだ。どれだけの力を持つかわからぬ、神の尖兵に備えよといわれても方策が立てられんよ」
「そうですか……。そうですよね」
父様でも、無理なものは無理なのだ。
こればっかりは、僕にもどうしようもない。
僕自身が強くなって、それで終わりという問題でもないし……。
「……とりあえず、話は理解した。明日、ミリアムやケイン、アドルなども含めて話し合おうと思う」
「お願いします、父様」
「いや、この話をすぐに伝えてくれて助かったぞ。……まさか、今日明日に攻めてくるということはないだろうからな」
「……そう願いたいですね」
父様の例え話は、本当に洒落になっていない。
そんなことが起きれば、僕たちにはどうしようもないから。
「今日のところはゆっくり休め。明日行う、話し合いの結果次第では、お前にも働いてもらわねばならないからな」
「わかりました。それでは、失礼します」
父様の執務室から退出し、寝室へと戻る。
……さすがに、今回はロキがコンタクトを取ってくることはなかった。
ともかく、重要な事は伝え終わったんだ。
今は、まず体を休めないと……。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
翌日、午前中は自主訓練となったため、魔法の修練に費やした。
最近では、制御の難しい中級魔法の習得は後回しにして、下級魔法を強くすることを念頭に訓練している。
可能な限り素早く、正確に、強く発動するよう回数を積み重ねていく。
そんないつもの修練を終え、家に戻ってくると、父様に呼び出された。
部屋の中には、父様のほかに母様やアドル、ミリアムさん、ケイン先生もいた。
「よくきたな、カイト。まずは、席に着け」
「はい、失礼します」
このメンバーが集まっているということは、話し合いの結果が出たのだろう。
少し緊張しながらも、父様の言葉を待つ。
「ひとまず、昨日の話の結果は出た。それで、カイトよ。お前にやってもらいたいことが、ひとつある」
「はい、なんでしょうか?」
「アドルにミリアム、ケインを連れて、大樹海に迎え。そこでなら、魔物を倒し放題だからな」
僕は父様の説明を受け、耳を疑ってしまった。
大樹海とは、イシュバーン辺境伯領の北部から東部、近隣の貴族や国家との境目に存在している秘境だ。
そこには、多数の魔物や魔獣が生息しており、誰も手が付けられない、そういう地域となっている。
確かに、大樹海に行けば、魔物と戦う機会には困らないだろうけど……その分、危険も増えてしまう。
そんな場所に向かうことになるとは、今まで思ってもみなかった。
「……やはり、不安か? カイトよ」
「はい。さすがに、大樹海となると……」
「うむ。だからこそ、アドルやミリアム、ケインを連れていかせるのだ」
「そういうことでございます。不肖、アドル。カイト様を守る盾となってみせましょう」
アドルが強いことは十分に知っている。
元は他国の出身で、別の国の武術を修めているアドルは、対人戦、対魔物戦、ともに非常に強い。
アーマードギアありでの戦闘ならば、ミリアムさんやケイン先生を倒すこともできてしまうのだ。
「大樹海に向かわせる理由は簡単だ。有事に備えて、コストを貯めておくためだ。コストさえあれば、騎士団を強化することもできるであろうからな」
「私としては止めたいところなのですが……誰にも知られずに魔物を討伐するとなると、大樹海以外に候補がないのです」
父様と母様が理由を説明してくれる。
大樹海まで行けば、人目を気にせず機装をフル活用して魔物狩りに専念できるだろう。
「心配はいりません。いざとなったら、俺たちが守ってみせますよ」
「そうです。カイト様は自信を持って挑んでくだされば結構です」
ケイン先生とミリアムさんも、大樹海行きには賛成のようだ。
こうなると、僕に断る権利はない。
「わかりました。それで、いつ出発すればいいのでしょう?」
「うむ、行ってくれるか。出発は、一週間後の朝としよう。いつもの手段で移動し、いつもの場所で旅立ちの轍と乗り換えてくれ」
大樹海までの移動は、旅立ちの轍を使うらしい。
旅立ちの轍はミリアムさんも動かすことができるようになったし、移動の心配はないだろう。
それに、水や食料なども、虚空の座を使って大量に持ち込める。
そちらについても、問題になることはない。
「表向きの理由は、お前の見聞を広めるための旅、ということになる。本来であれば、エアリスも連れて行くべきなのだが、そういうわけにもいかないのでな。そちらについては、私に任せておけ」
「はい。それで、僕はどうすればよろしいでしょうか?」
「お前は普段取り、特別なことはなにもしなくて大丈夫だ。すべての手配は、我々ですませる」
「承知しました」
「うむ。……それでは、これで会議は終了だ。各自、今日のことは露見しないように注意を払うように」
父様の一言で会議は終わった。
僕は、とくに準備しなくてもいいと言われたけど、なにもしないとやはり不安になってしまう。
……剣の素振りや、魔法の練習をいつもより増やしておこう。
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