16.機装の意味
「やあ、カイト。久しぶりだね」
「……ロキか。相変わらず、呼ぶときはいきなりだな」
「まあね。その気になれば、いつでも呼び出せるんだ。こちらにいる限り、時間も止まっているんだし、問題ないでしょ?」
眠ろうと思い自室に戻ったら、いきなりロキに呼び出された。
……前々から思っていたけど、どうしてロキはどこでも僕を呼び出せるんだ?
「君をいつでも呼び出せる理由だけど、ボク自身に神域と呼べるものを持っていないからさ。どこでもボクの神域でもあるし、そうでもないと言える。どう? 万能でしょ?」
「……そんなのどちらでもいいよ」
相変わらず、僕の思考を読めるらしい。
顔に出ているのか、本当に思考を読み取れるのか……。
「まあ、どちらでもいいよね。君には関係ないし。それで、今日呼び出した理由なんだけど、そろそろ機装を授けた理由を説明しなくちゃ、と思ってね」
……かなり今更な気がするけど、理由があったらしい。
そういえば、ガイア様から浄化の宝杖を頂いた際、神討ちがどうの、と聞いたような……?
「かなりぶっちゃけた話をすると、神様の事情というヤツだね。神様っていうのは、よっぽどな理由がない限り、現世に直接手出しできないんだ」
「よっぽどな理由?」
「そう。たとえば、異界の邪神が現世に現れたとか、異界の悪魔が悪さをしているとか。そういう規模の話にならないと手出しできないのさ」
「どうしてそんなことが?」
神様というのだから、もう少し手助けすることができてもよさそうなのだけど。
だが、ロキは少し深刻そうな顔をして告げた。
「昔、神が直接手出しをした結果、現世がほとんど壊滅しちゃってね。そんな事例があるから、よっぽどのことがない限り、手出しをしなくなってしまったのさ」
確かに、現世、つまり人間の世界を救うための行動で、世界を滅ぼしては意味がない。
神様の力っていうのは、そこまで強いものなんだ。
「そういうわけだから、神々は直接現世に関わることを禁じている。ボクだって、そのルールは守ってるんだぜ?」
「その割には、僕を気軽に呼び出してるけど?」
「君だからね。君は神々から選ばれた『神討つ者』だから、それなりに会えるんだ」
「『神討つ者』?」
いきなり、初めて聞いた単語が出てきた。
その響きから、神様を倒すという意味だと思うんだけど……。
「それで正解さ。『神討つ者』は神様から選ばれた、神殺しに与えられる名前だよ」
「……いきなり、そんなこと言われても困るんだけど……」
「……あー、それについては謝るよ。本当は、最初に会ったときに伝えるべきだった。……ガイアにも怒られたしね」
ロキが伝え忘れていた件は、この際置いておこう。
重要なのは、僕が『神討つ者』らしいことだから。
「それで、君の役目なんだけど……神様を殺してほしい。君の手の届く範囲に来たときに」
ロキがいきなり重い言葉を口にする。
それに、僕の手の届く範囲とは、どういう意味だろう?
「そうだな……、いくつか説明しなくちゃいけないんだけど。まずは、神域について説明しようか。神域とはその名が示す通り、神様の領域のことだ。この領域にいる限り、神は死ぬことがない」
「そうなの?」
「ああ。神域自体が神様みたいなもの、だからね。それ故に、神様は滅多なことでは神域を出ない」
「……ロキは気軽に抜け出してるんじゃ?」
「いちおう、この空間はボクの神域だぜ?」
どうも、そういうことらしい。
とりあえず、神域にいる神様は殺せない。
つまり、僕に殺させる神様は、神域にいない神様、ということか。
「話が早いね。君になんとかしてほしいのは、神域を出て、現世に直接関わっている神様だ」
僕の思考を読んだロキが、応えを告げてくる。
ともかく、ロキが望んでいることはわかった。
「……そんな簡単に、神様って殺せるの?」
「そんなわけがないだろう? 直接干渉すれば、現世を滅ぼしかねない、そんな存在だぜ? 普通の人間では、太刀打ちできるはずもない」
「じゃあ、どうやって殺せばいいんだ?」
「そこで、機装の出番さ。機装というのは、神の力が宿った装備だ。それを使えば、神の領域に手が届く、そう作られてる」
機装の力は、人間が使うには強すぎると思った。
なるほど、神様を相手にするための装備だったのか。
「それで、殺してほしい神……そうだね、『新神』とでも名付けようか。そいつらを相手にするときには、機装を出し惜しみせずに戦ってくれ。そうしないと倒せないのが神だから」
「『新神』? 神様に新しいも古いもあるの?」
「ああ、困ったことに存在するんだ。……いま現在、現世にちょっかいを出している神は、全部『新神』と呼ぶべき、新しく生まれた神々だ。本来なら、そういった神々は、先輩の神によっていろいろ指導してから、現世との関わりを持たせるんだけど……それを破っている神が多くなってしまったのさ」
「その話が本当なら、すでに現世は滅んでいそうなんだけど……?」
僕の言葉も想定内だったのか、ロキは肩をすくませて答える。
「神としての力をほとんどふるっていないからね。自分を信仰している存在を優遇しているだけ、その程度でしかないのさ」
「……それって、問題なの?」
話を聞くだけなら、そんなに危険な行為には思えないんだけど。
「人間からすれば問題ないんだろうけど、神からすれば大問題なのさ。神には神のルールがある。それを多少破っても問題ないんだけど……信仰している人間に『特別な』力を与えているとなると問題でね」
「特別な力?」
「そう。たとえば、君に与えたアーマードギアやライフミラージュの様な装備。神にしか使えないような、奇跡を起こす儀式魔術。新たな生命を作る禁忌の術式。そういったものを人間に与えている神がいるんだよ」
……思ったよりも、事態は深刻らしい。
僕も機装を扱うからわかるけど、この力を自由に使えるとなると、世界のバランスがとれないような気がする。
「気がするんじゃなくて、バランスが崩れるんだけどね。まあ、いまはその話は置いておこう。君はまだまだ神には届かないから」
「……それじゃあ、どうしてこの話を?」
「まずは、ルール説明を忘れていたからだね。本来は、神と戦う意思を確認してから、機装を渡すんだけど、その過程を忘れてしまった。いやはや、面目ない」
つまり、ロキのうっかりと。
初めて会ったときから思ってたけど、この神、どこか人間くさい。
「次に、実際に神と戦う際にサポートするためかな。これを忘れていると、神との決戦の際、ボクらが力を与えられなくなる」
どうやら、実際に神と戦うときは、サポートしてもらえるらしい。
神様がどれくらい強いかはわからないけど、これは嬉しい……のかな?
「最後に、機装を無闇矢鱈と使わせないための忠告だよ。機装の力は絶対的だ。それ故に、悪用するなら、神が直接君を殺す」
「……いきなり、重い話になったね」
「君なら大丈夫だと思うよ。君のお父さんも、そこは弁えているみたいだし」
父上が、機装を使って争いを起こしたりしないことを理解してくれているのだろう。
でも、万が一のときはどうなるのか。
「基本的に、自衛のためなら使ってもらって構わないよ。……それに、この先、君たちを神の尖兵が襲うことだし」
「神の尖兵?」
「……悪いんだけど、説明できるのはここまでだ。君は、この先、戦に巻き込まれる、とだけ覚えておけばいい」
「……わかったよ。これって、父様たちに伝えても?」
「構わないよ。というより、備えてもらわないとこちらが困る」
そうなると、帰ったらすぐに父様に相談だな。
かなり、難しい問題だけど。
「さて、今日のところはここまでかな。……助言を与えるなら、旅立ちの轍とライフミラージュは少し増やしておくといい。場合によっては、君たちの命運を変えることになる。それじゃあ、またね」
ロキが別れの言葉を告げると、僕は自分の部屋へと戻された。
いまの話が本当なら、急いで準備をしなくちゃいけないかもしれない。
すぐに、父様に相談してみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます