第一章 第二部 妖精の奇跡

15.一年後

「そっちに行ったぞ、カイト!」

「了解! はあっ!」


 僕はオーク――豚の頭を持った魔物――をソウルイーターで一刀両断にする。

 アーマードギアを使って森の中を駆け巡っているので、多少距離があっても一瞬で近づいて切り倒すことができる。


 今日は、騎士団に依頼がきていたオークの集落の殲滅へとやってきていた、

 参加者は全部で四人。

 僕と父様、ミリアムさんにケイン先生だ。

 ちなみに、全員アーマードギアをつけているし、ここまでは旅立ちの轍でやってきていた。

 旅立ちの轍には、追加機能として、浄化の宝杖を取り付けることにより、森の中を走ることができる、という離れ業ができる。

 正面にある木々が動いて、道ができていくのだ。

 ただ、通り過ぎたあとは元の森に戻ってしまうので、方向感覚を失えば迷ってしまうのだけど。


 神様たちからもらった機装をお披露目して、一年ほどが経過した。

 その間、父様たちによって、僕は幾度も実戦へとかり出されていて、かなりの数の魔物を倒してきた。

 その結果、かなりの量のコストが貯まり、父様のほかに、ミリアムさんやアドル、ケイン先生にも円環の理やアーマードギアを渡すことができている。

 どうやら、円環の理にはアーマードギアを収納しておく機能もあったらしい。

 そのため、ミリアムさんたちは騎士団に隠れて、アーマードギアを使った戦い方を研究しているようだ。

 研究成果としては、高速移動からの強撃が戦い方のメインになるため、武器の強度が重要視されるようになったらしい。

 また、アーマードギアの出力なら、その気になれば障害物ごと魔物を倒せるため、大型の獲物をサブ武器として用意しているらしい。


 ……そうそう、虚空の座だが、こちらも三つほど複製して父様とミリアムさん、ケイン先生に渡してある。

 それぞれ、戦で必要となる食料や水、武器や鎧などをしまっているらしい。

 でも、容量いっぱいまでしまい込んだという話は聞いていないので、虚空の座は相当な容量を持っているようである。


 そして、五人分の機装が揃ったころから、こうして騎士団に来ている魔物討伐の依頼をこっそりこなすようになった。

 こっそり行うのは、一般の騎士にはまだ機装の存在を知られたくないためである。

 父様は、機装の存在が軍事的なバランスを大きく崩す恐れがあるということで、徹底的に隠匿している。

 その反面、僕が魔物を倒してコストを稼がないと機装を増やすことができないため、こうして、騎士団の依頼の中から少人数でも遂行できそうなものを選び、夜間にこっそりと魔物討伐に出かけているのだ。

 今回も、オークが棲み着いた小規模な集落を殲滅するということで、僕たち四人が行動することとなった。


「ふむ、これでオークたちをすべて討伐できたようだな」

「そのようですね。……しっかし、この魔力感知レーダー? ですかい。こいつは便利すぎやしませんかね?」

「確かにな。目標を設定すれば、目視できない位置にいる魔物を見つけることもできる。万が一逃げ出されても、どの方向にどれだけ移動しているかわかるから、すぐさま追いかけられるしな」

「……まったく、神様の装備様々ですね。普段の鎧で戦うのが馬鹿らしくなりますよ」

「そう言うな、ケイン。この装備の存在は、国にすら隠している最重要機密だ。おいそれと人目にさらすことはできん」

「わかってますよ。ただ、言ってみたくなっただけです。……カイト様も大丈夫ですか?」


 装備の調子を確かめていたミリアムさんとカイト先生だったが、話は終わったらしい。

 それで、こちらの様子を聞かれたが、特に問題ないと答えておいた。


「カイト様も、この一年で大分腕が上がりましたね。森の中のような狭い場所でも、両手剣を振り回して支障がないのですから」

「ありがとうございます、ケイン先生。これも先生やミリアムさんの指導の賜物たまものですよ」

「そう言っていただけると、光栄です。……まあ、こういった場面では、アーマードギアの性能とブーストの魔法に頼りがちなのが注意点ですが」

「……そこは重々承知しています。ただ、こう狭い中を魔物の逃亡を許さないように殲滅するとなると、どうしてもアーマードギアに頼らなければいけないので」

「アーマードギア、本当に高速で移動できますからね。……俺は魔力量が少ないんで、長時間の高速移動はできないんですが」


 そう、アーマードギアで高速移動を行う際には体内魔力も消費してしまう。

 そのため、体内魔力量が決して多めとは言えないケイン先生は、長時間の高速移動が不可能なのだ。


「それも今後の課題だな。ケイン、お前も魔法の訓練に積極的に参加して、体内魔力量の増加に努めるといい」

「……ま、それしかないですかね。ただ、いきなり参加しだして、変な目で見られるのも問題じゃありませんか?」

「そこは問題ないだろう。教え子であるカイト様に抜かれた、ということを名目にしておけ。それで、負けっぱなしは指導役の面目に関わる、とでも言えば疑われないだろうさ」

「……だといいんですがね。それにしても、カイト様は、この一年で魔法も随分成長しましたからなぁ」


 ケイン先生が、僕のことを褒めてくれるが、ちょっと過大評価な気がする。


「やめてください。まだ、基本となる下級魔法を覚えて、実践で使えるようになった程度です。それも、円環の理を使ってやっと」


 あのあと、魔法の習得が思うように進まなかったため、円環の理を使った魔法の習得に方針を変えた。

 そうすると、それまで魔法が発動しなかったのが嘘のように、比較的簡単に魔法を習得することができたのだ。

 ただ、まだまだ、実践で使える魔法は、フレイムバレットやウィンドカッターなどの下級魔法のみで、ある程度以上の魔法を使おうと思えば、呪文の詠唱が必要になる。

 魔法の先生や母様からは、練習の回数を増やして、鍛えていくしかないと言われているので、ひたすら練習を繰り返しているところだ。


「円環の理を使ってでも、きちんとした魔法が発動するなら立派なもんですよ。俺なんて、こいつを使っても、攻撃魔法はあまり使えませんからね」


 ケイン先生がおどけた調子で、自分の現状を教えてくれる。

 先生は、かなり魔法が苦手だと言っていたし、それでも十分なんじゃないかな?


「……さて、あとは、この大量のオークの処理ですね」

「……いつまでも、現実逃避しているわけにはいかねえよなぁ」


 僕たちの周りには、大量のオークの死骸が転がっている。

 オークの肉は食肉用に利用されるため、焼却処分というのももったいない。

 全部で二十八匹ほどいたのだ。

 有効利用したいと思うのは、決して間違いじゃないだろう。


「お前たち、話が終わったなら、これを虚空の座にしまうぞ。明日にでも、私が冒険者ギルドの解体所に持ち込んで解体してもらう」

「それは構いませんが……いいんですか? ほとんどのオークは、カイト様が倒しているんですよ? 本来なければいけない魔石がない、それに気付かれちまいます」

「そこは問題ない。事前に魔石だけは取り出した、という偽装を行っておくからな」

「……領主様がですか?」

「無論、お前たちにも手伝ってもらう」


 父様の言葉に、ミリアムさんもケイン先生も顔をしかめる。

 まあ、とくに問題はないだろう。


「偽装処理は、明日の午前中に行ってしまうぞ。カイト、明日の午前中は剣術の稽古はなしだ。魔法の自主練習か、勉強に充てるように」

「はい、わかりました」


 その後、父様の魔法で冷やされたオークたちを虚空の座に詰め込み、旅立ちの轍を使って、街まで戻る。

 僕たちが担当した案件の中では、割と早めに終わらせることができた。

 軽く汗もかいてしまったし、水浴びをしてから寝るとしよう。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 翌朝、昨日の夜は、魔物駆除作業で寝るのが遅かったため、ゆっくりと寝てエアリスに起こされる。

 エアリスは相変わらず、僕の専属メイドを続けながら、魔法の訓練を受けている。

 無事出産が終わり、体力の戻ってきた母様から魔法を直接教わることもあり、魔法の実力はどんどん延びていっている。

 僕はまだ下級魔法しか使えないのに、エアリスは中級魔法まで覚えているのだ。

 しかも、一部は詠唱破棄で使うこともできるし。

 こればっかりは、持って生まれた才能の差が大きいみたいで、母様も僕には「自分のペースで頑張りなさい」と言ってくれている。

 もっとも、騎士団から来ている先生に言わせれば、オールラウンダーで魔法の習得が難しいはずの僕が、半年ほどで下級魔法を覚えたという事実は、驚愕に値するものだ、と褒めてくれたけどね。


 ともかく、まだ少し眠い目を気合で開け、顔を洗って食道へ移動する。

 食道には、父様と母様、それに僕の妹のミーナが揃っていた。


「おはようございます、父様、母様。それにミーナも」

「ああ、おはよう」

「おはよう、カイト」

「あーうー」


 ミーナは昨年生まれた僕の妹だ。

 プラチナブロンドの髪を、普段の生活の邪魔にならない程度に切りそろえられている。


 ちなみに、ミーナも同席してはいるが、まだまだ離乳食を食べられるようになったばかり、といったところだ。

 家族全員で食事を済ませ、今日の予定を確認する。

 ……といっても、父様が午前中に冒険者ギルドに顔を出す、と言うことくらいしか変わったことはないが。


「ふぅ……。止めはしませんけど、怪我には十分に注意してくださいね。あなた」

「ああ、わかっているとも」


 母様は僕や父様が夜に抜け出し、魔物退治を行っていることを知っている。

 母様も、アーマードギアを所有している人間のひとりだからだ。

 少人数で魔物どもの拠点を襲撃する、そんな危険なことをしてほしくない、と思いつつ、僕のコスト集めのためには仕方がない、と考えているらしい。

 妥協点として、あまり無理はしない、と言うことを約束していた。


 ともかく、朝食の時間は終わり、午前中はフリーな時間となる。

 勉強もいいけど、魔法の練習のほうがしたいかな。

 訓練所に行って練習しようっと。




////



~あとがきのあとがき~



現時点で機装を持っているメンバーです。

(カイト以外)


ファイン(カイトの父):円環の理、アーマードギア、虚空の座

ミリアム(エアリスの父・騎士団長):円環の理、アーマードギア、虚空の座

ケイン(カイトの剣の師匠・副団長):円環の理、アーマードギア、虚空の座

アドル(イシュバーン家家宰):円環の理、アーマードギア

マイラ(カイトの母):円環の理、アーマードギア

エアリス(カイトのメイド):円環の理

ラシル(エアリスの母):円環の理


機装についての情報を知っているのもこのメンバーです。

ラシルに円環の理を渡したのは、防犯上、戦闘力を上げたかったためです。

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