14.新機装のお披露目

 神殿巡りの旅を終え、屋敷へと帰ってきた。

 今回、入手できた機装を確かめるために、全員で父様の帰りを待っているところだ。

 父様にも連絡は行っていたようで、それほど遅くならずに帰ってきてくれた。


「ご苦労だったな、皆。それで、カイトはどのような機装を手に入れることができたのだ?」

「はい、まずは、無難な物から。財神エビス様からいただいた『虚空の座』です」

「……見た目は普通の革袋だな。これの性能は?」

「ほぼ無制限に入るマジックバックだとか。しかも、中に入れた物が腐ったりしないそうです。時間停止がどうの……と、言っておりました」


 僕の言葉を聞いた父様は、苦々しい表情となった。


「……時間停止機能がついたマジックバックか。軍の物資運搬に多大な影響を与えるな」

「はい。できることでしたら、この機装は騎士団にも回していただきたいかと」

「……考えておこう。ちなみに、この機装とやらも無制限に増やせるのか?」

「いえ、確か十個までという話でした」

「……となると、配分が重要か。これについてはあとで話そう。それで、ほかの四柱の神々にはなにをいただいたのだ」


 父様は、残りの四つについても確認したいようだが……、これは困ったな。


「なんだ、どうかしたのか? ほかの機装を出してみるといい」

「ええと、ほかの機装については、ある程度の広さがないと呼び出せないのです。それに、武力に直接関わる物が多いので、人目につくのもまずいかと」

「……そうか。それは確かにまずいかもしれんな。明日は信頼できるメンバーだけで、森の奥地へと行ってみるか」


 森の奥地か、それなら人目につく心配は少ないかも。

 ただ、少人数で行っても大丈夫なのだろうか?


「わかりました。それでは準備を整えておきます。ですが、少人数で行っても問題ないのでしょうか?」

「とくに問題はなかろう。この周囲の森に、我々を害することができる魔物など生息していないからな」

「それでしたら構わないのですが……」

「カイトは慎重よな。過ぎれば臆病とも取られるが、悪いことではない」


 父様から微妙なお褒めの言葉をいただき、この場は解散となった。

 機装の確認に行くのは、今日同行していた、アドル、ミリアムさん、エアリス、それにケイン先生と父様、五名だ。

 ミリアムさんに言わせると、過剰戦力などというものではないらしいので、安心して森を歩くことができるらしい。

 若干、不安は感じながらも、編成が決まった僕は、大人しく自分の部屋に戻った。

 眠ろうとしたら、ロキに呼び出され、今日もらった機装について説明を受けることとなったが……。


 そして、翌朝。

 朝食を食べ終わるころには、全員の姿があった。

 今日の服装は、森の中でも動きやすいようなものになっている。

 エアリスも、似たような服装である。

 全員が揃ったことを確認した後、父様の号令で出発した。

 1時間ちょっと、森の中を分け入ったところで、父様が立ち止まる。


「さて、ここまで来れば大丈夫ではないのか? 新しい機装とやらを、見せてくれ」

「わかりました。それでは、わかりやすいものから。コール、アーマードギア、ナンバーワン」


 僕の呼びかけに応じて、蒼と白で色づけされた、全身鎧が出現した。

 ……実は、昨日の夜、ロキが僕のところを訪れて、新しい機装の基本的な使い方を教えてくれたんだ。

 その際、色も変えられると言われたので、この色に塗り替えておいた。

 ちなみに、呼び出すときの『ナンバーワン』というセリフは、特定機装を呼び出すためのものらしい。


「……これは全身鎧か? 見た限り特別な力があるようには思えないが」

「まあ、見ていてください。イクイップメント、アーマードギア、ナンバーワン」


 僕のコマンドワードに反応して、アーマードギアが起動する。

 全身鎧はバラバラとなり、各パーツが僕のことを覆っていった。

 最後は、兜が頭に被さり、フェイスマスクで顔の部分をガードすれば完成だ。


「おお、自動で全身鎧を身につけることができるのか!」


 全身鎧というのは、とにかく身につけるのに時間がかかる。

 父様は、アーマードギアに全身鎧を身につける手間が省ける、といったことを見いだしたようだ。

 でも、これは神様から授かった鎧だ。

 それだけですむはずもない。


「アーマードギアはただの全身鎧じゃありませんよ。見ていてください」


 僕はアーマードギアの最大の特徴、に火を入れる。

 ブオンという音が鳴ると共に、アーマードギア全体がうっすらとした光に包まれた。


「それでは行きますよ! 目を離さないでください!」


 たぶん無理だろうなぁ、と思いつつ、魔導ブースターによる高速移動を行う。

 狭い森の中を、木々の枝や幹、木の根などの障害物を避けながら、縦横無尽に走り回っているのだ。

 いや、走るという表現も、あまり正しくはなく、が正解か。

 ともかく、アーマードギアの機動性を存分に見せつけ、父様の正面に戻ってくる。


「いかがでしたでしょうか。これが、アーマードギア最大の装備、魔導ブースターになります」

「……まるで、地面を飛ぶように動いていたな。どういう原理なのだ?」

「えーと、ロキに聞いたのですが、個人の魔力と環境魔力を融合させて、機動力を確保しているとかなんとか……」

「まあ、いいだろう。……ちなみに、それは私でも乗れるものなのか?」

「その……、ロキいわく、機装のひとつめは僕専用のものになるらしいです。なので、アーマードギアを生成するまでは無理ですね……」

「ここでも、コスト、とやらの問題か……」

「はい。あと、このあとお見せする機装もそうなんですが、円環の理を持っていないと、動かすだけでも苦労するそうです。円環の理を使って、体内魔力と環境魔力を最大限に増幅させて、やっと動くものもあるそうで」


 僕がそこまで説明すると、簡単に扱えないことに気を落としたのか、父様は少しうつむいてしまう。


「なにはともあれ、まずは、円環の理を量産か。カイト、なるべく早めに、魔物の討伐にいけるよう手配する。その準備と覚悟はしておけ」

「はい、わかりました」

「それから、アーマードギアだったか。普段、先程の鎧を使うことは、基本的に禁止だ。私の許可がない限り、命の危機が迫っているときのみに使用を許可する」

「承知いたしました」


 アーマードギアの性能を、一般の騎士に見せるわけにも行かないからね。

 そこは注意しないと。


「さて、次の機装はどんなものなのだ?」

「次は、ライフミラージュというものになります。少々ではないほど巨大な代物なのですが……まずはご覧ください。コール、ライフミラージュ、ナンバーワン」


 僕の召喚に応じて姿を現したのは、人間の背丈など優に超えている、巨大な鎧。

 中に巨人族が入っている、といわれても納得できてしまうその鎧は、いまは片膝をつき、体を小さく折りたたんでいた。


「……これが次の機装なのか?」


 父様も、この大きさには圧倒されている。

 アーマードギアも、全身鎧ではあったが、あちらは人間サイズだ。

 だが、こちらの鎧は人間の背丈など比べものにならない程の大きさがある。

 ちゃんとこれの扱い方もロキから聞いてきたよ。


「それで、この巨大な鎧はどうやって扱うのだ?」

「少しお待ちを。いまから搭乗して動かして見せますので」


 僕は背部に回り込み、コクピットに乗り込む。

 この機体は複座式。

 ひとりでも動かせるようだが、機能を最大限活かすためにはふたり乗りをしたほうがいいようだ。

 ……もっとも、いまは、ふたり目の目処が立ってないけどね。

 コクピット内に入ったら、生体認証が行われ、即座にシステムが起動する。

 正面を含めた周囲を表示するマルチモニターや、残存魔力量を示すゲージ、細やかな制御をするための操作端末コンソールなど、多岐にわたるアイテムがコクピットに詰め込まれている。

 このまま、駐機姿勢でうずくまっているのも意味がないので、早速、機体を動かしてみた。

 ちなみに、機体を動かす方法は、思考制御? とやらを採用しているらしく、自分の動かしたいように動くそうな。


 さて、ライフミラージュのモニターに映る、皆の姿を見てみると、やはり驚きを隠せない様子だ。

 このまま、ライフミラージュに乗ったままでも話はできるが、やはり、一度下りてから話をする方が賢明だろう。


「どうでしょう、父様。これが巨神機装ライフミラージュです」

「……いやはや、驚いたな。このようなものを授かるとは」

「僕も、もらったときはどう使うのか、まったくわかりませんでしたからね」

「中に人が乗り込んで動かすのだな。……ちなみに、あれもお前専用か?」

「そうなります。ただ、あの機体は複座式といいまして、ふたりで乗り込むことが可能です」


 僕のこの言葉に、父様の目が光った気がする。


「ほほう。もうひとり乗れるとな。それは、私でも構わないのか?」

「大丈夫ですが……、乗るためにはアーマードギアが必要ですので……」

「くっ、ここでもコストの問題か。……やはり、可能な限り、実戦訓練の回数を増やさねば」


 父上の中で、アーマードギアやライフミラージュに乗ることの優先順位が、どんどん上がっている気がする。

 しかし、そんな父上のストッパー役を務めてくれる人物がいた。

 アドルだ。


「旦那様。神々の機装を試してみたい気持ちはわかりますが、ご自身の立場というものをお考えくださいませ」

「アドル……。いや、しかしだな。こういったものは、領主がまず確かめて見るものだと思うのだ」

「最初に確かめるだけならば、ミリアム殿かケイン殿で結構です。旦那様は、安全が確認されたあとにしてください」

「……わかった。そのようにする、だが、カイトの実戦訓練の回数を増やすことは決定事項だぞ」

「そちらには異を唱えません。ゴブリンたち相手に、サポートがついていたとはいえ、大活躍だったようですから。今後は、さまざまな魔物を相手に実戦経験を積み重ねて行くべきでしょう」


 アドルの言葉に、渋々頷く父様。

 ただ、アドルも、僕の実戦訓練には反対しないようだ。


「それで、残りのふたつはどのような機装なのだ? 早く見せてほしいのだが」


 気を取り直した父様が、残りの機装を急かしてくる。

 ……ただ、残りふたつはなぁ。


「わかりました。ここでなら、問題ないでしょうから、残りふたつもお見せします。まずは、コール・セイクリッドフォートレス」


 僕がセイクリッドフォートレスを召喚すると同時、周囲が光の柱に包まれる。

 そして、光の柱が消え去ったあとには、頑強そうな城壁に囲まれた陣地が形成されていた。


「これは一体どうしたことだ? どこかに転移したのか?」

「転移したわけではありませんよ、父様。これが、戦略神アテネ様からいただいた機装、セイクリッドフォートレスです」


 なにも知らなければ、どこかの砦に転移したものだと思うだろう。

 だが、セイクリッドフォートレスは、召喚者のいる場所に、金属の壁に囲まれた防衛陣地を形成する機装なのだ。

 そのことを、皆に説明すると、どこか呆れられた様子だった。


「ふむ……。防衛用の拠点がすぐに築けるのは利点だが……、お前にしか扱えないのであろう?」

「そうなりますね。複製は不可能でしたので」

「となると、お前が前線に行かなくては意味がない代物だ。……いや、緊急避難にはなるか」

「左様でございますね。戦争の際の軍事拠点として運用することを考えるより、カイト様の身を守るための拠点として考えるべきでしょう」

「私もそう思いますね。こんな立派な拠点を自由に作ることができるのはうらやましいですが、そのためにカイト様を危険な目に遭わせるのは割に合いませんよ」


 アドルやミリアムさん、それからケイン先生も前線基地として使うことには反対らしい。

 ちなみに、昨日も一緒だったということでついてきているエアリスは、大人たちの話し合いに加わることができず、少し離れたところで様子を窺っていた。

 

「……それでは、この拠点の運用はカイトに一任、というわけでよいのだな」

「元より、カイト様なしでは用意できませんからねぇ」

「というわけだ。危険を感じたら、すぐに使うように」

「……あー、それなんですけど。このセイクリッドフォートレス、使うための条件がいくつかあるんですよ」


 説明しそびれたので、遅くなってしまったが、セイクリッドフォートレスを展開するための条件を告げる。

 その条件とは、セイクリッドフォートレスの範囲内に、川や山、谷といった障害物が存在しないことだ。

 セイクリッドフォートレスの広さは、ある程度変えられるが、それでも、川辺のような場所に設置するのは難しい。

 そのことを告げると、父様の顔つきはさらに渋くなってしまった。


「……これだけの設備だ。デメリットが少なくないとは思っていたが、そこまでデメリットがあるとはな」

「とりあえず、この機装は使わないようにするのが、ベストでしょうな」


 父様たちの間で認識の一致ができたようなので、最後の機装、旅立ちの轍を召喚する。

 やはり、巨大な金属の塊が目の前に現れたことで、全員が驚きの声を上げた。


「カイトよ。この機装はなんのためのものなのだ? 私には、使い方が全くわからないのだが」

「この機装は、移動用の機装になります。……とりあえず、旅立ちの轍に乗り込んでください」


 旅立ちの轍は、荷台部分のほかに、八人乗りのシート部分が存在している。

 今日は全員、シートの方に座ってもらう。

 もちろん、操縦席は僕だ。


「……それで、これがどうやって動くのだ? この巨大な塊では馬もロバも引くことはできないだろう」

「これは魔力で動くのですよ。見ていてください」


 僕は円環の理で魔力を増幅しながら、旅立ちの轍へと供給する。

 すると、運転席をはじめとする周囲にさまざまな文字が表示され、発進可能となった。

 ゆっくりと、アクセルレバーを踏み込み、旅立ちの轍を動かし始める。

 最初は、このような金属の塊が動き出したことに驚いていた四人だったが、やがて、そのスピードに驚くこととなる。

 セイクリッドフォートレスの内部を走っているため、全速力は出せないが、それでも、馬車に比べると二倍以上速い。

 とりあえず、セイクリッドフォートレスを一周してきて、旅立ちの轍の試乗は終わりとなった。


「……カイトよ。これもお前以外には操縦できないのだよな?」

「二号機を用意できれば問題ないかと。ただし、ライフミラージュや旅立ちの轍のような、大型の機装はコストが高いので簡単には用意できませんが……」

「なるほど、わかった。コストの問題については、考えがある。いまはまず、円環の理をいくつか用意してくれ」

「わかりました、父様。そちらを優先的に用意します」


 父様いわく、アドルやミリアムさん、ケイン先生にも円環の理は渡したいとのこと。

 ほかにも、信頼できる者たちに貸し与えたいらしい。

 そのため、しばらくは魔物を倒して、コストを集め、円環の理を用意する方向で話がまとまった。


 父様が、最後までライフミラージュにこだわっていたのはご愛敬というものだろう。




////



~あとがきのあとがき~


ライフミラージュの大きさですが、全高10メートル程度です。

大きさの目安としては、初代ガンダムが18メートルですので、約半分になります。

また、胸部にコクピットがありますが、基本は単座式です。

複座式になっているのはカスタマイズの結果です。

(複座式であっても、機体を操縦するのはメインパイロットのみ


……どうして巨大ロボットを出したかったって?

今後の展開にどうしても必要なのだからですよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る