13.神殿巡り
「久しぶりですね、カイン様。エアリスは、邪魔になってないですか?」
「久しぶりです、ミリアムさん。エアリスにはいつも助けられてますよ」
アドルが出発の準備を整えてしばらくすると、ミリアムさんがやってきた。
ミリアムさんは、エアリスの父親で騎士団の団長を務めている。
普段は騎士団の本部で働いているため、会う機会はかなり少ない。
僕が騎士団本部に行っても、ケイン先生が対応してくれるので、滅多なことでは会えない。
「お父様、そんなことより、今日は護衛をよろしくお願いします」
「そんなことよりって……娘の働きぶりが気になるのは、当然だろう」
「もう……カイト様、アドル様。早く馬車に乗りましょう」
「そうですな。今日はよろしく頼みますぞ、ミリアム殿」
「ああ、任せてください、アドルさん」
全員が馬車に乗り込むと、ゆっくりと馬車が動き出す。
今日、行く予定の神殿は五カ所。
まずは、家から一番近い、財神エビス様の神殿から訪問することになった。
財神エビス様は、その名の通り、財産や商売の神様だ。
それ故、神殿も神殿街ではなく、商業区の中に作られている。
神殿の大きさとしても、かなり立派であり、広く信仰されている神様だ。
馬車にしばらく揺られ、エビス様の神殿に辿り着いた。
馬車止めで馬車から降り、神殿内に向かっていく。
中にはかなり大勢の人がおり、本当によく信仰されていることがわかる。
祭壇で祈りを捧げるため並んで待ち、数分後、僕たちの順番が回ってきた。
そこで、祈りを捧げると、周囲が光に包まれ、景色が変わり始めた。
どうやら、エビス様の神域に招かれたようだ。
「よくきなすったな、カイト。わしが財神エビスや」
「初めまして、エビス様。カイトと申します」
「まあ、難しい話は抜きや。ほかの神も待っているさかい、わしの機装を渡してまうで」
エビス様はそう言うと、懐から小さい袋を取り出した。
「これは……?」
「わしの機装、『虚空の座』や。まあ、どないなアイテムかちゅーと、マジックバックやな。聞いたことはあるやろ?」
「はい。見た目よりもたくさんのものを入れられる袋だとか」
「せや。わしの機装は、それの最上位版やな。その中には、ほぼ無制限に物を詰められる。また、その中に入っている限り、温かい物は暖かいまま、冷たい物は冷たいまま、さらに肉や果物、野菜なんかも腐らないという逸品や。まあ、いまはよくわからんやろうけど、時間停止の力が備わっているさかいな」
「ええと……。とりあえず、すごくたくさんの物が入る袋なんですね?」
「せや。その認識でかめへん。ああ、複製できる数は十個までやから、制限には注意したってや。まあ、しばらくは、円環の理を増やすほうが急務やろうが」
「わかりました。ありがとうございます、エビス様」
「ほな、渡すもんも渡したし、これでお別れや。あまり話し込んでいると、ほかの連中に文句言われるでな」
「ええと、わかりました。それでは、失礼します」
「ほななー」
なんとも慌ただしい対面となったが、無事、機装を授かることはできた。
……見た目は革の袋だけど。
そして、周囲の光景が、神殿のそれへと戻る。
「……どうかいたしましたか、カイト様」
アドルに話しかけられて我に返る。
とりあえず、無事に機装をもらえたことは教えないと。
「エビス様から機装を授かりました。詳しいことは後ほど」
「かしこまりました。……それではこちら、寄進になります。お納めを」
「ありがとうございます。またなにかありましたら、お越しください」
神官に寄進を渡し、馬車に戻る。
馬車の中では、いただいた機装の説明をした。
「ほほう、中に入れた物が腐らないマジックバックですか。そいつは、騎士団としては是非ともほしいですな」
「……そうなんですか?」
「カイト様。騎士団というのは、活動するのにさまざまな物を持ち歩かなければいけないのです。たとえば、人間用の食料に飲み物、馬を連れていれば馬の餌。そのほかにも、予備の装備やメンテナンス用の道具を持ち歩くこともあるでしょう」
「そういうことです。カイト様に余裕ができましたら、ひとつかふたつ、騎士団に貸していただけませんかね?」
「うーん、僕だけではなんとも言えません。帰ったら父様にも相談してみます」
「よろしくお願いしますよ、カイト様」
いただいた機装の説明をする間も、馬車は進んでいく。
次に訪れたのは、戦神トール様の神殿だ。
こちらは、戦神の名にふさわしく、騎士をはじめとする戦いに身を置く者たちが信仰している。
エビス様の神殿のように混み合っていることはなく、すぐに祭壇でお祈りすることができた。
「ほう。ロキを急かしてみる甲斐があったというものだ。まさか、こんなに早く来るとはな」
気がつくと、目の前には、筋骨隆々とした人がいた。
「失礼ですが、戦神トール様ですか?」
「いかにも。トールである。……見てわからなかったのか?」
「……申し訳ありません。神像や絵画とはまったく違うお姿でしたので……」
「ふむ? ……なるほど、確かに、これでは気付かぬか……」
トール様は、なんとなくしょぼんとしたように肩を下げた。
ええと、どうすればいいのかな?
「……まあ、それはいいだろう。吾からも機装を授ける」
「……はい、ありがとうございます」
気を取り直したらしい、トール様から機装を授かることになった。
トール様が背後を振り向き腕を一振りすると、そこに巨大な騎士鎧のような物が出現した。
「これが吾から授ける機装『ライフミラージュ』である。使い方は……ロキにでも聞くがいい」
「……ええと、これは鎧ですか?」
こんな巨人が身につけるような鎧をいただいても使いようがない。
だが、トール様は説明するつもりがないようだ。
「鎧と言えば鎧のようなものだ。これは人間が身につけるのではなく、魔力で動かす鎧だがな」
「はぁ……」
「ともかく、詳しい話はロキに聞け。順番待ちをしている、ほかの神々がせっついてくるのだ」
「わかりました。ありがとうございます、トール様」
「うむ。それでは、精進するのだぞ」
トール様が腕を振ると、周囲の景色が再び祭壇の前に戻る。
機装を授かったことを告げたあと、寄進を渡して馬車に戻る。
今回の機装については、よくわからないため、馬車の中での説明も上手くできなかった。
……ただ、ミリアムさんには心当たりがあるらしいが。
戦神トール様の神殿の次は、軍神マルス様の神殿だ。
似たようなご加護を授けてくれる神様のため、信者の顔ぶれは同じように見える。
ただ、ミリアムさんによると、マルス様の信徒は上級騎士などの、指揮官クラスが多いそうだ。
ここでも祭壇で祈りを捧げると、神域へと招かれることとなる。
……なんだか、こうも連続して呼ばれると、ありがたみが段々薄れていくような。
「よくきたな。俺が軍神マルスだ」
「初めまして、カイトと申します」
「うむ。そして、早速ですまないが、機装を受け取ってくれ。……このあとに行くであろう、戦略神からの小言がうるさくて……」
どうやら、神様にも色々あるらしい。
マルス様が手をかざすと、そこに現れたのは全身鎧。
今度は、巨大なサイズではなく、一般的な人間が扱えそうな鎧だ。
「俺から渡す物は『アーマードギア』だ。魔力を使って動かす全身鎧だな。装着者の体形に合わせて大きさを変えるから、お前でも身につけることができるだろう。……本当なら、もっと詳しく説明してやりたいのだが……すまないが、早く戦略神のところに行ってやってくれ」
「わかりました。ありがとうございます。マルス様」
「ああ、達者でな。活躍を期待しているぞ」
別れの挨拶を終えると、祭壇に戻ってくる。
三度目となれば慣れたもので、何食わぬ顔をして神殿から去ることができた。
今回の機装は、それなりに説明できたと思う。
「ふむ、魔力で動く鎧ですか。……魔導王国で研究されているとかいう、魔導鎧みたいなものですかね?」
「ミリアム殿、カイト様は魔導鎧を知りませんよ」
「ああ、それもそうですね。これについては、実際にみせていただく方が早そうですね」
「わかりました。父様から許可がもらえたら、お見せします」
四番目の訪問先は、戦略神アテネ様の神殿。
こちらは、軍や騎士団の団長クラスが主な信徒らしい。
ここの祭壇でも祈りを捧げると、神様の元へと招かれることとなった。
「よく来ました、カイトよ。戦略神アテネです」
「初めまして、アテネ様」
「……さて、ようやく来てくれたことですし、私からも機装を授けましょう。……もっとも、私の機装は、あなたがすでに使っているものなのですが」
すでに使っているもの?
ソウルイーターとかだろうか?
「私が渡す機装は『セイクリッドフォートレス』です。……簡単に言ってしまえば、
「……それは、すごいですね」
「ええ、すごいでしょう? これがあれば、守りは完璧ですよ?」
あの、
よくわからないけど、とてもすごそうだ。
「セイクリッドフォートレスは守りの要。使うタイミングには気をつけなさい」
「はい、わかりました」
「さて、それでは、機装も授け終わりましたし、少しお茶でもいかがです?」
「え? いや、でも、すぐに戻らないと、心配されますし」
「神域にいる間は、現世の時間は止まっていますよ。大丈夫ですので、少しお話ししていきましょう?」
神様の願いを断ることもできず、しばらくアテネ様と話をすることとなってしまった。
一通り話を終えて、ようやく解放されることとなったのだ。
「それでは、がんばってくださいね。我々には応援することしかできませんが、すべてはあなた次第です」
「……それはどういう意味でしょう?」
「あら? ロキからなにも聞いていないのかしら? まあ、そのうち聞くことになるでしょう。いまは、ソウルイーターやアーマードギアといった基本的な機装を扱えるように努力することです。それでは、武運を祈ります」
最後のほうははぐらかされた形になったが、アテネ様との面談も終わった。
あとは、旅神ヘルメス様だけだ。
「ふむ……。先程の、ライフミラージュ、でしたか。あれもそうですが、今回の機装も謎ですね」
「確かに。ソウルイーターや円環の理は、カイト様個人を強くするものでしたが、セイクリッドフォートレスは個人用ではあり得ませんね」
「……そこについても、ロキと話をする必要がありそうです」
「……それがよろしいでしょう。私も、早めにロキと自称する神の正体をつかみます」
「お願いします、アドル」
やがて、馬車は最後の目的地、旅神ヘルメス様の神殿へと辿り着く。
旅神ヘルメス様は、旅の神。
各地を放浪する、吟遊詩人や行商人から信仰されている神様だ。
今回も、祭壇で祈りを捧げたタイミングで神域へと招かれた。
「やあ、ようこそ。カイト=イシュバーン。私がヘルメスだよ」
ヘルメス様は、巨大な金属の塊に座って出迎えてくれた。
それは、なんというか、馬車に似たような印象を受ける。
「さて、早速だが、私の機装を授けなくちゃ。私が授けるのはこれ、『旅立ちの轍』だ」
「……その金属の塊、ですか?」
「ああ、君には金属の塊にしか見えないか。これは……そう、馬車のようなものだよ」
「とてもじゃありませんが、馬では動かせないと思います」
「そうだろうね。これは、馬じゃなく、魔力で動かすのだから。まあ、とりあえず受け取ってくれ」
「わかりました。……ですが、どう使えばいいのでしょう?」
「そうだね。操作方法は、メモを渡すからそれを参考にしてもらえるかな。それでは、君の行く先に幸いあれ」
「あ、ちょっと……」
ヘルメス様は、あちらが話したいことを話し終えると、すぐさま神域を解除したようだ。
強制的に、祭壇の前に戻されてしまい、少し慌ててしまう。
「大丈夫ですか、カイト様?」
「ああ、大丈夫。問題ないよ」
隣にいたエアリスから心配されてしまったが、なんとか体面を取り繕って神殿をあとにする。
馬車の中で、授かった機装について話をするが……アドルもミリアムさんもちんぷんかんぷんだった。
「……金属の塊が走るとはとてもじゃないが思えませんがね」
「しかし、神様から授かったものなのです。動くというのですから、動くのでしょう」
「……こいつも、ファスト様にお願いして見せていただくしかないですねぇ」
「そのようですな」
帰りの馬車の中は、なんとなく重苦しい雰囲気となってしまった。
……さて、色々なものを授かったけど、父様はどう判断するのか。
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