12.複製した機装の行方

「ふむ。つまり、これはカイトの使っている円環の理と同じものだと?」

「そうらしいです。ロキの言う限りは」


 朝食のあと、父様や母様と共に、昨日生成した機装について話をした。

 勿論、実物を交えて。


「まさか、神からの装備が複製できるとはな……」

「依然聞いていた、コストというものはこのために貯める必要があったのですね」

「そうらしいです。ソウルイーターで魔物を傷つけることで力を奪い、それをコストに変換するのだとか」

「なるほど、理屈はわかった。……それにしても、魔石や魔核を吸収してしまうとはな。さすがは、神から授けられた魔剣、というべきか」

「あなた、昨日は魔石の回収はしなかったのですか?」

「ああ、所詮、ゴブリンの魔石が三十個ほどだったからな。こちらに人数も少なかったため、魔石や魔核の回収はせずに帰還した」


 母様からの質問に対し、父様が回答する。

 本来であれば、ゴブリンを倒したあと、魔石と呼ばれる魔物の部位を回収するらしい。

 ただ、この魔石というものは、魔物の心臓付近にあり、回収の手間もかかるため、昨日はまるごと焼き捨ててきた、ということだ。

 父様いわく、ゴブリン程度の魔石では、回収する時間のほうが惜しいそうな。


「……そういえば、昨日、カイトが倒したというホーンラビットはどうだったのです? そちらは回収してきたのでしょう?」

「ああ、そちらは回収してきたが……魔石があったかどうか、確認してはいないな。騎士団に解体を任せてしまってきた。今日、騎士団の元に行く用事もあるし、念のため聞いておこう」

「お願いしますね。……それで、カイト。このふたつの円環の理は、どうする予定なのですか?」


 円環の理をどうするか、か。

 ずっと考えてきたけど、いい考えは浮かばなかった。

 なので、父様と母様に渡すと言ったら、母様から待ったがかかった。


「いまは私が持つ必要がないでしょう。私は身重で、魔法を使う機会は早々ありません。それよりも、エアリスに持たせるのはどうです?」

「私ですか!? 奥様」


 この提案には、同席していたエアリスも驚いた声を上げる。

 だが、母様は理由を説明してくれた。


「エアリスの魔法に関する才能は、群を抜いています。このまま成長すれば、将来的には騎士団の魔導師や魔術士に十分就くことができるでしょう。カイトが使ったときも、魔法を覚える手助けをしてくれたわけですし、使う機会がない私より先にエアリスに持たせるべきです」


 母様の説明は、説得力のあるものだった。

 魔法を覚えるのが非常に遅い俺が、補助具として使えばすぐに覚えられるようになるアイテムだ。

 優秀な結果を残しているエアリスが使えば、さらなる結果が望めるだろう。


「それに、エアリスに使わせることによって、カイトが使ったときとの差も確認できますしね」


 母様は、いろいろ考えているらしい。

 その説明を受けて、逡巡しゅんじゅんしていたエアリスも決心がついたらしい。


「わかりました。ひとつは私が使わせていただきます」

「ええ、よろしくお願いしますね。……それで、カイト。これの使い方は?」


 使い方を聞かれたが、よく考えてみると使い方までは聞いてなかった。


「……おそらく、腕にはめて魔力を流せば大丈夫かと」

「……おそらくですか。まあいいでしょう。エアリス、試してみなさい」

「はい、奥様」


 まずはエアリスから試してみるようだ。

 左腕に円環の理をはめて、魔力を流す。

 すると、円環の理にはめ込まれた石が光を放ち、そして。


『魔力認証を確認。円環の理、使用者を固定します』


 円環の理から、そんな声が響いた。

 エアリスは、驚いて円環の理を外そうとするが、左腕に固定されて外すことができなくなっていた。


「……まさか、外せなくなるとは、思ってもみませんでした」

「はい、僕もです」


 エアリスの左腕に、しっかりとはめられてしまった円環の理。

 最初に放たれた光は収まっているが、エアリスのほっそりとした腕に銀の腕輪はなかなか目立つ。


「申し訳ありません。まさか、こんなことになるなんて……」

「いえ、試させたのは私です。気にしないで結構」

「ですが……」


 恐縮しっぱなしのエアリスの言葉を遮り、母様が僕に問いかけてくる。


「カイト、円環の理はまだ作れるのですよね?」

「はい。いまは、コストが足りないそうですが、円環の理は何個でも作れるそうです」

「……そういうわけですので、私はまた今度もらうことにしましょう。あなた、カイトの実戦訓練をもう少し増やしてあげてくださいな」

「わかった。それでは、私も身につけてみようか」


 父様が、エアリスと同じように左腕にはめたあと、魔力を流す。

 先程のエアリスと同じ声が響いたあと、しっかりと父様の左腕に固定されたようだ。


「……うむ、これで大丈夫なようだな。さて、どの程度、魔法を使いやすくなったのか」


 父様はそうつぶやきながら、手のひらを上に向けて開く。

 おそらく、ライトの魔法を使うのだろう。

 少しして、父様の手の上に作られた光の球は、目が眩むほど強い光を放っていた。


「……む、かなり手加減したつもりなのに、これか。これは加減が難しいな」

「……あなた、これ以上の練習は、騎士団の訓練場でお願いします」

「そうだな、そうしよう。……それで、カイトよ。ロキ神から頼まれたのは、神殿を巡り、神々とまみえてくることだったか」


 いきなり魔法を試したことで、母様の怒りを買った父様が、話題を変えようと話しかけてきた。

 ただ、どちらにせよ、決めておかなければいけないことなので、そのまま話題に乗ることにする。


「はい。神々が待っていると聞きました。とくに早く来てほしいのが、軍神マルス様、戦神トール様、戦略神アテネ様、財神エビス様、旅神ヘルメス様、の五柱だそうです」

「そうか。神々の願いとなれば、早めに叶えるべきであろうな。カイト、今日の訓練は中止にして、神殿を巡ってこい。供にはアドルとミリアムをつけよう。エアリスも、カイトと供に神殿を巡ってくるといい」

「かしこまりました、旦那様」

「承知いたしました。それでは、私は準備をしてまいります」


 父様から指示を受け、アドルが部屋を出て行った。

 馬車の手配に行ったのだろう。

 そちらの準備はアドルに任せて、僕も出かける準備をしなくちゃ。

 さて、エアリスに頼んで衣服を整えよう。

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