11.機装生成

 なにはともあれ、僕たちによるゴブリンの集落排除はうまくいった。

 父様いわく、もう少し早く倒せるようになるのが理想、らしいが、今回でも十分に早かったと思う。

 あと、ゴブリンの集落を調べて回ったが、人間を襲ったような痕跡は見つからなかったそうだ。

 ゴブリン族は、人間を殺し、その装備を奪う性質があるらしい。

 今回戦ったゴブリンたちは、皆、粗末な木の棒や棍棒しか使ってこなかったため、人を襲ったことはないだろう、と判断された。

 実際、集落の中には小屋のようなものしかなく、そこに被害者の遺体などはなかったのだから。


「さて、今日の出来事をまとめておかないと……」


 僕はしばらく前から、日記……というほどでもないが、訓練内容などを書き溜めた本を用意している。

 その日にどんな内容の訓練を行ったかは、これを見れば一目瞭然だ。

 今日の内容は、ホーンラビットの討伐とゴブリンの集落の排除、だな。


 訓練内容を記そうとすると、机の上に光る箱が置かれていることに気がついた。

 ……ああ、これはロキがまた呼び出そうとしているのだな。

 あれでも神様らしいし、無視するわけにもいかないので、箱を手に取りその蓋を開けた。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


「いやあ、ゴブリン戦の様子は見させてもらったよ。ホーンラビットに苦戦したとは思えないほど、手際よく倒せていたじゃないか」

「それはどうも。それで、ゴブリンを倒したときに、なにかが体に流れ込んでくる感覚があったけど、あれもやっぱり、ソウルイーターが、コストというのを吸収していたのかな?」

「ご察しの通りだよ。ソウルイーターで魔物を傷つけると、その魔核と魔石から力を奪い取ることができるんだ。トドメを刺せば、魔核と魔石を完全に吸収して、すべての力を奪うことができるね」


 やっぱり、そう言うことか。

 それじゃあ、ホーンラビットろ戦った時、浅く傷をつけただけで動きが鈍ったのは。


「ご明察。ホーンラビットに傷をつけたことで、その力を奪い取ったのさ。力の強い魔物ならともかく、ホーンラビット程度の弱小魔物だと、浅く傷つけられただけでも、かなりの力を失うからね。動きが鈍るのも当然さ」


 僕の考えを読み取ったらしいロキが、質問する前に答えを返してくる。

 うんうんと、首を縦に振りながら語る様は、なんとなくだけど、挑発されているような感覚を覚える。


「さて、ホーンラビットは一匹しか倒さなかったわけだけど、ゴブリンはそれなりの数を倒したね。これなら、円環の理をひとつ作り出すには十分なコストが貯まっているはずさ」


 日中のゴブリン退治で、それなりのコストが手に入っていたらしい。

 それを使って円環の理を、新しく生成できるようだ。


「それじゃあ、機装の増やし方を教えようか。まずは機装格納庫チャンバーに移動しようか」

機装格納庫チャンバーに移動って言われても、やり方がわからないよ」


 前に、機装格納庫チャンバーをもらった記憶はある。

 だけど、どうやって扱うかまで、説明は受けていない。


「おや、説明をし忘れていたかな? 機装格納庫チャンバーに入りたければ、『チャンバーオープン』と唱えれば大丈夫だぜ」

「本当に?」

「本当だとも、試しに唱えてご覧」

「わかったよ。チャンバーオープン」


 僕がキーワードを唱えると、目の前に巨大な扉が現れ、その中に吸い込まれる。

 気がついたときには、ロキに初めて連れてこられたときと同じ、機装格納庫チャンバーの中にいた。


「なあ、言った通りだろう? これからは自由に機装格納庫チャンバーに入ることができるぜ?」

「……前の時点で教えてくれていれば、その時から自由に入れていたけどね」

「まあ、そうだが、その時は機装も全然なかったからね。入れても意味がなかっただろう」


 ……悔しいけど、その通りだ。

 始めてもらった機装は、ガイア様からいただいた『浄化の宝杖』。

 そのあと、テミス様から『円環の理』をいただいた。

 その前の時点では、セイクリッドティアしかなかったので、ここに来る意味自体がなかったというのは正しい。


「そんなに難しく考えるのはよそうぜ。それより、いまは、円環の理を作らなくちゃな」


楽しそうなロキに引っぱられて辿り着いたのは、ひとつの円柱の前。

円柱の中には、円環の理と同じ形をした腕輪が浮いている。


「これが、機装生成機さ。これに、必要なコストを支払うことで、機装を増やすことができるんだ」

「……そうなのか? でも、どうやって、コストを支払えばいいのかな?」

「そのコンソール……石版のところに手を当ててみてくれ」


 ロキの言葉に従い、円柱の途中についている石版の上に手を当ててみる、すると……。


『認証を開始します。……認証完了。カイト様、ご用件をどうぞ』

「円柱が喋った!?」

「まあ、僕たち神が作ったものだからねー。難しく考えても、あまり意味はないよ?」


 神様ならなんでもあり、そう言わんばかりのセリフだけど、実際そんな感じだから手に負えない。

 こちらを見てニタニタ笑っているロキに、次の操作方法を教えてもらうことにした。


「次はなにをしたいかを言葉で告げれば大丈夫さ。そのあとは、ガイド……円柱の指示にしたがっていればいい」


 なんとも投げやりなセリフだけど、そういうものだと割り切るしかないだろう。

 今回の目的は、円環の理を生成することだから、それを言えばいいのかな。


「円環の理を新しく作りたいんだけど、可能か?」

『オーダー了解。円環の理の新規創造。残りコストを確認……確認完了。現時点でのコストをすべて使用した場合、円環の理をふたつ創造することが可能です。いくつ創造しますか?』


 どうやら、いままで稼いだコストでふたつは作ることができるらしい。

 ならば、ふたつ作ってしまえばいい。

 ……と思っていたとき、ロキから忠告が入った。


「円環の理は、かなり少ないコストで作ることが可能な機装だけど、それでもコストは消費するぜ? コストは一度消費すると、また貯めない限りは増えていかない。ふたつ作っても構わないと思うけど、コスト管理は慎重に行わないと、あとで困ることになるよ」


 ふたつ作ってしまうと、コストはほとんど残らないらしい。

 でも、現時点では、作ることができる機装は円環の理しかない。

 なので、ふたつ作ることにした。


『オーダー了解。円環の理をふたつ創造します。…………創造完了。こちらをお受け取りください』


 石版部分が横に開き、奥から、僕の左腕につけているものと同じ腕輪が出てきた。

 装飾もほとんど一緒だし、これが新しい円環の理なのだろう。


「さて、コストを使って、新しい機装を作れることが確認できたし、今度は作った機装をどうするか? って話をしなくちゃな」

「うん。僕が、円環の理を三つ持っていても意味がないよね?」

「ああ。意味がないね。というより、複数の同じ機装が同時に力を発動させることはないからね」


 やっぱり、僕がふたつつけるという案は意味がないらしい。

 となると、これはどうすればいいのだろう?


「さて、機装だけど。君がつけているオリジナル以外の機装は、君の仲間たちに渡すための物さ。つまり、今日作った円環の理は、君の仲間の誰かに渡さないと意味がないね」


 仲間、仲間か。

 そんな相手はいないんだけど……。


「仲間がいないなら、君の父上や母上、それから君の世話をしてくれているメイドさん、そのあたりに渡してみるのはどうかな? 機装すべてに共通する性質として、機装の力でオリジナル所持者を傷つけることはできない、というのがあるから、安心だよ?」


 相変わらず、こちらの心を読み取って、的確な答えを返してくる。

 となると、やっぱり、この機装を渡す相手は、決まっているだろう。


「誰に渡すかも決まったみたいだね。それじゃあ、機装の生成方法についての説明は以上だよ」

「ありがとう、ロキ。助かったよ」


 僕の感謝の言葉に、ロキは楽しそうに微笑みながら話しかけてくる。


「なーに、君の手伝いをするのが僕の趣味だからね。気にしなくていいよ。……そうそう、ほかの神々からせっつかれているんだけど、そろそろ、魔法神と地母神以外の神様にも会いに行ってくれないかなぁ? いつ来るんだ、いつ来るんだ、ってボクのところに話が来るんだよね」

「……それはすまないことをしたかな」

「そう思ってくれるなら、早めに行動してほしいな。とくに、軍神マルス、戦神トール、戦略神アテネ、財神エビス、旅神ヘルメス。この五人には早めに会いに行ってあげてよ。君に渡したい機装があって、ウズウズしているからさ」

「わかったよ。父様に相談して、早めに神殿に行けるようにする」

「頼んだよ。それじゃ、今日はこの辺で。またね、カイト」


 ロキが指を鳴らすと、あたりが光に包まれ、やがて僕の部屋へと戻された。

 ただ、僕の右手には、円環の理がふたつ握られている。

 つまり、先程のやりとりは、紛れもなくあったということだ。


「……とりあえず、円環の理を渡すのは明日でいいか」

 今日はもう夜遅くになってしまっている。いまから、父様のところを訊ねるのは気が引けてしまう。

 明日でも困ることではないし、明日の朝に相談してみよう。

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