0.滅神セイクリッドティア

このお話は未来の話です。

どの程度未来かと言えば第一章の終わりのあたり。

いろいろ謎だらけでしょうがお付き合いください。


////


 ふむ、今回ロキが選んだ少年はなかなか聡明なようで結構。

 ほかの神々が干渉しているかどうかは知らぬが、力を得て振り回すことしか知らぬ猿では困る。

 だが、ロキよ、ライフミラージュの説明もせずに返すのはどういう了見だ?

 神との争いとなれば、あれの存在は必須だというのに。

 ……まあ、時期が来れば、ほかの神々も動き出すか。

 私の出番まで大人しく、ここで待つとしよう。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 さて、あれが神の尖兵か。

 人を模した巨兵、偽りの神。

 私が対峙するべき相手だが……まずはカイト=イシュバーンの出方を見るとしよう。

 あの程度の神気しか持ち合わせていない、偽神にすら負けるようでは、この先も勝てないからな。

 さて、どうでるか。


「あのさぁ、セイクリッドティア。見物もいいけど、君も働いてくれないかな?」

「む、ロキか。いつからここにいた?」

「ずっと前から様子を見てたよ。……あれ、神の尖兵だよね? 君が出て行かないと、そうそう倒せない相手でしょ?」

「かもしれぬ。だが、あの程度の存在、私なしでも倒せねば……」

「いや、さ。あれに宿っている神気を見て話をしてるんだろうけど。ライフミラージュには、まだ神気が宿っていないんだよ?」

「む? それはどういう意味だ?」

「言葉通りの意味さ。ライフミラージュは、神から与えられた機装のひとつではある。でも、神々は機装に神気を与えることができなかったんだよ」

「つまり?」

「神気が宿っていないライフミラージュに、神気が宿っているあの木偶人形でくにんぎょうを倒すのは難しいよ」


 なんと、機装には神の力が宿るのではなかったのか?

 ……ふむ、確かに、こちらの攻撃が、一方的に神の防壁に弾かれているな。

 宿っている神気の量を考えれば、こちらにも神気があれば軽々と引き裂けるはずだが。


「あの木偶人形を作ったデミノザも考えているよね。神気を防壁にしか使わないことで、一方的に攻撃できる環境を整えてる」

「……悔しいが、そのようだな。それで、ロキよ。どうするのだ?」

「だから、君の出番でしょ? 君なら神気を奪って、その力であれを切り裂く、その程度は簡単なはずだよ」

「……まあな。だが、カイト=イシュバーンは私を使おうとしていないぞ?」

「単純に君を使うって発想がまだないからじゃない? だって、君、自分の役割を説明していないでしょ?」


 む……そう言われれば、そうだったかも知れぬ。

 このまま戦わせても、ライフミラージュのマナが切れるほうが先か。


「……仕方があるまい。直接、カイト=イシュバーンに呼びかけるか」

「そうしてよ。君が働かなかった結果として、カイトが負けたらそれはそれで大問題なんだから」

「承知した。さて、それでは、始めるとしよう」


 私は意識を集中し、カイト=イシュバーンに語りかける。

 あちらも、それに応じ、私を使う気になったようだ。


「これで、安心できるよ。それじゃあ、またね」


 ロキの気配が薄くなり、その姿も消え去った。

 戯曲神ロキ。

 ほかの神々とは違い、定められた力を持たぬもの。

 ゆえに、自在に人の世へ渡れる神。

 信用はできぬが、目的が一致している限りは、問題ない……か?


「コール、セイクリッドティア!」


 どうやら、私の出番が来たようだ。

 さて、一暴れするとしよう。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 カイト=イシュバーンの駆るライフミラージュが、私を手に取り、木偶人形相手に身構える。

 ……ロキの奴が両手剣である魔剣ソウルイーターを渡していたがゆえ、その様は歴戦のつわものに劣らない。

 木偶人形は、こちらの攻撃が一切通らないことで油断しているな。

 守ろうという意思をまったく感じられぬ。

 こちらにとっては、とても好都合だが。


 カイト=イシュバーンとともにライフミラージュに乗っている魔術師が、木偶人形に向けて魔法を放つ。

 それらはすべて防壁で遮られるが……どうやら、一方的に攻撃を受けているのは嫌らしい。

 回避行動を取り始めたが、鈍重だな。


「いまだ!! いくぞ、セイクリッドティア!!」

『応!』


 カイト=イシュバーンは、ブースターを全開にして突撃をかける。

 相手の機動力を考えれば最善に近い一手だ。

 無論、あちらも迎撃に入るが……遅すぎるな。


 こちらにあわせるように振り下ろしてきた右手の剣。

 それに対し、カイト=イシュバーンは私を振り下ろした。

 私は振り下ろされるまま、相手の神気をむさぼり、破壊の力へと変換する。

 それにより、木偶人形の右腕は容易く切り飛ばされることとなった。


(尖兵とはいえ、所詮は形を整えられただけの木偶か。相手にならぬな)


 カイト=イシュバーンは相手の左腕も切り落とす。

 その後、木偶は逃げようとしたが……私の前からは逃げられなかったようだ。


(初めての機装戦と考えれば上出来か。カイト=イシュバーン、悪くはないな)


 まだまだ未熟とはいえ、よわい九つの人の子だということを考えれば上々であろう。

 さあ、神狩りの始まりだぞ、カイト=イシュバーン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る