1.五歳の誕生日

新連載、初めてのハイファンタジーものになります。

よろしくお願いいたします。

1週間は毎日更新、そのあとは隔日更新の予定です。

どうぞお楽しみください。

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「やあ、ようこそ。カイト=イシュバーン。待っていたよ」


 光が収まって目を開けてみると、僕の前にはひとりの子供がいた。

 子供と言っても、僕よりは幾分年上で、着ている服や見た目からだと性別はわからない。

 服は、僕のものよりも上等だが、見慣れないデザインだった。

 僕は行ったことがないけど、王都とかではあのようなデザインが流行っているのかな?


 どうして僕が、このような状況になっているのか。

 その理由は、数分前に遡る。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 朝日を浴び、目を覚ます。

 窓からは気持ちのいい朝日が、室内を照らしている。

 今日は僕の五歳の誕生日だ。


 僕は今日から五歳となる。

 父上や母上からは、神殿での祝福を受けた後、身内でのひっそりとしたパーティを執り行うと聞いていた。

 さて、メイドのエアリスが起こしに来るのはもう少し先だし、もう少し寝ようかな……。


「うん? あれはなんだ?」


 部屋にあるテーブルの上、そこで小箱のようなものが微かな光を放っていた。

 寝る前にはこんな小箱は置いてなかったと思うんだけど……。


 この小箱、言うまでもなく怪しい。

 誰がなんのために、ここに置いたのか。

 あまりにも怪しすぎるのだけど、僕は不思議と警戒心がわかなかった。


 ベッドから起き出し、テーブルへと向かう。

 テーブルの上は整理されており、微かに光る小箱以外はなにもなかった。

 僕は、この小箱に手を伸ばし、小箱の蓋を開けてみる。

 すると、小箱の中から光があふれ出し、僕の視界を覆っていった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 そう、いつの間にか僕の部屋に置かれていた、謎の箱。

 それを開けた途端、視界が真っ白になり、この不思議な空間へと辿り着いたのだ。

 そして、状況は冒頭の続きに戻る。


「カイト=イシュバーン、僕の話を聞いているのかな?」

「……確かに、僕はカイト=イシュバーンだけど、君は誰? そして、ここはどこ?」

「……ああ、自己紹介がまだだったね。僕は……そうだな、『ロキ』、そう呼んでくれたまえ。本名、という訳ではないが、この世界の人間からはそう呼ばれることが多いからね」


 ロキ、そう名乗る人物は、にっこりと微笑みながら僕のことを見ている。

 なんとなくだけど、その微笑みは、こちらを見定めているような気がする。


「うん? よくわからないけど、ロキでいいのかな?」

「ああ、構わないよ。そして、ここなんだが、ここは機装格納庫、『チャンバー』と呼ばれる場所さ」

「機装格納庫? 機装格納庫チャンバー? よくわからないよ」

「だろうね。これは君たちの概念には存在しないだ。個人が行使するや、魔術士たちが行使するとは、規模も原理も異なるものだから」


 この世界にはが存在している。

 一般的に個人が扱うものを『魔法』、大人数で扱うものを『魔術』、そう呼んでいるって聞いたことがある。


「それで、ロキは僕をここに呼んでどうしたいの?」

「そうだね。いくつかあるんだけど……まずは、五歳の誕生日、おめでとう、と言っておこうか」

「えっと、ありがとう」

「君が無事に五歳まで成長してくれてよかったよ。もし、君が五歳の誕生日を迎えられなかったら、また新しい適合者を探さなくちゃいけないから。そうなると、それに何年かかるか……」

「適合者? 適合者って?」


 また新しい言葉が出てきた。

 ロキのいう言葉の半分くらいは、意味がよくわからない。


「ああ、いまはあまり難しいことは考えなくてもいいよ。君はボクたちが探し求めていた適合者で、無事に五歳を迎えることができた、ってことさ」

「よくわからないけど、とりあえず、わかった」


 詳しく話を聞きたいけれど、なんとなく話が進まなくなる気がするので、スルーしておいた。

 ロキもにっこり微笑んで、話を続け始める。


「うん、そうしてもらえると助かるよ。それで、初めに、君にいくつかプレゼントがある。それを受け取ってもらえるかな」

「プレゼント? なにかもらえるの?」

「まずはこれだ。『魔剣ソウルイーター』。使い手と共にあり、その魔力で成長する魔剣の一種だね」

「……魔剣って、とっても高いものだと聞いているけど」


 この世界には『魔剣』や『聖剣』と呼ばれる武器が実在しているって聞いたことがある。

 その力はさまざまで、中には国を一夜で滅ぼす力がある武器もあるそうだ。

 そんな武器を、気軽にくれるというのは、なんともうさんくさい。


「ああ、確かに魔剣は非常に高価だ。まして、この魔剣ソウルイーターは、人間基準で判別すると神話級の魔剣ということになる。その価値は小さな国ひとつ以上になるだろうね」

「……そんな高価なものいらないよ」

「そんなこと、気にしなくていい。確かに神話級の魔剣だが、君以外には使えないようになっているから。というか、君が手放すことができない、と言い直すべきかな」

「……よく、わからないのだけど」


 手放すことができないとは、どういう意味だろう。

 そんな物騒なもの、いらないんだけどな。


「まあ、君専用の強力な武器が手に入ると思ってくれれば大丈夫さ。それに、魔剣ソウルイーターは、すでに君の物になってしまっているからね」

「え?」

「体の奥底から、魔力を剣の形に形成し、自分の剣として握るところを想像してご覧」

「えっと……それって、魔法を使うってこと?」

「似て非なることだね。プロセスとしては、非常に近いけど」

「……よくわからないけど、魔法の使い方はまだ習ってないからわからないよ」

「おや? 魔法には興味がなかったのかい?」

「興味がなかったわけじゃないけど、魔法の発動は、暴走した場合に押さえ込む人がいなくちゃいけないからって、まだ練習させてもらってないんだ」

「なるほどなるほど。それじゃあ、仕方がないか。ボクのほうで君の魔力を操作するから、リラックスして受け入れてくれたまえ」

「え?」

「さあ、始めるよ」


 ロキの言葉通り、僕の中にある力のようなものが動かされているのが感じ取れた。

 いま動いている力が、僕の魔力なのかな?

 魔力は全身を駆け巡り、やがて、僕の目の前で渦を巻き、ひとつの剣を形作る。

 その剣は、漆黒の刀身を持つ片刃の両手剣だった。

 剣のサイズは、僕の身長に合わせたかのように、ぴったりなサイズだと思う。

 ……剣の稽古も、五歳になってから本格的に始めるということだったので、いままでは走り込みや素振りしかやらせてもらってないけど。


「さて、魔剣ソウルイーター、完成だ。手に取ってみてくれ」

「うん、わかった」


 僕は目の前に浮いている魔剣ソウルイーターを手に取り、構えてみる。

 そう、魔剣ソウルイーターを持っただけで、どのように構えたらいいのかが頭に浮かんだんだ。

 ある種、気持ち悪さもあるけど、頭に浮かんだ構えや剣の振り方をなぞるように、一通り試してみた。

 この魔剣、想像以上に扱いやすいかも。


「うん、ソウルイーターについては問題なさそうだね。それじゃあ、一度ソウルイーターは仕舞ってもらおうか」

「ええと、どうやったら仕舞えるの?」

「君が魔力を分解して、その魔力を体内に吸収するイメージをすれば大丈夫だよ。……とは言っても、最初は難しいか。よし、最初の一回はボクのほうで魔力操作をするよ。君はその流れを、体で覚えるんだ」

「うん、わかった」


 ロキが再び僕の魔力を操作して、魔剣ソウルイーターを分解する。

 魔剣ソウルイーターが宙に浮くと、魔力の塊に分解され、その魔力の塊は、僕の中へと吸い込まれていった。

 どうやらこれで、魔剣ソウルイーターを仕舞うことはできたらしい。


「こう言っちゃなんだけど、君は魔剣ソウルイーターの鞘としての役割を果たすようになった。魔剣ソウルイーターは、魔力を注ぎ込めば、純粋な切れ味だけでたいていの物を切り裂ける魔剣だ。それを使う相手を間違えちゃいけないよ」


 なんとも物騒な武器だけど、僕専用になってしまっているなら仕方がないと思った。

 僕もこの先、魔獣や魔物と戦う機会は必ずやってくるのだから。


「わかったよ、ロキ。それで、話はこれだけなの?」

「いや、君に渡す物はもうひとつ……いや、最初から居座っているもいるから、あとふたつ渡さなくちゃいけないかな」


 ロキからもらえるプレゼントは、これだけじゃないみたい。

 ただ、ソウルイーターを軸に考えると、なんとなく物騒なものを渡されそうな雰囲気。


「あとふたつもなんだ。それで、なにがもらえるの? 今度は鎧とか?」

「残念だけど、鎧はこれから渡すものの機能を使って自分で作ってほしい。君に渡すふたつ目のものは、機装格納庫チャンバーだ」

機装格納庫チャンバーって、いまいる場所だよね。ここをもらえるの?」


 こんな広い場所をもらっても、いろいろと困る。

 掃除とかもしなくちゃいけないだろうし、管理が大変だ。


「ああ。この機装格納庫チャンバーは、時空と時空の狭間に作られた、機装を格納しておく格納庫。正確には、君は機装格納庫チャンバーのマスターとなり、自由に出入りできる権限と、機装格納庫チャンバー内にある機装を作ったり改造したりする権利が与えられる。そういったところかな」

「……よくわからないけど、それって凄いの? それに、こんなに広い場所を掃除とかするのって大変じゃない?」

機装格納庫チャンバーはとある神が直接作った神器だぜ? それの使い手に選ばれるのは、とても光栄なことだと思ってくれ。あと、掃除は必要がないよ。汚れたり破損したりしたら、周囲の魔力を取り込んで勝手に修復するから」


 やっぱり、ロキのいうことはイマイチよくわからない。

 ただ、ロキに聞き返しても、まともな回答はもらえない気がする。


「わからないけど、わかった」

「最初は実感がわかないだろうし、実際なにもないからな。機装格納庫チャンバーで装備……機装って言うんだが、それを作るための方法はまた今度教えるよ」

「うん、よろしく。それで、もうひとつって?」


 ロキが言っていたもうひとつのプレゼント。

 それについて聞いてみると、ロキはあからさまにめんどくさそうな顔をした。


「あー、まあ、案内しないわけにもいかないよな。この機装格納庫チャンバーには、すでに最初からひとつの機装が保管されているんだ。それを、確認しに行こう」

「わかった。ロキ、案内してくれるんだよね?」

「もちろん。……個人的には、あまり会いたくないんだけどな」


 歯切れの悪い反応を返すロキだったけど、ちゃんと目的地までは案内してくれるらしい。

 なにもない、倉庫のような空間を歩くこと暫し、刀身だけで8メード(8メートル)はありそうな、強大な両手剣が立てかけられている場所に辿り着いた。

 そこには古代文字でなにかが書かれていたけど……生憎、僕には読み解くことができなかった。


『ほう、その小僧が我が主となる適合者か、ロキ』


 台座の文字を確認していたら、直接頭に響くように、言葉が流れてきた。

 正直、少し頭がいたくなる。


「ああ、そうだよ。彼の名前は、カイト=イシュバーン。よろしくしてやってくれ」

『カイト=イシュバーンか。カイト=イシュバーン、私は『セイクリッドティア』。『滅神セイクリッドティア』だ。今後、我が力が必要になったときは遠慮なく使え』


 自分を滅神セイクリッドティアと名乗った大剣は、身動きこそしないが、威風堂々と機装格納庫チャンバーの一角を占領していた。

 でも、使えと言われても、こんな巨大な剣を扱う方法なんてないと思う。


『どうした、カイト=イシュバーンよ。浮かない顔をして。なにか悩み事か?』

「えっと、セイクリッドティアを使うには、僕の体は小さすぎると思うんだ」


僕の身体は決して恵まれた体格じゃない。

身長だって、ようやく一メード(一メートル)に届いたくらいしかないんだ。

とってもじゃないけど、こんな巨大な剣を持ち上げることなんてできないよ。


『そのことか。私は基本的に『ライフミラージュ』で扱う事を、前提に作られているからな。人間が生身で振るうのは難しいだろう。……もっとも、私の魔力を操作することで、一時的にサイズを変えることも可能だが』

「ええと……『ライフミラージュ』? 『ライフミラージュ』ってなに?」


 また知らない単語が出てきた。

 ロキのほうを振り向いてみると、肩を上げて首を横に振っていた。


『む。ロキよ。『ライフミラージュ』の説明もしていないのか?』

「一度にあまり多くのことを説明しても、覚えきれずにパンクしそうだからね。機装については、入手方法も含めて追々説明していくよ」

『そうか、それならばよい』


 よくわからないけど、セイクリッドティアとロキの間では話がまとまったようだ。

 ……あ、そろそろ、部屋に戻らないとまずいような。

 エアリスが起こしに来る時間を、とっくに過ぎている気がする。


「どうしたんだい、カイト。急にうろたえだして」

「そろそろ僕の部屋に戻らないと、エアリスが起こしに来る時間なんだ。悪いけど、この続きはまた今度でいいかな?」

「……そうそう、説明が漏れていたな。機装格納庫チャンバー内は時空の狭間に作られているから、この中にいる限り、外の時間は経過しないよ。だから、慌てて戻らなくても大丈夫さ」

「そうなんだ。でも、今日はもうそろそろ、帰りたいな。一度にたくさん教えられても、覚えきれるかどうか、わからないし」

「……ふむ、それもそうだ。それでは、この続きは次回の講釈で教えよう」

「お願いするよ、ロキ」

「ああ、戯曲神ロキ。その願いを聞き届けよう。それではまた、そう遠くない未来で」


 ロキのセリフが終わると同時に、また目の前が光によって真っ白に染まっていった。

 そして、ロキって戯曲神だったんだな……

 神様のことなんて、いままで気にしたことがなかったよ。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 元いた場所、つまり僕の部屋に戻ってきたら、早速だけど、魔剣ソウルイーターを取り出してみる。

 自分の体内の魔力を集めて、剣の形にするのに15分くらい時間がかかったが、無事に魔剣ソウルイーターを具現化することができた。


 だが、僕はこのとき、大事なことを忘れていた。

 それは……


コンコンコン。

「カイト様、失礼いたします。そろそろ起床の時間と……」

「あ……」

「え、カイト様が抜き身の剣を!? 一体どこで手に入れたのですか!?」



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いつもお読みいただきありがとうございます。

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