1.五歳の誕生日
新連載、初めてのハイファンタジーものになります。
よろしくお願いいたします。
1週間は毎日更新、そのあとは隔日更新の予定です。
どうぞお楽しみください。
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「やあ、ようこそ。カイト=イシュバーン。待っていたよ」
光が収まって目を開けてみると、僕の前にはひとりの子供がいた。
子供と言っても、僕よりは幾分年上で、着ている服や見た目からだと性別はわからない。
服は、僕のものよりも上等だが、見慣れないデザインだった。
僕は行ったことがないけど、王都とかではあのようなデザインが流行っているのかな?
どうして僕が、このような状況になっているのか。
その理由は、数分前に遡る。
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朝日を浴び、目を覚ます。
窓からは気持ちのいい朝日が、室内を照らしている。
今日は僕の五歳の誕生日だ。
僕は今日から五歳となる。
父上や母上からは、神殿での祝福を受けた後、身内でのひっそりとしたパーティを執り行うと聞いていた。
さて、メイドのエアリスが起こしに来るのはもう少し先だし、もう少し寝ようかな……。
「うん? あれはなんだ?」
部屋にあるテーブルの上、そこで小箱のようなものが微かな光を放っていた。
寝る前にはこんな小箱は置いてなかったと思うんだけど……。
この小箱、言うまでもなく怪しい。
誰がなんのために、ここに置いたのか。
あまりにも怪しすぎるのだけど、僕は不思議と警戒心がわかなかった。
ベッドから起き出し、テーブルへと向かう。
テーブルの上は整理されており、微かに光る小箱以外はなにもなかった。
僕は、この小箱に手を伸ばし、小箱の蓋を開けてみる。
すると、小箱の中から光があふれ出し、僕の視界を覆っていった。
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そう、いつの間にか僕の部屋に置かれていた、謎の箱。
それを開けた途端、視界が真っ白になり、この不思議な空間へと辿り着いたのだ。
そして、状況は冒頭の続きに戻る。
「カイト=イシュバーン、僕の話を聞いているのかな?」
「……確かに、僕はカイト=イシュバーンだけど、君は誰? そして、ここはどこ?」
「……ああ、自己紹介がまだだったね。僕は……そうだな、『ロキ』、そう呼んでくれたまえ。本名、という訳ではないが、この世界の人間からはそう呼ばれることが多いからね」
ロキ、そう名乗る人物は、にっこりと微笑みながら僕のことを見ている。
なんとなくだけど、その微笑みは、こちらを見定めているような気がする。
「うん? よくわからないけど、ロキでいいのかな?」
「ああ、構わないよ。そして、ここなんだが、ここは機装格納庫、『チャンバー』と呼ばれる場所さ」
「機装格納庫?
「だろうね。これは君たちの概念には存在しない
この世界には
一般的に個人が扱うものを『魔法』、大人数で扱うものを『魔術』、そう呼んでいるって聞いたことがある。
「それで、ロキは僕をここに呼んでどうしたいの?」
「そうだね。いくつかあるんだけど……まずは、五歳の誕生日、おめでとう、と言っておこうか」
「えっと、ありがとう」
「君が無事に五歳まで成長してくれてよかったよ。もし、君が五歳の誕生日を迎えられなかったら、また新しい適合者を探さなくちゃいけないから。そうなると、それに何年かかるか……」
「適合者? 適合者って?」
また新しい言葉が出てきた。
ロキのいう言葉の半分くらいは、意味がよくわからない。
「ああ、いまはあまり難しいことは考えなくてもいいよ。君はボクたちが探し求めていた適合者で、無事に五歳を迎えることができた、ってことさ」
「よくわからないけど、とりあえず、わかった」
詳しく話を聞きたいけれど、なんとなく話が進まなくなる気がするので、スルーしておいた。
ロキもにっこり微笑んで、話を続け始める。
「うん、そうしてもらえると助かるよ。それで、初めに、君にいくつかプレゼントがある。それを受け取ってもらえるかな」
「プレゼント? なにかもらえるの?」
「まずはこれだ。『魔剣ソウルイーター』。使い手と共にあり、その魔力で成長する魔剣の一種だね」
「……魔剣って、とっても高いものだと聞いているけど」
この世界には『魔剣』や『聖剣』と呼ばれる武器が実在しているって聞いたことがある。
その力はさまざまで、中には国を一夜で滅ぼす力がある武器もあるそうだ。
そんな武器を、気軽にくれるというのは、なんともうさんくさい。
「ああ、確かに魔剣は非常に高価だ。まして、この魔剣ソウルイーターは、人間基準で判別すると神話級の魔剣ということになる。その価値は小さな国ひとつ以上になるだろうね」
「……そんな高価なものいらないよ」
「そんなこと、気にしなくていい。確かに神話級の魔剣だが、君以外には使えないようになっているから。というか、君が手放すことができない、と言い直すべきかな」
「……よく、わからないのだけど」
手放すことができないとは、どういう意味だろう。
そんな物騒なもの、いらないんだけどな。
「まあ、君専用の強力な武器が手に入ると思ってくれれば大丈夫さ。それに、魔剣ソウルイーターは、すでに君の物になってしまっているからね」
「え?」
「体の奥底から、魔力を剣の形に形成し、自分の剣として握るところを想像してご覧」
「えっと……それって、魔法を使うってこと?」
「似て非なることだね。プロセスとしては、非常に近いけど」
「……よくわからないけど、魔法の使い方はまだ習ってないからわからないよ」
「おや? 魔法には興味がなかったのかい?」
「興味がなかったわけじゃないけど、魔法の発動は、暴走した場合に押さえ込む人がいなくちゃいけないからって、まだ練習させてもらってないんだ」
「なるほどなるほど。それじゃあ、仕方がないか。ボクのほうで君の魔力を操作するから、リラックスして受け入れてくれたまえ」
「え?」
「さあ、始めるよ」
ロキの言葉通り、僕の中にある力のようなものが動かされているのが感じ取れた。
いま動いている力が、僕の魔力なのかな?
魔力は全身を駆け巡り、やがて、僕の目の前で渦を巻き、ひとつの剣を形作る。
その剣は、漆黒の刀身を持つ片刃の両手剣だった。
剣のサイズは、僕の身長に合わせたかのように、ぴったりなサイズだと思う。
……剣の稽古も、五歳になってから本格的に始めるということだったので、いままでは走り込みや素振りしかやらせてもらってないけど。
「さて、魔剣ソウルイーター、完成だ。手に取ってみてくれ」
「うん、わかった」
僕は目の前に浮いている魔剣ソウルイーターを手に取り、構えてみる。
そう、魔剣ソウルイーターを持っただけで、どのように構えたらいいのかが頭に浮かんだんだ。
ある種、気持ち悪さもあるけど、頭に浮かんだ構えや剣の振り方をなぞるように、一通り試してみた。
この魔剣、想像以上に扱いやすいかも。
「うん、ソウルイーターについては問題なさそうだね。それじゃあ、一度ソウルイーターは仕舞ってもらおうか」
「ええと、どうやったら仕舞えるの?」
「君が魔力を分解して、その魔力を体内に吸収するイメージをすれば大丈夫だよ。……とは言っても、最初は難しいか。よし、最初の一回はボクのほうで魔力操作をするよ。君はその流れを、体で覚えるんだ」
「うん、わかった」
ロキが再び僕の魔力を操作して、魔剣ソウルイーターを分解する。
魔剣ソウルイーターが宙に浮くと、魔力の塊に分解され、その魔力の塊は、僕の中へと吸い込まれていった。
どうやらこれで、魔剣ソウルイーターを仕舞うことはできたらしい。
「こう言っちゃなんだけど、君は魔剣ソウルイーターの鞘としての役割を果たすようになった。魔剣ソウルイーターは、魔力を注ぎ込めば、純粋な切れ味だけでたいていの物を切り裂ける魔剣だ。それを使う相手を間違えちゃいけないよ」
なんとも物騒な武器だけど、僕専用になってしまっているなら仕方がないと思った。
僕もこの先、魔獣や魔物と戦う機会は必ずやってくるのだから。
「わかったよ、ロキ。それで、話はこれだけなの?」
「いや、君に渡す物はもうひとつ……いや、最初から居座っている
ロキからもらえるプレゼントは、これだけじゃないみたい。
ただ、ソウルイーターを軸に考えると、なんとなく物騒なものを渡されそうな雰囲気。
「あとふたつもなんだ。それで、なにがもらえるの? 今度は鎧とか?」
「残念だけど、鎧はこれから渡すものの機能を使って自分で作ってほしい。君に渡すふたつ目のものは、機装格納庫チャンバーだ」
「
こんな広い場所をもらっても、いろいろと困る。
掃除とかもしなくちゃいけないだろうし、管理が大変だ。
「ああ。この
「……よくわからないけど、それって凄いの? それに、こんなに広い場所を掃除とかするのって大変じゃない?」
「
やっぱり、ロキのいうことはイマイチよくわからない。
ただ、ロキに聞き返しても、まともな回答はもらえない気がする。
「わからないけど、わかった」
「最初は実感がわかないだろうし、実際なにもないからな。
「うん、よろしく。それで、もうひとつって?」
ロキが言っていたもうひとつのプレゼント。
それについて聞いてみると、ロキはあからさまにめんどくさそうな顔をした。
「あー、まあ、案内しないわけにもいかないよな。この
「わかった。ロキ、案内してくれるんだよね?」
「もちろん。……個人的には、あまり会いたくないんだけどな」
歯切れの悪い反応を返すロキだったけど、ちゃんと目的地までは案内してくれるらしい。
なにもない、倉庫のような空間を歩くこと暫し、刀身だけで8メード(8メートル)はありそうな、強大な両手剣が立てかけられている場所に辿り着いた。
そこには古代文字でなにかが書かれていたけど……生憎、僕には読み解くことができなかった。
『ほう、その小僧が我が主となる適合者か、ロキ』
台座の文字を確認していたら、直接頭に響くように、言葉が流れてきた。
正直、少し頭がいたくなる。
「ああ、そうだよ。彼の名前は、カイト=イシュバーン。よろしくしてやってくれ」
『カイト=イシュバーンか。カイト=イシュバーン、私は『セイクリッドティア』。『滅神セイクリッドティア』だ。今後、我が力が必要になったときは遠慮なく使え』
自分を滅神セイクリッドティアと名乗った大剣は、身動きこそしないが、威風堂々と
でも、使えと言われても、こんな巨大な剣を扱う方法なんてないと思う。
『どうした、カイト=イシュバーンよ。浮かない顔をして。なにか悩み事か?』
「えっと、セイクリッドティアを使うには、僕の体は小さすぎると思うんだ」
僕の身体は決して恵まれた体格じゃない。
身長だって、ようやく一メード(一メートル)に届いたくらいしかないんだ。
とってもじゃないけど、こんな巨大な剣を持ち上げることなんてできないよ。
『そのことか。私は基本的に『ライフミラージュ』で扱う事を、前提に作られているからな。人間が生身で振るうのは難しいだろう。……もっとも、私の魔力を操作することで、一時的にサイズを変えることも可能だが』
「ええと……『ライフミラージュ』? 『ライフミラージュ』ってなに?」
また知らない単語が出てきた。
ロキのほうを振り向いてみると、肩を上げて首を横に振っていた。
『む。ロキよ。『ライフミラージュ』の説明もしていないのか?』
「一度にあまり多くのことを説明しても、覚えきれずにパンクしそうだからね。機装については、入手方法も含めて追々説明していくよ」
『そうか、それならばよい』
よくわからないけど、セイクリッドティアとロキの間では話がまとまったようだ。
……あ、そろそろ、部屋に戻らないとまずいような。
エアリスが起こしに来る時間を、とっくに過ぎている気がする。
「どうしたんだい、カイト。急にうろたえだして」
「そろそろ僕の部屋に戻らないと、エアリスが起こしに来る時間なんだ。悪いけど、この続きはまた今度でいいかな?」
「……そうそう、説明が漏れていたな。
「そうなんだ。でも、今日はもうそろそろ、帰りたいな。一度にたくさん教えられても、覚えきれるかどうか、わからないし」
「……ふむ、それもそうだ。それでは、この続きは次回の講釈で教えよう」
「お願いするよ、ロキ」
「ああ、戯曲神ロキ。その願いを聞き届けよう。それではまた、そう遠くない未来で」
ロキのセリフが終わると同時に、また目の前が光によって真っ白に染まっていった。
そして、ロキって戯曲神だったんだな……
神様のことなんて、いままで気にしたことがなかったよ。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
元いた場所、つまり僕の部屋に戻ってきたら、早速だけど、魔剣ソウルイーターを取り出してみる。
自分の体内の魔力を集めて、剣の形にするのに15分くらい時間がかかったが、無事に魔剣ソウルイーターを具現化することができた。
だが、僕はこのとき、大事なことを忘れていた。
それは……
コンコンコン。
「カイト様、失礼いたします。そろそろ起床の時間と……」
「あ……」
「え、カイト様が抜き身の剣を!? 一体どこで手に入れたのですか!?」
////
いつもお読みいただきありがとうございます。
もしよろしければ感想等お願いいたします。
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