7.基礎訓練 (剣術)
翌朝の日が昇り始めたころ、僕は目を覚ました。
昨日は神様より授かり物をしたり、魔法の基礎を教えてもらったりして慌ただしい一日だった気がする。
今日からは、父様と母様から剣と魔法の練習をさせてもらえることになった。
まだ起き出す時間には少し早いけど、ベッドから起き上がり、服装を整えて井戸へと向かい顔を洗う。
顔を洗ったら、中庭に移動して早速だけどソウルイーターを呼び出してみる。
相変わらずかなり時間がかかってしまったけど、無事に呼び出すことができた。
ソウルイーターは昨日と同じ漆黒の刀身が朝日を反射して輝いている。
こうして見ていると、美しい宝剣にも見えるけど、これはれっきとした魔剣なのだ。
それに、剣について習ったことのない僕でも、この剣の扱い方はわかる。
初めてソウルイーターを手にしたとき、頭の中に直接剣の扱い方や構え方、動き方などが伝わってきたのだ。
もちろん、頭に浮かぶ使い方を、実践できないと意味がないんだけど……それでも、最低限の構え方とかはできる。
なので、試しにソウルイーターを構え、少し素振りをしてみた。
ソウルイーターは両手剣でかなり長い刀身があるのに、そんなに重くない。
これも神様からいただいた魔剣ということなんだろうけど、僕の腕でちょうどいい重さというのは少し不安になってしまう。
そんな風に、ひたすら素振りを繰り返していると、屋敷の中から父様がやってきた。
「カイト、今朝はもう起き出していたのだな。エアリスが探していたぞ」
「本当ですか。……エアリスには申し訳ないことをしたかな」
「あとで謝っておくといい。それで、魔剣を使って素振りか? しばらく屋敷の中から見学させてもらったが、なかなか見事な素振りだったぞ。それこそ、剣を習ったことがない子供の素振りとは思えないくらいにな」
「ありがとうございます。魔剣の扱い方ですが、初めてこの剣を手にしたとき、頭の中に剣の扱い方が伝わってきたのです。僕はその扱い方をなぞっているだけです」
「ふむ、手にしただけで構えや振り方が伝わってきたのか。さすがは、神から授けられた魔剣といったところだな」
「はい。……それで、父様から見て僕の素振りはどうでしたか?」
「先程も言ったが、なかなか鋭かったぞ。まあ、ぎこちないところもあったが、それは今後の指導で改善していくこととしよう」
「はい、よろしくお願いします」
「うむ。それでは、先に朝食としよう。食堂へ向かうぞ」
「はい。わかりました」
剣の稽古の前に朝食だ。
食堂に着くと、そこには母様や幾人かの使用人たちが待っていた。
その中には、エアリスの姿もある。
「カイト様。朝からどこにいらっしゃったのですか?」
「ええと、朝早くに目が覚めたから、先に顔を洗って中庭で素振りをしていたんだ」
「そうですか……、わかりました。今後は朝起こしにいったとき、お姿が見当たらなかった場合、中庭を探させていただきます」
「うん、お願い」
エアリスとの話が終わったら席について朝食をとる。
我が家は辺境伯家ということもあって、それなりに豪華な朝食が並んでいる。
まずは朝食をしっかりと食べて、これからの一日を乗り切るのだ。
「カイト、朝食を食べ終わったら、中庭で少し待っていなさい。剣術の先生を連れて行こう」
「わかりました。でも、父様が教えてくれるのではないのですか?」
「可能な限りそうしてやりたいが、私も仕事があるからな。それに、私の剣術は片手剣用のものだ。カイトの魔剣は両手剣だろう? それならば、両手剣を専門にしている騎士を先生にしたほうがなにかとよかろう」
「わかりました。それでは、よろしくお願いします」
「うむ。それでは、私は騎士団本部に行ってお前の先生役を連れてこよう」
「はい。僕も中庭に行ってお待ちします」
ちょうど朝食も食べ終わったので、僕は中庭に行って素振りの続きを行う。
ソウルイーターは朝食前に消していたので、再び呼び出すところからになってしまったけど、素振りをそれなりの回数はできたんじゃないかな。
朝に比べると、素振りがやりやすくなったし。
「どうだ、ケイン。あれが私の息子だ」
「ほほう。今日から剣術の稽古を始めるにしては、随分と様になった素振りですね」
「そうだろう。我が息子ながら、なかなか才能にあふれているだろう」
「……ファスト様も相変わらずですねぇ。カイト様が生まれたときも、大はしゃぎでしたが」
「む、そのようなことがあったか?」
「ええ、ありましたよ。当時の騎士団員に聞けばすぐにわかることです」
しばらく素振りを続けていたら、父様と一緒に辺境伯騎士団の鎧を着けた人が一緒にやってきた。
その人は、立派な両手剣を背負っている。
「待たせたな、カイト。こいつがお前の先生になるケインだ」
「お初にお目にかかります、カイト様。私は辺境伯家第二騎士団副団長のケインと申します。今日からカイト様の剣術を教える身となります」
「ケイン先生ですね。よろしくお願いします」
ケイン先生はとてもがっしりとした体格をしている。
僕みたいな子供が全力でかかっていっても、揺るぎもしないだろう。
「うむ。それで、ケインよ。まずはなにを教えるのだ?」
「そうですね。まずは基礎体力……といきたいところですが、初日の最初からでは興味を持っていただけないでしょう。まず、構えや素振りなどを教えるつもりでしたが……素振りの様子を拝見させていただいた限り問題ありませんね。それと、その剣はファスト様がお与えになったもので?」
「その剣については、他言無用で願いたい。だが、カイト専用の魔剣であるとだけ教えておこう」
「魔剣ですか。剣術を習ったことのない子供に与えるには立派すぎやしませんか?」
「いろいろと事情があるのだ。……それで、なにから始めるのだ?」
「構えや素振りに問題がないのであれば、練習用の木剣を使い実戦形式で少しお相手をいたしましょう。もちろん、私のほうからは反撃をしませんよ」
「ふむ、それもよかろう。カイトも異存はないな?」
「はい。練習内容はお任せします」
「ほう、ものわかりのいい坊ちゃんだ」
「そうだろう、そうだろう。なにせ自慢の息子だからな」
「……ファスト様の子供自慢が始まると長引いてしまうからな。新兵の訓練所からいくつか木剣を持ってきてあるので、好きな物を選んでください」
「わかりました。……それでは、これがいいです」
僕が選んだのは、ソウルイーターとほぼ同じ長さをした木剣だ。
木剣を持ち上げてみると、ソウルイーターよりも重たく感じる。
やっぱり、ソウルイーターは特別なんだな。
ソウルイーターをケイン先生の前で消すのはしないほうが良さそうなので、ソウルイーターは近くの壁に立てかけておいた。
父様も、中庭から離れて僕とケイン先生の対戦を見ていってくれるようだ。
「さて、それでは対戦開始ですね。先程も言いましたが、今日のところは私のほうから斬りかかることはしないので、カイト様のお好きなように攻めてきてください」
「わかりました。それでは、行きます!」
木剣を構えてケイン先生に斬りかかっていく。
基本の切り下ろしから横降り、切り返しなど続けて攻めるが、すべてケイン先生の木剣で受け止められるかかわされるかしてしまう。
それから、数分間程度斬りかかっていただろうか、僕は体力がなくなってしまい、剣を振ることができなくなっていた。
「ふむ、剣筋は悪くありませんね。ただ、やはり重めの剣を扱うがゆえか、体力不足が顕著になっていますね。まずは、走り込みや素振りで基礎体力を身につけたほうがよさそうだ」
「そのようだな。聞いていたな、カイトよ。まずは、走り込みと素振りで体力をつけるのだ」
「はい、わかりました。よろしくお願いします、ケイン先生」
「ええ、任せてください」
「それでは、後のことは任せたぞ、ケイン。私は自室で仕事をしなければならないからな」
「はい、お任せください」
父様はケイン先生に任せて、屋敷の中へと戻っていった。
残されたのは、ケイン先生と僕だけだ。
「……さて、もう動けますかね、カイト様?」
「……はい、まだ少し辛いですが、なんとかできそうです」
「いやはや、素晴らしい根性ですね。貴族の子供はすぐに音を上げるのですが」
「ええと、ケイン先生。話しづらいのでしたら、普段通りの言葉遣いで構いませんよ?」
「……ああ、言葉遣いが慣れてないことがわかっちまいますか」
「はい。なんとなくですが、違和感がありましたので」
「すみませんね。俺は平民上がりの騎士なもんで、言葉遣いが慣れてないんですよ。団長にも直すように言われているんだが……」
「難しいのでしたら、僕とふたりのときだけでも、いつも通りの言葉遣いで大丈夫ですよ」
「……わかりました。慣れるまでは、普段通りの言葉遣いでやらせてもらいます」
「はい、よろしくお願いします。それで、まずはどうすればいいでしょう」
「そうだな……。まずは、その木剣を背負ったまま、中庭を走ってみましょうか」
「何周すればいいのでしょう?」
「まずは、ぶっ倒れるまでですかね。限界が何周なのかを知らなくちゃいけないので」
「……倒れるまでですか」
「おう。でも、まだ新兵どもの訓練に比べれば楽なんですよ? あいつらの場合は、鎧を着たまま走り込みを行うんですから」
「わかりました。それでは、よろしくお願いします」
「あいよ。ぶっ倒れたら、きちんと助けて差し上げますんで」
その後、僕はケイン先生の指示通り中庭をひたすら走り回った。
十周までは数えていたけど、そこから先は数える余裕がなくなったので何周走ったか自分ではわからない。
でも、ケイン先生の指示通り、倒れるまで走ることはできた。
「ふむ、十六周ですかい。鍛えたことがないにしては、なかなかだな」
「……あ、ありがとう、ございます」
「ふむ、少し待ってくれ。【母なる大地の癒やしの力よ、ここに集まりこの者を癒やせ、《ヒール》】」
ケイン先生の手のひらから優しい光が流れ込んで来る。
すると、先程までとても息苦しかったのに、すぐさまその症状が治っていった。
「俺は低級ですが回復魔法が使えるんですよ。万が一、怪我をさせても大丈夫だからこそ選ばれた、ってところかね」
「いまのが回復魔法ですか。息苦しさも回復出来るなんてすごいですね」
「逆をいえば、俺の回復魔法で回復出来るのは、息苦しさや軽い怪我までなんですがね。さて、走り込みの限界はわかったし、次は素振りの限界ですかね。こっちも倒れるまでだ」
「わかりました。それでは始めます」
ケイン先生の指示通り、木剣で素振りを始める。
こちらも途中までは回数を数える余裕があったけど、段々その余裕もなくなり、やがて立っているのも苦しくなって、膝を突いてしまう。
倒れたところで、ケイン先生がまた回復魔法を使ってくれたけど。
「ふむ、百回は越えたか。いままで鍛えてなかったカイト様がこれほどできるとは、素晴らしいな」
「ありがとうございます、先生。次はどうすればいいでしょう?」
「限界はわかりましたんで、しばらくは基礎体力作りですかね。まずは、とにかく走り込みといきましょう。剣を振るにも、重たい両手剣じゃしっかりとした足腰がないと上手くいきませんのでね」
「はい。それでは、また中庭を走ってくればいいのですか?」
「ええ、今回は十周で一休み入れよう。今日のところはそれを時間の限り繰り返す感じかね」
「わかりました。よろしくお願いいたします」
稽古の方針が決まったら、先生の指示に従いひたすら走り回った。
休憩のたびに先生が回復魔法を使ってくれるので、体力的にはかなり余裕がある。
そんな走り込みと休憩を繰り返すこと五回ほど、稽古の終わりの時間がやってきた。
「……今日はここまでだな。明日からもしばらくは走り込みを続けるが、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。修業の時間以外は素振りとかをしても大丈夫ですか?」
「そうだな……。カイト様の素振りは変なクセもないので大丈夫だろう。無理をしない程度でお願いしますよ」
「わかりました。それでは、今日はありがとうございました」
「おう。それでは明日もよろしく頼むぜ」
こうして、剣の稽古初日は幕を閉じた。
何回か土の上で倒れ込んだりもしたので、埃や泥にまみれていたため、エアリスに見つかった途端、お風呂に放り込まれたのはご愛敬だ。
先人が作り上げた、お風呂用の魔道具で簡単にお風呂には入れるからこそだけど。
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